18話 パーティ結成④

 昨日までより一歩踏み込んだ森エリア。やや緑が濃くなってきているが、他はさほど変わりない濃度100エリア。

 今回のターゲットは中型の魔物、シマサキジカのツノの納品。掲示板を見る限り、最も低難度だった依頼だ。


 自然とできていた道を先ゆく黒い背中。エンはかなりの軽装で、武装らしきものは左手の腕輪くらい。それで十分という経験ゆえだろう。

 最低限の目線の動きや絶え間なく耳を動かし物音への警戒、感心してしまうほどの経験の差。

 …本来先頭を取るべき自分より前を取るあたり、余程信用されてないのだろう。



 しばらくして、ターゲットの生息地付近。物音が立つ茂みに入る前に、エンが立ち止まる。

「いい? 手筈通り私が1匹だけおびき寄せるから、その光が合図ね。」

「分かってるってば。」

 そう言い、エンが木に登っていく。


 打ち合わせではこうだ。

 シマサキジカは群れで暮らす魔物。単体でならそこまで強くはないが、下手に手を出して集団で襲ってくると厄介。

 だからエンが高所から索敵、遠隔攻撃で1匹だけ隔離してから戦闘開始。

 その後エンは余計なのが来ないよう周囲警戒を継続、僕とラディで討伐、との事だ。

 …作戦に納得はしてるけど、どうにも試されてる気がしてならない。



 頭上を走る閃光、静寂に響くがさつき音。

 背が高い草で視界が悪い。近付く音に、意識を集中する。

 …速い。けど待ち伏せでアドバンテージはこちらにある。衝突に備え剣を横に、防御の構え。

 激しい衝撃、耐えきれそうにない。あえて力を抜いて、受け流しつつ横に避ける。


 距離を取られ、仕切り直し。茂みから出た事で、その縦縞の茶色い体躯が露わになる。

 いななき、同時にツノから放たれる風魔法の弾。左腕の手甲で弾き、着弾した木に無数の斬撃跡が付く。

 直後の突撃を水状態のラディが捕縛する。が、踏み込んだ勢いを止めきれず、しぶきと共に解かれてしまう。

 だが多少は勢いが落ちたはず。それに位置、タイミング、目視できればやりようはある。

 再び突撃を剣で受け止め、今度は思いっきり踏み込む。勢いを横に流し、体勢を崩させる。できればダウンを取りたかったが、これでも十分。得意な間合い。

 左手に魔力を込め、派手な火花として散らす。威力はほとんど無いが、目くらましにして斬り込む。

 まずは降り下ろしの勢いそのままに足元へ。両前足から機動力を奪う。崩れた所に今度こそラディの拘束。胴回りに絡みつく。

 八方に伸びる水の腕に磔にされ、脚が浮く。余計な事が起こる前に、喉元に最後の一撃を振るう。



 とりあえず目的のツノは回収。残りも持ち帰る為に血抜きを始めた辺りで、エンが降りてくる。

「手慣れてるのね、後処理。」

「まぁ、手伝う事は多かったし、これくらいはね。」

 さくさくと処理を進め、耐水袋へ。…流石に丸ごととなると、ちょっと重い。

「ラディ、そっちの袋頼む。」

「はいです。」

 人型に戻ったラディが、ツノを入れた袋を担ぐ。

 その様子を見てたエンも、強い語調で言い、帰路に続く。

「あの子、登録上は術士よね。肉体変化の禁術? それとも化けてる魔物?

 どっちでもいいけど、隠すなら徹底的に隠してね。厄介事は手いっぱいなの。」

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