第8話〜サイドストーリー〜
1-⑧
サイドストーリー①
〜大黒睦は許さない!性犯罪〜
みなさん、こんばんは!
福岡県警察捜査一課殺人犯2係大賀班、大黒睦巡査部長です!そこのあなた!今回も特派捜メンバーだと思ったでしょ!残念ながら、今回は特派捜メンバーは登場しません!なぜなら、これは私がまだ所轄にいた時の話です!
あれは私が福岡市に隣接する糸島市の糸島警察署にいた頃の話です。この件は一生忘れないと思う。恥ずかしすぎて。
ある真夏の日の夜21:00頃、1人の女子高生が泣きながらお母さんと2人で警察署にやってきました。
その日私は傷害事案の報告書作りで残業中でした。応対した地域課員に連れられて刑事課にやって来ました。
「性犯罪だそうです。よろしくお願いします」
他の仕事がやっと終わり、帰ろうとしてた糸島警察署刑事課が誇る性犯罪のスペシャリストで私の尊敬する先輩である西塚雅子巡査部長と私で、話を聞くことにしました。
まず、彼女の名前は楠見遥夏ちゃん。高校1年生。一昨日の21:30頃、塾の帰りに不審な男に追尾され、走って逃げるがすぐに追いつかれ、後ろから胸、お尻を触られた挙句、突き飛ばされ、転んでしまった様子。その後、バックの中を見られ、財布から当時入っていたお札を何枚か盗られたと言います。
そこまでは、普通に話してくれました。これだけでも、立派な犯罪です。しかし、西塚先輩は、まだ他の話を交えながら、遥夏ちゃんと話していました。
すると
「こ、これ・・・・」と一台の携帯を出してくれました。
「携帯のストラップ、かわいいね」
と私がいうと
「携帯が怖いんです」
え、携帯が怖い?どういうこと?
すると、このタイミングでその携帯に電話がかかってきました。しかし、遥夏ちゃんは電話に出ようとしません。
すると、お母さんが、
「この携帯にかかってくるたびに怯えてるんです。このせいで学校にも行けなくなってしまって。1日中怯えてるので、連れて来ました」と教えてくれました。
着信音が止まり、遥夏ちゃんの怯えがとまりました。
「むつみん、遥夏ちゃんお願い。お母さん、ちょっといいですか?」
西塚先輩は、遥夏ちゃんの携帯を持っていきました。お母さんと2人で話すようです。
しばらくすると2人が戻ってきました。
「遥夏ちゃん、携帯、しばらく預かるね。もう大丈夫だよ。私達が捕まえるから、大丈夫だよ」と西塚先輩。
2人を残して、私たちは一度部屋を出ました。
「遥夏ちゃんの携帯に非通知からの電話が1時間に一回、昨日からかかってきていたの。おそらく、かけてきてるのは遥夏ちゃんを襲ったホシで間違い無いと思う。そこでさ、私達で遥夏ちゃんのフリをして、通話を続けない?」
「おとり捜査ですか?名案ですね!会いたいって言ってくるまで通話して、その場で捕まえる!」
てことで、おとり捜査することになりました。
その事をわかりやすく遥夏ちゃんに説明すると、
「分かりました。最初の電話だけ出てみました。そしたら、『今なにしとると?』とか『勉強出来てる?』とか聞かれて、怖くなって切ってしまいました」
「そーだよね、怖いよね。急に知らない男から電話でそんなこと聞かれたら。でも大丈夫!絶対捕まえるからね!」
2人が帰った後、課長に報告を済ませると次の電話がかかってきました。
遥夏ちゃんのふりをする担当は私。先輩は私の頭脳となってくれます。
「もしもし?」
「あ、やっとでてくれた!相変わらず可愛い声やね」声フェチかよ。
「え、なんか、嬉しいような嬉しくないような・・・・。でもありがとうございます。声を褒めてくれたのが初めてです」
「声優とか興味ない?俺そう言う系の仕事してるんだけどさ」声優プロダクションの人間なのかな?
「え、ほんとですか!なんか、嬉しいです!」
「あぁ、本当にいい声!何年生だっけ?」
「高1です」
「学校は?楽しい?」
「はい、楽しいです。あ、私はあなたのことをなんて呼べばいいですか?」
「あ、うーん、とりあえず、シンとでも呼んでよ。あ、もう寝なきゃ行けない時間だね、おやすみなさい」
「あ、はい。おやすみなさい」
と言って電話が切れました。
その後、シンからかかってくるのが1時間に1回だったのが、3時間に1回になりました。
そしてある火曜日の通話にて。
「ねー、今度もう一回会わない?」
「え、怖いんですけど。次は変なことしませんか?」
「しないしない。反省したから」
ほんとかねー。
「じゃあ、いつどこに行けばいいですか?」
「明日、笹山公園に18:00とかでどう?」
「わかりました。制服のままで行きます。じゃあ、また明日」
「うん、遅刻しないでねー、バイバイ〜」
よっしゃ!これで疑われないように接触できる!
私はすぐに西塚先輩と課長に報告。
すぐに逮捕状を強盗と強制わいせつ容疑で請求。被疑者氏名は通話の中で、糸島市内に住む大工、鈴木真一(26)と判明していました。声優プロダクション関係というのは全くの嘘でした。
刑事課強行犯係で会議すると、確保の作戦は、まず私が制服姿の遥夏ちゃんに扮しシンと接触。遠くから、遥夏ちゃんに顔を確認してもらい間違いない場合、逮捕状を執行するという作戦になりました。
その日のうちに私は遥夏ちゃんとお母さんに電話で報告。顔の確認をしてもらう様にお願いすると、すぐにオッケーしてもらえました。
そして翌日16:00。警察署で遥夏ちゃん親子と合流。遥夏ちゃんの制服を借り、私は着替えました。
他の刑事には、かなり爆笑されました。
めっちゃ恥ずかしい。
制服着るのなんて何年ぶりだろう。
けど、今時の高校の制服ってかわいいと思った瞬間でもありました。
約束の5分前。私は糸島市笹山公園のベンチに座って待機。遠くのベンチに遥夏ちゃんと西塚先輩、両方のベンチが見える位置に他の男性刑事。準備バッチリ。
鈴木は、5分遅れでベンチにやって来ました。
「お、おったおった。ごめんね、遅れて」
「自分が遅れないでねって言ってたくせに」
「ごめんごめん、道が混んでて」
「あの、今日は私からもお話がありまして」
「え、なになに?告白?」
「な訳ないでしょ!年の差離れすぎてんだから」
「てか、声は電話と一緒やけど、なんか不思議やな〜、初めて会った時と雰囲気が違うていうか・・・・・」
や、ヤバ。バレそう。
と、その瞬間。男性刑事がやって来て、
「鈴木真一さんだよね?」
「え、えぇ。そーですけど?」
「警察。身に覚えあるよな?」
「え、もしかして、遥夏ちゃん、警察に言ったの?」
「泣いて警察署に来たよ。女子高生を襲ってお金を盗って、挙句に電話番号盗み見て、毎日の様に電話かけてくるなんて、最低」
と言って、私は警察手帳を鈴木に見せました。
そして、鈴木を捜査車両に連れて行き、乗ってもらいました。
合流した西塚先輩が逮捕状を読み上げます。
「鈴木真一。上記のものは、糸島市内にて帰宅中の楠見遥夏さんに対し、後ろから接近しいきなり胸、お尻を触り襲い、金8000円を奪い去ったものである。間違いないね?」
「は、はい。なんで言うかな〜、遥夏ちゃん」
「そりゃー、怖い思いしてからでしょ。じゃあ、18:27、強盗と強制わいせつで逮捕するけん」と言って、鈴木の腕に手錠をはめました。
そして、私からも一言。
「今回の件で遥夏ちゃん、学校行けなくなったんだよ。かよわい女の子を襲って、金を奪い取るとか、もう絶対にしないでくださいよ。反省してください」
取調も順調に進み、検察に送検しました。
遥夏ちゃんも心理カウンセラーの支援も受けながら無事に学校へ戻ることが出来ました。
今思えば、特派捜にお願いすれば、私が恥ずかしい格好する必要なかったな〜と思ってしまうのは自然なんでしょうか。
まぁ、この件の後、数日間は同僚の刑事からいじられましたが、とにかく一件落着!
以上、私が絶対に許さず、絶対に忘れない事案でした。
※本件は実際に福岡県警察筑紫野警察署管内で発生した事案を元に作成。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます