第46話「収穫」

 周囲に誰もいなくなったのを確認するとパチッと指をならして魔王は『ゲート』を開きアリス達の元へと向かった。


「魔王さん」


「お疲れ様です、凄かったです! 」


『ゲート』を潜るとアリスとメイが彼に気が付き声をかける。ここは安全のためにも少し離れた崖の上で常人では人の姿をしている魔王は点くらいにしか見えないが、それでもドラゴンの大きさに繰り出した魔法によってその凄まじさを理解できたようだ。


「それで、魔王さんあのドラゴンは……」


 アリスが恐る恐る尋ねる。


「え、倒したのではないのですか? 」


 それを聞いたメイが目をパチクリさせながら魔王に迫る。


「実はな……彼女、ランには我が城に来てもらうことにした」


「「ええっ」」


 二人が目を丸くする。


「我だけでは色々と人手が足りなくてな。ランの力が必要なのだ、安心しろ。貴様らと村に手は出さないようにと言いつけた。何かあった場合は我が葬ろう」


「で、ですが……あの人はここで沢山の冒険者を」


 アリスが納得がいかないと反応する。先ほどまで命を賭けた戦いをした二人なのだ、この反応は魔王にも十分予想できたことだった。


「ならば、このまま放っておいて他の冒険者を殺すのを放置しておいたほうが良いと? 」


 魔王が腕を組んでそう言うと彼女は俯いた。散々人を殺した過去のある我とは行動を共にしているというのにランは拒絶とは不思議なものだ、そう考えて魔王は俯きながらも風に吹かれて髪をなびかせるアリスをまじまじと見つめる。


「あ、あの」


 メイがおずおずと手をあげる。魔王がメイに顔を向けた。


「何だ」


「村って、どこの村のことですか? 」


 メイに質問された魔王は空を見上げる。やれやれ、勇者の娘という情報をまたもや隠して説明せねばならないのか、考えた魔王はため息をつきながら口を開く。


「実はこの娘も貴様と同じように勇者の娘を求めてやってきた軍隊に襲われた村にいてな。我が追い払ったもののいつ村に報復が来るのか分からず不安な立場なのだ」


「アリスさんも……そうでしたか、正直始めて見たときは父と娘といった感じでしたけど、オウマさんが魔王さんと分かってからはどうして一緒なのかと考えていましたがそんな理由が……」


 メイは声のトーンを落としてアリスを見る。それに気が付いたアリスは気まずそうに彼女を見つめ返す。魔王はそんな二人をみて冷笑を浮かべた。


「お互い境遇が分かったところでだ、ここに長居する必要もなかろう。城へ帰るぞ」


 再び魔王は指をならして『ゲート』を開くとメイは入ったもののアリスは動かなかった。


「どうした? 」


 魔王が声をかけると彼女が決心したように拳を握り締める。


「魔王さん、危ないところを助けていただきありがとうございました、魔王さんがいてくれなかったら今頃私は……」


 ドラゴンの足が目の前に迫った恐怖を思い出したのか彼女が身震いする。魔王はそんな彼女の頭に手を置いた。


「気にすることはない、相手は我の従属のランだ。彼女の人間の姿を破っただけでも幼い身にしては十分すぎる戦果だ。胸を張るが良い。貴様は良くやった」


 魔王は顔に笑みを浮かべる。するとアリスが微笑みながら頷いて『ゲート』の中へと歩いて行った。その後ろ姿を見ながら魔王は彼女の戦闘を思い返し呟く。


「ランとはいえ人間の身体をした者に勢いよく短剣を突き立てるとは……本当によくやったぞ勇者の娘よ」


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