文学少女編 その3

「よし、こんなところかな」

 帰宅してからおよそ1時間、女の子を迎え入れても恥ずかしくないくらいには片付いた。いや、片付けた。

 普段から片付けないとなって思っててもできないもんだよね、うん。

「まあ、1時間で片付く部屋ならセーフでしょ」

 なんて、一人で納得してみる。ダメかな…。

「そんじゃ、風呂入って、飯食ってさっさと寝よ」

 なにはともあれ、部屋が片付いたことに変わりはない、ので、明日に備えて早めに寝ることにする。



 夕食を終え、ベッドに入った。

「ふわぁ」

 昨夜は、例の小説を読んでいて、ほとんど寝ていない。そんなわけだから、だいぶ眠い。そりゃ、あくびも出る。

 初めて彼女が部屋に来た日の前夜は、さすがになかなか眠りにつけなかったなぁ…、なんて思い出しながらも、眠気に任せて、そのまま眠りに入っていった。



 翌朝。

 カーテンを開けてみると、澄み切った青空が広がっていた。

「うん、いいデート日和だ」

 お部屋デートに天気の良し悪しが関係あるのかって?

 もちろんある、やっぱり本は、人工の明りではなく、自然の光で読むに限る。

 え?デートとは関係ないって?じゃあ、濡れずに済むでしょ?彼女が


 …持ってくる本が。

 ということでここはひとつ。

 まあ、雨でぬれるような状態で持って来たりするはずないけど。

 と、天気が良いことを確認してから朝食をとり、一応それなりの身支度もして、あとは彼女を待つだけ。

 やっぱり、そわそわするなぁと思いながら彼女を待つ。

 そわそわするのは、彼女が来るのが楽しみなのか、小説の続きを読むのが楽しみなのか。まあ、両方ってことにしとくか。

 とまあ、そんなこんなで、いろいろ考えているうちに、玄関のチャイムが鳴る。

「お、来た来た」

 俺は、そそくさと玄関へ彼女を出迎えに。

「いらっしゃい」

「お邪魔します」

 彼女は、陽の光が似合いそうな、真っ白いワンピースに麦わら帽子をかぶって、

「なによ?」

 いるわけもなく、俺は彼女を見つめたまま、そんな妄想にふけっていた。

「いや、お前の私服なんてめったに見れないから、目に焼き付けておこうと思って」

 実際には、白のブラウスにベージュのロングスカート、おしとやかなコーディネートだ。


 いつもは、制服姿しか見ていない女の子の私服って、なんかいいよね?


「別に今でなくても、今日一日ずっと見ていられるでしょ?」

「まあ、そうか…」

 あれ?ちょっと待って。

 今、さらっと、すごいこと言わなかった?ずっと見てていいとかなんとか。

 いや、例の小説に夢中になって、彼女の私服どころではなくなるような気もするけど。

「それより、入るわよ?」

「あぁ、ごめん」

 玄関でずっと立たされたままだった彼女が、俺の横をすり抜け家の中へ。

「先に部屋に行ってて。お茶飲むでしょ?取ってくる」

「うん、ありがと」

 そして、彼女は部屋へ、俺は…階段を上り部屋へ向かう彼女のうしろ姿、もとい私服姿を目に焼きつけてからキッチンへ。



 用意しておいた麦茶とコップを持って、自分の部屋に向かう。

「お待たせ」

「あ、そこに置いといて」

「ここは、お前の部屋じゃないんだけどなぁ」

 すでに彼女はくつろぎモードだった。それこそ自分の部屋にいるかのように。

「だって、この椅子、座り心地良すぎるんだもん」

「まあ、そうでなきゃ困る」

 くつろいで本を読むために買った、ちょっと値の張る椅子。適度なクッションにリクライニング機能付き。ずっと座ってても腰が痛くなりにくい、そんな設計がされているらしい。

 確かに、一日中座っていることもよくある、それでも腰が痛くなったりしたことはない。

「この椅子に座って本を読むために来ているようなものだし」

「そこは嘘でも、俺と一緒にいたいからとか、言ってくれたらいいのに」

「大丈夫、20%くらいはそんな思いもあるよ?」

「せめて50%はください」

「そっか、50%でいいのか、ふぅん」

 ちょっと含みのある言い方で、からかうように俺の目を見つめながらそんなことを言う彼女。

「お、俺だって、小説の続きを読みたい気持ちがだいぶ大きいからなっ」

 さすがに、ちょっとドキッとさせられた。

「じゃあ、お互い様ってことにしておいてあげる」

 と言うと、そっぽを向いて、本に目線を戻した。その時、ちらっと見えた彼女の耳がほんのり赤かった。

 恥ずかしいなら、らしくないキャラ演じなくてもいいのに。

 かわいいからいいけど。

 それより、早く小説貸してくれないかな…、続きが気になるよ。

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