第208話

 飛びそうになる意識を無理矢理繋ぎ止め、薄目を開けて、アルフェは高速で水面に近付く自分の身体を認識していた。風景が横にスライドしていき、透明度の低い川の水が目前に迫る。沈む直前に思い切り息を吸い込んだのは、咄嗟の判断だった。

 無数の細かい泡に包まれたアルフェの身体は、水の中に入っても勢いを失わなかった。アルフェは一瞬、上下の感覚を失ったが、沈むのを止めようと必死にもがいている内、浮かぶ瓦礫の隙間から、光の差す川面が見える事に気が付いた。

 アルフェは泳ぎが苦手だ。というよりも、泳ぐことに慣れていない。戦いの最中に湖や川にたたき落とされた経験はあるが、泳ぐという経験はほとんど積んでこなかった。今も、手や足で水を掻いているのだが、なかなか思う様に浮かび上がる事が出来ない。


 レニ川は圧倒的な水量を持つ大河だ。一番幅のある地点では、対岸が霞んで見えない事すらある。それに比例して、深さも相当なものであった。表面は穏やかとは言え、実際に入ってみると、それなりに流れも速い。

 魔獣の出現により、他の魚たちは逃げ散ってしまったようだ。泳いでいる生き物は見当たらず、底の方で、黒っぽい水草が流れに揺られているだけだ。


 こんな事なら、泳ぎも練習しておくのだったと頭の片隅で後悔しながらも、アルフェはようやく要領を掴んできた。不格好だが、手と脚をばたつかせて、彼女は頭を水面に出した。


「ぷはッ!」


 久しぶりの空気である。それを思う存分吸い込んで、アルフェはどうにか魔獣の行方を探し始めた。

 魔獣は、相変わらず港の方にいた。首が不自然に揺れているのは、アルフェの攻撃が決して無駄では無かったということだろう。そして魔獣の側でも、自分に痛みを与えた人間の行方を探していたようだ。


「――――!!」


 アルフェと魔獣の目が合った。

 魔獣は市街の方から這いずるように向きを変え、次に、その巨体で低く飛んだ。


「――ぶえッ!?」


 堤防を越え、市街にも降りかかる程の大波が発生した。魔獣が川に飛び込んだせいで、穏やかだった水面が滅茶苦茶になる。その中で、アルフェは再び沈んでしまわないよう、浮かんでいた船の残骸にしがみついた。アルフェだけでなく、沈められた二隻の船の生き残りが、川のあちこちで悲鳴を上げている。

 魔獣が川に戻ったのは、言うまでも無くアルフェを追撃するためだろう。さっきまで見境無く暴れていた魔獣にとって、今はアルフェが唯一の敵になったのだ。


「ぐっ!」


 巨大な影が、水中を泳ぎ回っている。当然のように、地上にいる時よりも魔獣の動きは機敏だった。アルフェは水に浸かった下半身に押し寄せてくる殺気と寒気を感じながら、何とか船の残骸の上に這い上がった。

 水面の波はまだ収まっていない。激しく揺れる船の残骸の上で、アルフェは四つん這いになっている。

 その頃、港の方では波が引いて、更にぐちゃぐちゃになった瓦礫の中を、フロイドとゲートルードが走っていた。我を忘れて呆然としている市民を叱咤し、港や堤防にいる負傷者を救出するため、行動を呼びかけていた。

 しかし、いつまた魔獣が川から這い上がってくるか知れない。

 圧倒的な暴虐を前にして、人々の脚は竦んでいた。


 それでも、フロイドたち以外にも、ちらほらと港に入り込み、瓦礫をどかして負傷者を担ぎ上げる市民の姿が見え始めた。男と女、若者や老人。性別も年齢も様々だ。

 そんな彼らに共通していたのは、ただ一つであった。

 彼らは皆、あの少女が戦う姿を見て、感じたのだ。人間にとってどうしようも無いと思われる災厄の前でも、それに立ち向かって、あくまでも戦おうとする者が居るのだと。


 もちろん、船の残骸にしがみついているアルフェには、その風景は見えない。しかしもとより、彼女に諦める心は微塵も無かった。

 アルフェは揺れる残骸の上で立ち上がると、精神を集中して平衡を保った。


 ――……七、六、五――。


 彼女が頭の中で数えているのは、水中の影が自分に到達するまでの時間だ。


 ――四、三、二、一!


 カウントがゼロになった瞬間、水中が異様な程に盛り上がり、そこから無数の牙が生えた口が飛び出してきた。魔獣は船の残骸を易々と飲み込むと、再び水中に潜行した。


「――ふぅッ!」


 アルフェは無事だ。彼女は魔獣が攻撃を仕掛けてくる直前に跳んで、別の足場に移っている。彼女の今度の足場は、普通には立って居られないような、細長い木材だ。

 水面はまたしても激しく揺れている。だがアルフェは足を縦に揃え、さっきよりも上手にバランスを取っていた。そこに向かって、魔獣が再度攻撃を仕掛ける。しかしやはり、アルフェは事前に次の足場に跳び乗っている。

 アルフェと魔獣のそのような攻防は、何度も何度も繰り返された。戦いが始まった時は早朝だったが、日は少しずつ高くなっている。港や堤防で怪我人の救出に当たる人の数も増え、組織的な救助が行われ始めていた。


「た、助けて」


 そして怪我人は、川の中にも浮かんでいた。アルフェに助けを求めたのは、撃沈させられた船の乗組員だ。彼は水の冷たさにかじかむ手で、何度も襲い来る波に必死に耐えていた。

 その声を聞きつけたアルフェは、彼がしがみついている樽に跳び移った。樽は半分に割れていて、二人分の重さは絶対に支えられないように見えたが、少女が片脚で着地しても、樽は僅かに沈んだのみだった。

 しかしである。アルフェが側にやって来たからと言って、それでどうやって、岸から遠く離れたこの地点から、船員を救出しようというのだろうか。魔獣は今も、アルフェに狙いを付けて水中を泳ぎ回っている。例えば、アルフェが泳いでこの男を岸まで運ぶことは、確実に不可能だ。

 負傷している船員は、水中でかなりの血を流していた。そんな彼にとって、少女に向かって「助けて」と口にしたのは、ほとんど本能の行為であった。

 彼の意識は朦朧として、少女の顔も良く見えなかった。ただ、少女の長い髪が、その背後に見える太陽を反射して、美しく輝いているのだけは見えた。


「フロイド――ッ!!」


 船員のしがみつく樽に乗ったアルフェは、あらん限りの大声で臣下の名を叫んだ。水中で激しく動き回ったせいで、変装に使っていた洗髪料が剥げ落ちている。アルフェの髪は、くすんだ灰色から銀色に変わっていた。

 一秒ほど遅れて、港で瓦礫を撤去していたフロイドの耳に、主人の声が届いた。

 彼が咄嗟に声のした方角に顔を向けると、アルフェは既に、船員の首根っこを捕まえて、水中から彼を引き上げ、大きく振りかぶったところだった。


「おいおいおいおいおいおい――!!」


 フロイドは意味の分からない声を出しながら、瓦礫をそこにいたゲートルードに押しつけた。

 それと同時に、今から投げるぞなどとも言わず、それどころかフロイドの位置もまともに確認せず、アルフェは船員を力一杯に放り投げた。そして、水中から飛び出てきた口を、側転するように跳んで避けた。

 アルフェに投擲された船員は、ぐったりとしたまま大きな放物線を描いた。フロイドは慌てて走りながら、着弾点を予測した。両脚から滑り込むように、彼は船員の身体を、衝撃を殺して受け止めた。


「馬ッ――!! …………!?」


 馬鹿野郎と、川の上に居る、無茶ばかりする主君を罵ろうとした彼だったが、その文句は、次の負傷者が放り投げられた事で途切れた。


「マジかよ」


 しかも今度は、勢い余って船着き場を飛び越え、倉庫の壁に激突するような軌道を描いている。

 逆に、これで死んだらどうするんだ。俺が最初の声を聞いていなかったらどうするんだと思いつつも、フロイドはアルフェの願いを汲み取って走った。

 取りあえず、アルフェは港の周辺に向かって、手当たり次第にぽんぽんと負傷者を投げ込んでくる。フロイドは救助作業をしている市民たちを押しのけ、飛び越えるようにしながら、港を何往復もして、飛来する負傷者を受け止め続けた。

 そして彼の息が切れ始めた頃に、ゲートルードが大声を出した。


「ここです!! ここに投げて下さい!!」


 ゲートルードは、川に向かって叫んでいる。彼の脇には、いつの間に作ったのだろう、漁に用いる大網を利用した、巨大なハンモックが出来上がっていた。

 ゲートルードの声を聞きつけたのか、アルフェはちらりとそちらを見た。そして、彼女が放り投げる怪我人の軌道が変わった。


「うわあああッ!」


 ハンモックを支える一般市民たちは、川から怪我人が飛んでくる度に目をつぶって悲鳴を上げた。屈強な衛兵や船員が、網の中から素早く怪我人を運び出す。運び出された怪我人は地面に並べられ、ゲートルードや町の治癒士によって応急手当が施された。

 アルフェの狙いは段々と正確になっていく。それでも、魔獣の攻撃に遮られて、時たま狙いが大きくはずれる。フロイドの役目は、それを走って受け止める事だ。

 四十人か五十人か、アルフェはそうやって人間を投げ続けた。さしものアルフェも、段々と動きのキレが悪くなっていく。しかしその甲斐あって、目に付くところに浮かんでいる人間は、ほぼ居なくなった。


 残るは、どうやってこの魔獣に勝つかだけである。

 細長い棒を足場にしながら、アルフェはすっと川面に立って、再び敵の動きだけに集中した。

 この足場では、立っていることは出来ても踏ん張ることは不可能だ。かと言って、自分の最高の一撃を食らわせても、この魔獣は大したダメージを負っていない。例え陸地に戻って戦ったとしても、状況が大きく改善するとは思えない。

 水面が盛り上がり、魔獣がアルフェに食らいついてきた。アルフェは慣れた様子でそれをかわし、次の足場に飛び移った。それと同時に、手刀に魔力をまとわせて、敵の皮膚を裂いている。


 ――浅いか。


 しかしやはり、魔獣の皮膚は分厚かった。多少傷つけたところで、出血すらしていない。

 アルフェが次に足場にしたのは、一片の木切れだった。足の裏よりも小さなそれに、彼女は右のつま先だけで、当たり前のように立っている。アルフェは既にコツを掴んだ。こんな小さな木切れでも、僅かな浮力さえあれば、こうやって水面に立つ事は十分に出来るのだ。

 加えて、この魔獣は強大だが、口で食らい付くか、胴体や尾を叩き付ける以外の攻撃手段を持たない。落ち着いてさえいれば、避ける事はむしろ容易なのだと気が付いた。


 水中から、魔物の口が飛び出てくる。牙は鋭く、舌と口の中は赤黒い。魔獣の口内の様子も、アルフェは観察する余裕が出てきた。


 アルフェはとんぼ返りしつつ、斜め後ろに跳んだ。しかし、そこには足場になるようなものが何も無い。彼女でも、何も無い水面には流石に立てない。そのはずだったが、アルフェは魔力をまとわせた掌を水面に叩き付けると、そこでもう一度跳ねた。

 アルフェは水面で一度跳ねる事によって、一足では跳べない距離を移動し、次の瓦礫に取り付いた。そうしてまた、彼女は荒れる水面とは逆に、心を穏やかに落ち着けた。


 ――派手な事をする魔力は、もう残っていない。


 軽業のような事は可能でも、さっきのように魔獣の身体を支えたり、威力のある一撃を繰り出したりする余力は残されていない。実際、防御を高める硬体術すら解いて、アルフェは水面に立ち、攻撃をかわす事だけに集中していた。

 それだけに、頭を冷静にする以外に、活路を見出すことは出来ないと、アルフェの目は、水中の影を瞬きもせずに追っている。


「…………」


 アルフェの中では、既に方針が定まりつつあった。

 旋回していた魔獣が、アルフェの方に向かってくる。


「……っ!」


 彼女がぶるりと震えたのは武者震いだったのか。それとも、本当に怖かったのだろうか。

 しかし、これしか方法が思い浮かばないのだから、仕方が無い。

 無茶な事をすると、後で怒られるかもしれないが――。


「――すぅ」


 アルフェは息を吸った。

 水面が盛り上がり、魔獣の赤黒い口中が見える。さっきと同じだ。

 そして、アルフェが見ているのは、その口の奥である。


 アルフェは敵の最後の攻撃に対し、横や後ろに跳んで避けるのではなく、自ら相手の口の中に飛び込んだ。



「な――」


 川面に立っていたアルフェが、攻撃を避けきれずに魔獣に一呑みにされた。

 フロイドの位置からは、そんな風にしか見えなかった。


「に――」


 破壊された港における負傷者の救助は、まだ続いている。フロイドは、その中心に立って働いていた。しかしフロイドは、アルフェが魔獣に呑まれた瞬間、それしか見えなくなった。全身に鳥肌が立ち、顔から血の気が引くのが分かった。アルフェを呑んだ魔獣は、水面から首を高く上げて、ゆっくりと周囲を見回している。

 フロイドの目には、腹立たしくなるほど、魔獣が暢気そうな表情をしているように映った。


 フロイドは剣の鞘を掴んで走り出すと、波で濡れた突堤の先端に立った。


「こっちを見ろ!! このクソ野郎が!!」


 魔獣を喉が張り裂ける程の大声で罵りつつ、彼は剣を抜いた。

 魔獣は、自分に敵意を向ける者が、まだ残っている事に気が付いたようだ。魔獣は身体を反転させて、フロイドと港の方に向いた。

 魔獣が振り向いた勢いで、フロイドは大きな波をかぶったが、それを意に介さずに彼は吠えていた。


「聞こえるか!! 聞こえるなら、俺と勝負しろ!! どうしたこの野郎!! 俺が怖いのか!?」


 まるで、腹を立てた子供のような挑発である。人の言葉が理解できない魔獣にそれが伝わると、彼は本気で考えているのだろうか。それとも、考える事も出来なくなっているのだろうか。

 しかし魔獣にも、フロイドの怒りと敵意だけは十分に伝わったようだ。魔獣は手足で水を掻いて、ゆっくりと港に近付いてきた。

 フロイドは獰猛な笑みを浮かべ、剣を構えた。


 ――ぶち殺してやる!


 彼我の実力差や、勝算がどうこうといった小賢しい思考は消え失せて、彼はそれだけを考えていた。この化け物と戦えば、きっと自分は死ぬだろう。それすらも、その衝動の前では些細な事だった。


 ――忠義を尽くし、主のために死ね。


 一片だけ残った彼の理性は、何故か、いつかオークのグラムが言っていた言葉を彼に思い起こさせた。あの時は笑い飛ばしたが、今のフロイドは、その通りだと思った。

 魔獣は相変わらずゆっくりと泳ぎ、彼の方に向かってくる。どうしてか、魔獣は頭を段々と低くして、腹の辺りを気にする素振りを見せていた。理由はどうでも、これだけ垂れ下がった頭なら、跳ばずとも自分の剣の間合いに入る。フロイドは、柄を握る手に力を込めた。

 魔獣の口が、徐々にフロイドに近付いてきた。これにアルフェは一呑みにされたのだ。こいつをぶち殺したら、腹をかっさばいて屍だけでも取り戻そうと彼は決めた。


「我が主の仇……!」


 最後に低い声でつぶやくと、魔獣の首を迎撃するように、彼は剣を斜めに振り上げた。

 だが――


「あん?」


 フロイドは目測を誤り、剣をすからせた。と言うより、魔獣が突然意識を失ったように、その首がぐらりと横に倒れたからだ。

 魔獣は白目をむいて、突堤に首をもたれさせるようにして止まった。


「な、何だ……?」


 フロイドは動揺している。さっきまで元気だった魔獣が、急に気を失ったのだから無理も無い。……いや、気を失っているどころか、よく見るとこれは死んでいる。フロイドは自分の剣をまじまじと見たが、別に血糊など付いていない。彼の刃が触れる前に、魔獣の方が倒れてしまったのだから当然だ。


「……?」


 港で彼を見守っていた人々も、一様に首を傾げている。その時点で何が起こっているのか理解していたのは、魔術で魔物の体内の様子を見通すことができたゲートルード一人だけだ。

 そのゲートルードも、信じられないという表情で固まっていた。


「お、おい、どうした?」


 フロイドは動揺のあまり、そんな風に魔獣に声をかけた。しかし返事は無い。やはり死んでいるようだ。彼は眉をひそめ、それから、こいつの腹をかっさばいて、アルフェの死体を取り出そうと考えた事を思い出した。

 首は突堤に持たれているが、魔獣の身体の大部分は川の中に沈んでいる。近寄って覗き込み、どうしようかと思ったところで、フロイドはようやく気が付いた。

 魔獣の腹の中で、何かが動いている。

 それに気付くと、彼はアルフェが何をやったのかを、全て悟った。


「おい! 大丈夫か!」

「そいつは死んだのか!?」


 数人の衛兵たちが、突堤を駆けてきた。

 フロイドはもの凄い勢いで振り向くと、大きく叫んだ。


「近付くな! まだ息がある!」


 いや、魔獣は間違い無く死んでいる。自分が呑み込んだ娘に腹の中で暴れられて、体内は酷いことになっているのだろう。


「ここは危険だ! そう、何というか……爆発する危険がある!」


 俺は何を言っているんだ。フロイドはそう思ったが、衛兵たちは彼の言葉に怯えて、一斉に足を止めた。瀕死の魔獣の魔力がどうにかなって、身体が爆発するかもしれない。フロイドの脅しに従って、衛兵たちは後ずさりし始めた。

 実際、魔獣の腹の辺りからはドンドンと音が響き、ボコボコと皮膚が膨れるのが見えた。衛兵たちは青くなった。


「逃げろ! ここは俺に任せろ!」


 下手に腹を裂いて出てくる光景を目撃されたら、後であの娘がどんな目で見られるか分からない。衛兵たちが駆け去ると、フロイドは上着を脱いで剣を持ち、水中に飛び込んだ。

 フロイドは魔獣の腹部に剣をあてがって、傷を付けていった。中からだけでは難しいだろうが、こうすれば、きっと出て来やすいはずだ。魔獣の体液が噴き出、川の水が赤く染まるが、フロイドはためらわなかった。

 十字に深い傷を作ると、内側からばかんと魔獣の腹が裂け、中からアルフェが飛び出てきた。服の端が少し溶けている以外は、目立った傷さえ無い。

 水中で、アルフェはフロイドに目配せした。フロイドも、それに頷き返す。


 魔獣と戦っていた謎の銀髪の娘は、このまま死んだという事にした方が良い。その方が、後々何かと都合が良い。

 アルフェはよたよたと、それでもしっかり足をばたつかせ、濁った水の奥に消えていった。


「終わった! 魔獣は死んだぞ!」


 水面に顔を出したフロイドが、剣を振り上げ、港に向かってそう叫んだ。

 ブラーチェの町はしばらく静まり返っていたが、やがて港から、そして都市全体から、地を揺るがすような歓喜の声が響いた。

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