30話 幕間:冒険者の酒場

「なるほど、しくみはわかりました。」

 ラディの片腕が弓を模り、動きを再現。相変わらず薄い感情表現だが、今楽しんでるのくらいは分かるようになってきた。

「しかし、こんなもので、いりょくが出るのでしょうか?」

「これでも魔法戦闘が普及する前は、遠距離の主力武器だったんだよ。それくらいには威力はあるさ。」


「ところで、もう1つ気になったのですが。」

 弓を腕に戻しながら、ラディが再度。

「さかばって、何で『酒場』なのです?

 みんな、目的はおさけではないのに。」

「まぁ、今も酒も振舞われるけど、メインでない事は確かだよな。

 これは成り立ちが関係してるんだ。」

「さかばの成り立ち?」

「厳密には『今の酒場』の成り立ちだな。

 元々あった酒場が、在り方が変わって今の形になったんだ。」

 一息の間を開け、続ける。

「約700年前…前に話したアスレィが居た頃の時代だ。

 人は別の国の人との戦いに備えてて、魔物対策に割かれる戦力はほとんど無かったんだ。」

「冒険者もいなかった、のです?」

「あぁ、だから民間は自分らで戦って身を護るしかなった。

 けど誰もが戦力になれる訳ではない。

 魔法が不得意な人、治療系の術士、そういった人の分のしわ寄せも行って、辺境部はジリ貧だったんだとか。」

「たたかえる人が、無茶をしてた、と。」

「そ。だからなるべく労力を分担できるように、担当を決めたり情報交換したり、コミュニティが出来上がっていった。

 だけど、雰囲気で回してた、ふわっとした関係性。情報にズレが生じたり、不完全なものだった。」

「つたわる内に、まちがった話がつたわった、と?」

「それもあるし、人から人にの連続だから情報が古くなったりもね。

 だから1つの情報が回された。『各地の代表同士で集まろう』、と。」

「それが今のギルドなのです?」

「そう、だけど場所に難儀した。

 誰かの自宅は『最初から順列を決めてるようなもの』としてダメとされ、だけどそれなりの広さがあって利用できる場所。

 そこで目を付けられたのが、仕事は主に夜、暇してる事の多い『昼間の酒場』だ。」

「さかば自体は、その前からあったんですね。」

「少し栄えた所にある贅沢な店、が当時の酒場だったそうだ。

 情報共有の場として酒場は便利で、店側としても純粋に収益アップ。

 定期的に酒場での会議は行われたわけだ。」

 一息つき、さらに続ける。

「そこに巻き込まれに行ったのが、暇を余した腕自慢だ。噂に釣られて見に行った、とかだろうな。

 ともあれ平穏が退屈なタイプの人らが、会議中の酒場に交じり始めたんだ。」

「それが今の『冒険者』?」

「立場的にはそうだな。

 そいつらにとっては魔物と戦う事自体が道楽であり目的、お気持ち程度の謝礼で戦力となってくれる彼らに、魔物討伐を『依頼』したんだ。」

「だいたい形になってきましたね。」

「もちろん依頼のやりとりも酒場的に収益につながる要素、依頼主も受け手もお得意さん。

 依頼のやり取りが円滑になるよう酒場側もサポートし始めたんだ。

 そうなるといよいよ責任者…今でいうギルドリーダーを据えて、酒場との連携を本格的にした。

 あとは組織として確立するのは時間の問題よ。」

「そのなごりで今も『酒場』と呼ばれてる、と。なっとくです。」

「ま、あくまで成り立ち方の1つだ。全ての国で同じ事が起こった訳じゃないし、違う形でギルドが出来た所もあるらしい。

 けど最も多いものとして、この話になぞらえて各地で『酒場』と呼称が統一されたんだとさ。」

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