8話 繁華の街レミレニア③

 それから歩いて回ったが、どうにも同じ場所を歩いてるようにしか思えないほど、辺りの建物が似通っている。

 そうして迷う事十数分、見覚えのある看板。どうやら元の場所に戻ってきてしまったようだ。

 そして、まるで見計らったかのように、薬屋の戸が開く。

「あれ、まだいたんですか?」

 約束の用事はもう済んだのに、そう言いたげな視線が痛く刺さる。

「ほら、俺は初めてくる所だからさ。色々見て回ろうとてきとーに歩いてたら、その……。」

「…もしかして、まよったのです?」

「そーだよ、戻り道もよく覚えてなかったんだよ。似たような建物多くて、方向も分からなくなるし。」

 内心、これから冒険が始まると意気込んでただけに、気持ち的につまづきが響く。

 これからどうしようかと考え始めようとしたそのタイミングで、ラディが言葉を差し込む。

「分からないついでにおしえてほしいです。

 おかねって、なににつかうのです?」



「…つまり、お金が何か分からないまま、漠然と集めていた、と。」

 歩きながら話を聞き、なんとなく把握した。

 模倣の一環だろうか、特に深く考える事も無くお金を集めていたという。

「やくそう?をあげたらもらったので、何かをもらえるとはおもうんです。

 でも、なにに使えばいいか……。」

「と、言われてもなぁ……。」

 多少なりとも手助けできればとは思ったが、嗜好の話となると流石に悩む。

 パッと思いついた食い物は、まず違うだろうなと除外する。食性もまだ分かってないし、なにより食の屋台が並ぶ大通りを何度も通ったであろう、そして見たであろうに興味が皆無では、希望は薄そうである。

「わかった。じゃあ、僕を好きに観察しててくれ。

 好き勝手にするから、その中で何か、自分で気になるものを見つけて。

 それくらいしか出来る事がなくて、ごめんだけど……。」

「いえ、十分助かります。ありがとうございます。

 そのかわり、少しなら道のあんないはできるので。」

 その返答の早さに、思考の追いつきが一瞬遅れた。

 強引な話から折衷案にするつもりが即決。ありがたくはあれど、こいつの扱いを掴みきれない。

 …ともあれ、了承は得た。好きにしてていいという理由付けを。

 さっきからうずうずして仕方なかった。話には聞いていた店の並び。

 自分から申し出た手伝いとはいえ、その間を素通りしなければいけないじれったさ。

 競うような美味の香りに耐えるのも、限界を迎えていた。



 気付けば自然と歩は進み、入り口から続く大通り。

 脇目でラディがついてきてる事を確認しつつ、通りすがりに目星をつけた店へと向かう。


 最初に向かったのは、香ばしい香りを放つ元。

 出店の中の1つ、肉料理を中心とした屋台。これみよがしにと鉄板で焼かれる肉の音が、周囲の喧騒をものともせず呼び掛けてくる。

 その誘惑ををそにラディは興味沸かなさげだが、この一時いっときだけはかまうもんか。

 気持ち急ぎ足で、いや、駆け足? どうだっていい。今は、我慢してた欲望のままに。


「おっちゃん、ビバッケ1つ!」

「あいよ。銀3枚だ。」

 メニューの一番上にあったのを、勢いのままに頼む。始めてみる名前の料理だけど、これなら多分間違いはないだろう。

 半分に切られた中空のパンに、こんがり焼き目の付いた薄切り肉と、刺激的なにおいのソースが慣れた手つきで詰め込まれていく。

「これってなんなのです?」

「さぁね。でも、だからこそ探求するのが楽しいんじゃないか。」

「…なるほど?」

「ほらよ。熱いから気ィつけてな!」

 まだ半分納得してないラディをよそに、銀貨を渡しつつアツアツの一品を受け取る。

 そして、近くの席を取り、早速かじりつく。

 …辛い! 鋭い辛さのソースが一気に斬り込んでくる!

 でも、不思議と進む二口目。表面上の辛さの奥の肉汁、そしてこんがり焼けた肉の柔らかさ。

 三口目にはもう辛さに慣れ、透き通る辛さによって引き立てらてた肉のうまみで満たされていく。



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