第6話 ユナシェール、母に会う。
私はとうとう15歳になっていた。あれから母は帰ってこず、元魔王様の片鱗も見えなかった。あの魔力バカが上手く魔力を隠していることには感心する。
魔族の15歳は成人として祝われることになっている。これは長寿のせいでもあるが、魔族の出生率が極端に低いため早めに結婚出来るのと、国に仕えるためとの事もある。まあ、本当は前魔王である元夫が私を娶るために設定したのだが。前世、私が結婚したのは15歳の時だが、息子が生まれたのはそれから10年が経ってからだ。この事からも分かるように、魔族に子供は出来にくいのである。運と言ってもいい。むしろ10年で出来たのだから、良い方だ。前前魔王の時は結婚して45年経ってから出来たそうだ。元夫も私と結婚した時は125歳と魔王になって2年経っており、私が来た時には元夫の父と義理の母は不慮の事故で無くなっていた。あ、元夫の母は元夫が85歳の時に寿命で亡くなってしまったようで、その10年後に義理の母を娶ったようだ。魔王家は家系図が複雑で嫌になる。全てを覚えた私に何か褒美があってもいいと思う。
そんな訳で、珍しく今日は母が帰ってくると朝から執事やメイドがてんやわんやしている。邪魔になるから私は部屋に引きこもっているよう、乳母に言われていた。式典用の服も部屋に用意してある。白の式典用のドレスが私の黒髪に映える。目と同じ赤の刺繍が美しい。
日が登った頃、外が騒がしくなった。本当に母が帰ってきたのだろうか。一生ではないが、当分会えないことを覚悟していたのだ。母も素直に帰ってくるとは思えなかった。だが、この騒ぎようは母が帰ってきたとしか思えない。少しは娘への情もあったということか。
母が帰ってきたことで、城へ行くために式典用のドレスに着替える。
成人祝いは城へと参上し、魔王様にお目通り願う事でお終いとなる。その成人祝いも魔族は子供が少ないため、通常はその年に生まれた人が一気に集まるのだが、5年の間に生まれた人が集まることになっている。だから、今20歳になっているが、成人をしている人も集まることになる。なるとも面倒くさいことである。その5年にも、子度は1人の時もあれば、10人の時もあり、人間の貴族など関係なしに魔王へのお目通りは叶う。今年は私を含め3人もいるようだ。
着替えも終わり、エントランスホールへと向かう。歩く度にしゃらしゃらと音が鳴るこのドレスは一体いくらかかっているのか考えるだけでも恐ろしい。
階段の先には母と思しき後ろ姿が見えた。自身とは似ても似つかない、金髪である。そのドレスも海のような青で派手だ。
私に気づいたのだろう。母が振り返る。誰のが振り向くような美人のその目には嫉妬と嫌悪の色が濃く浮かんでいた。
「ユナシェール、あなたは誰に似たのかしら。これじゃあ魔王様は……」
ぼそっと母が言った事が聞こえた。この時ばかりは私の耳の良さを恨む。
母は魔王に私をけしかけようとでもしているのだろうか。
元旦那は魔王 奴羅李 くらり @tibaichigo
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