26話 合間の休息③

 まだ夕日が深く差し込む夕方、見慣れた酒場。

 いつもはラディと共にだったが今日は一人という、ちょっと奇妙な感じ。普段は1テーブルで完結してた酒場が、今日は広く見える。

 今日も中央付近のテーブルは宴模様。最初見た時は憧れもしたが、現状で手いっぱいな現状、まだ遠いという実感が切なくもある。

 一応、食事場所としては冒険者でなくても利用できる。が、慣れたつもりでも一人でもそわそわする居辛さ。冒険者以外を見なかった事に、納得せざるを得ない。



 注文したのは「雑肉焼き皿」。余った肉や、食用として不向きな肉を集め使った、味よりも安さを重視した一品だ。

 食肉納品で駆け出しとしてはいい収入だったから、あえて注文する事もなかった品。けどやっぱりメニューにある以上は気になるし、頼んでみるならこういう時しかない。


 見た目はよく見るような厚切り肉、だけどたっぷり乗った赤黒いソースの辛い匂いが鼻の奥を鋭く刺し、肉本来の匂いは全くと言っていいほど分からない。

 興味止まぬまま、噛り付いてみる。…硬い。中まで強く火が通った肉はジューシーさをかけ離れ、本来の味もほぼ分からないほど。

 しかし確かに硬いが、噛み応えがあると言えなくもない。なによりしびれるような辛みさ飲み水を手放せないが、肉の味を気にさせる隙間のない濃さ、酸味を交えて食の勢いを衰えさせないソースには、駄肉も無駄にさせないという意地を感じる。



 大方食べ終わったあたりで、隣の席への訪問者。

 この図々しさも、ちょっと久しぶりの感覚。

「よ、少年。調子どーよ。」

「だからその呼び方はどうにかしてくださいよ、コンジュさん。」

 ジョッキ片手にいつの間にか。…酒場では普通の事なのだろうか?

「じゃあ早いとこ通り名決めなって。じゃないとずっと『少年』って呼び続けるぞ?」

「まぁ、考えておきます。

 で、わざわざ話しに来たって事は、何かあったんすか?」

「新人の心配をするのに、理由なんて無粋じゃない。

 依頼の成果を見るに大丈夫そうだけど、一応ね。」

 一応という割には、見透かしてるような静かな確信が見える。

「…成果の上ではそうなんすけどね。ちょっと課題点というか、行き詰まりというか……。」

「なるほど、超えるべき壁に当たったわけね。いい冒険者ライフじゃない。」

「またそうやって茶化して。こっちだって大変なんですよ。」

「そういう苦労経験は多い方が、経験としていい思い出になるし、ね。

 アタシは冒険者的な質問には答えられないけど、先輩は沢山いるんだから、頼っていいんだよ?」

 聞こうにも、ラディの特異性から聞くに聞けず。…だけど頼る事を忘れたというのは、否定できない。

「そうですね、片隅には意識しておきます。」

「新入りに構いたいタイプの人だっているんだしさ。アタシみたいに。

 質問は口実だよ。これを機に仲間は増やしておきな。それがアタシからできるアドバイス。」

 当たり障りのない助言、だけど忙しさで忘れてた事だ。

 とはいえ今日は完全に休日モード、明日からはと決め、今日のところは酒場を後にした。

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