9話 繁華の街レミレニア④
その後は、少し奥まった店を回っていった。
観光向けの大通りにもまだ気になる店はあるが、それは後回し。
少し奥まった路地の、武具や薬といった冒険者用の用品店の並び。
全部回りたいのをこらえつつ、とりあえずは最低限の用品を買っていく。
今の所、ラディの眼差しに眼だった変化なし。興味を惹かれるものは無かった様子。
でもダメ元でもとにかく回ってみよう、と思いそのまま店回りを続ける。
そして最後に向かう魔法用具屋。
長杖や短杖、儀式用のダガーといった魔術の補助品が目を引くが、本命は別の棚。
呪符や術玉といった、使い切りの魔法道具たち。
魔法力が低い冒険者が補助で使うための品々。
旅立つ前はお古の剣は安く譲ってもらえたが、消耗品のこれらは見せてもらった事があるだけ。
実際に使われる所は見た事すらない、憧れだった物。
そして一応魔法は使えるとはいえ不得意な自分も、ゆくゆくお世話になるであろう。
ここまではぐっとこらえてメンテナス用品とかの最低限に留めていたが、少しくらいは……。
…いや、だめだとぐっと棚の品に伸ばしたい手をこらえる。
実際に有効な物が分からないまま買いあさるのは無駄遣い、そう自分に言い聞かせる。
少しでも気の紛らわしにと、ラディの様子をうかがう。
…意外だった。さっきまでと違う、好奇の目。
奥まった所の実用品ではなく、目立つ所に置かれた装飾品に対しての。
そのまましばらく観察してると、気付いたラディの方から。
「これは、いったい…?」
そう言い指さした品は、灯す火が奇妙な模様を
「飾り火の蝋燭か。火を灯すとこうして決まった模様を取る、飾りの一種。
この模様は、確かどこかの厄除けだったかな?」
「かざり? これを、みにつけるのです?」
「いや、これは置き飾りだな。具体的には玄関脇に置いて、悪い事が入ってきませんようにって祈るんだ。」
「げんかん……。」
少し考える様子、そしてラディが言葉を続ける。
「これって、本当にきくのです?」
「どうだろうね。ただ、信じる事が大事なんじゃないかな。
これで不安はなくなる、安心だ、って。」
「…よくわからないです。」
そうは言いながらも、時々揺らいで崩れてはまた元の模様に戻る火を、ずっと見つめている。
「気に入った?」
「たぶん、はい。
…これが、『ほしい』ということでしょうか?」
「そしたら、買うんだ。
1本だけなら安いし、さっき薬草売ったお金で足りるんじゃないか?」
ラディが服から小さな布袋を取り出し、中を見る。音からして、硬貨だろう。
「これで、たりるでしょうか?」
渡された袋の中には銀貨が3枚。銀4枚の蝋燭には、少し足りなかった。
でも、まぁいいか、と。これくらいの差額なら、別に自分が出してしまっても。こっそりと自分の財布から、不足分を滑り込ませる。
「大丈夫、これで買っておいで。」
それを聞いてラディの表情が一気に明るくなり、会計に向かっていく。
ラディがカウンターに着いてから不安がよぎったが、問題が起こるまでは見守る事にした。
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