第5話

ドグラ・マグラ其の一


角川から出ている上下巻の文庫本を読んでいるのですが、まだ上巻なので其の一としました。

現時点でめちゃくちゃ面白いです。


ある少年が眼を覚ますと、そこは精神病院の一室。

自分に関する記憶は何もない。ただ分かるのは自分が異常者であるということだけ。

その時、自分の担当者だという男が現れる。

男によれば、自分は異常者から正常な人間になるまでのプロセスを研究するための被験体だという。

しかし、実験を行った当の博士は既に死亡していた。

男によれば少年はこの病院に収容される前、ある不可解な惨劇の中心人物であり、少年の記憶が事件の全貌をあらわす鍵になるという。

目覚める以前の記憶を取り戻すべく、博士の論文や記録を読み始めるのだが…。


ここで、博士の論文の中身や、博士が当時辿って来た軌跡までが上巻の内容です。

有名な「胎児の夢」もここで登場します。


このプロット段階で、現在においても興味を抱かずにはいられない内容で満ち溢れているのがまずすごいですよね。

「胎児の夢」、言葉は知っていても、どういうものかまでは知りませんでした。

胎児は人間になるまでに、それまで経てきた様々な進化の記憶。単細胞の頃からの様々な進化の過程と、人間に至る進化までの苦難の道のりを悪夢として夢に見る。

そしてその膨大な量の歴史を、たった10ヶ月で見れるということは。

私達が共通に認識している「時間」というものの概念の大いなる勘違いについても提唱されています。

「共通に認識する時間」とは別に、「実感として感ずる時間」が真実の時間だというんですね。

楽しい時間は一瞬で過ぎるけれど、苦しい時間は中々過ぎない。

相対性理論に近い部分がありますね。


……言ってみたものの、私はそういう難しいこと分かりませんけどね!


それともう一つ、「脳髄論」というものが出てきます。私はこちらの方が興味深かったんですけども。


人間が何かを考えるのは脳ではなく、全身の細胞ひとつひとつである。脳髄はあくまで細胞の意思を各所に仲介するための中継場にすぎない。


乱暴にまとめるとこんな感じです。

なにが面白いと思ったかといいますと、この論を前提とした「悪夢の正体」です。

悪夢とは、「睡眠の際に殆どの細胞が寝静まったあと、起きて苦しんでいる細胞の主観を視覚化したもの」だというんです。

……要約って難しいですね。


まず、生活する上で意識にはない程度に内臓を壊していたとします。

その状態で睡眠をとります。

その時、体の大半は眠っているけど、その臓器周りだけは起きて苦しんでいます。

「苦しい、苦しい」という信号が脳髄に届き、脳髄はそれを何らかの信号に置き換えて発信する。その発信された情報と取ればいいのか、情報を伝える過程の副産物と取ればいいのかは理解出来てないんですけど。

そのときに映像化された苦しみが悪夢で。

傷んだ細胞の現在の苦しみの主観を映像化するから突拍子もないものになる、と。

細胞の叫びが夢になる、なんてとんでもなく突拍子もない話ですね。

でも、この説明をされると、夢と現実の不可思議なリンクといいますか。疲れているときの特に奇妙な夢について解決したような気になりませんか?


ドグラ・マグラは幻惑とか幻視とか、兎に角「人を混乱させるもの」というような意味合いが含まれているらしいのですが。

そのタイトル通り、とても混乱させられます。

主観、立ち位置、世界線。

全てがあまりにも自然に移動します。

読んでいる途中で、さっきはあの人の視点で話してたはずなのに、今は別の人物の語りになっていて。さっきまで主人公として見ていたはずの人物が突然第三者として現れる。


私はそもそもの素養があまりないので、解釈違いを起こしてる可能性は否めないんですけど。

心理学とゴシックな世界観が好きならきっとどハマりします。

まだ私はこの不思議な幻惑の道半ばなので、ゴールにたどり着いたとき、改めて感想をかければと思います。

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