第47話「ドラゴンとの和解」

 魔王がアリスとメイの後を追うように『ゲート』を潜り薄暗い城に入るとそこには奇妙な光景が広がっていた。


「申し訳ありませんでした、お嬢様方々、これから私ランは心を入れ替えて働かせていただきますので何卒よろしくお願いします」


 人間の姿で赤い髪をなびかせたランはそう言い終わると繰り返して何度も何度も謝罪を口にする。これにはメイはおろか先ほどまで彼女と対峙していたアリスですらも困り顔だ。昔よりも激しくなっている、スパークが実は直撃して頭がどうにかなってしまったのではあるまいな、不安に感じた魔王は頭を抱える。

 そのうちにランが魔王の存在に気が付いたのか慌てて彼の目の前へと駆け付ける。


「お帰りなさいませ。あ、な、……ゴホン魔王様! これからまたお世話になります」


 身を乗り出して高い声で彼女が言う。


「ああ。よろしく頼むぞ」


 魔王はそう答えた。


「さてと、それでは我はギルドへと向かうとするか」


 しばらくした後に魔王が呟く。


「どうしてギルドですか? 」


 すかさずアリスが尋ねると魔王は彼女に視線を向けて答える。


「無論、緊急クエストの報酬を受け取りに行くためだ。念のためにクエストを受注しておいたのでな、我にも受け取る権利がある。金というのはあるに越したことはないだろう? 」


 ニヤリ、と口角を吊り上げる魔王をみてアリスが感心したように言う。


「魔王さんって、意外とちゃっか……そういうところはしっかりしているのですね」


「ちょっと今、魔王様のことをケチみたいに言わなかった? 」


 アリスの言葉に反応してランが鋭い形相で彼女を睨みつける。


「別にそういう意味では言っていません」


 いつもなら素直に謝ると思われたアリスが珍しく素っ気ない様子で言うとランを睨み返した。


「ん、何かバチバチと火花が見えます」


 一歩後ろに下がるメイ。ランは相変わらず怒りっぽいな。それにしても賑やかになったものだ、そう思いながらも魔王はこの空気を変えるべく考えを巡らせる。すぐに切り出す言葉は見つかったようで彼は口を開く。


「そうだ、緊急クエストと大ごとにもなると猶更なおさらギルドへの討伐の証拠を持っていかねばなるまい。すまぬがランよ。髪の毛を数本貰えないだろうか」


 戦闘では素早さで敵を翻弄していたランだ、腕などの部位でなくても逃げ惑う冒険者も見たであろう赤髪を数本持っていけばそれだけで足るだろうと魔王は考えたのだ。


「はい、魔王様のためでしたらこの髪の十本、二十本……いえ全部差し上げますわ」


 そう言って右の爪で髪を掴めるだけ持ち上げると全てを切ろうとするように左の爪を構えた。


「いや、数本でいいぞ」


 魔王が静かに言うと少し残念そうに髪を五本抜いて彼に差し出した。


「それでは行ってくるとしよう」


 髪を受け取り指を鳴らし『ゲート』を出現させると歩き始めた。


「ま、魔王さん」


 突如メイが彼に声をかける。振り返ると彼はそれ以上は言葉で訴えずに目でアリスとランを交互に観て「ボクをこの二人がいるところに一人にしないでください」、と訴えているようだった。我のいないところで二人を一緒にさせるのは万が一のためにも避けた方が良いか、そう判断した魔王はアリスに視線を移す。


「受付の娘が貴様を気に入っていたな、いると有利に働くかもしれぬ。ついてこい」


 魔王がそう言うとアリスは「はい」と威勢よく答えて彼の後ろに小走りで立つ。


「それでは行ってくるぞ」


 魔王が再び歩を勧める。メイは、今度は彼に対して何も声をかけず、その代わりかホッと息を吐いた。


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