第45話「ドラゴン征伐の巻」
肉眼では小さな点くらいにしか見えないほどの上空で魔王とランは言葉を交わす。
「ま、魔王様。私ったら魔王様だと気付かずご無礼の数々を……どうかお許しください」
今までとはキャラが変わったように追いすがるように彼女は魔王に謝罪をする。
「構わぬ。それで、我の考えでは既に勝負はついたと思うのだが、戻ってきてくれないだろうか? 賑やかになった今其方の力が必要なのだ」
魔王は黒剣を鞘に収めながら尋ねる。
「ま、魔王様が私を必要と…………も、勿論でございますわ! 私で良ければいくらでも! しかし、賑やかに……? まさかあの小娘と? いや私の勘では他にも女が……? 」
女性の勘は凄いというか後半棘のあるような言い方で彼女は問い詰める。隠していてもいずれバレることだ、と判断した魔王は真実を話すことにした。
「実はな、そのさっきの小娘の他にも五人程いる」
「その五人ももしや女性で……? 」
震える声で彼女が尋ねると彼は頷いた。
「そうだ、そして其方には彼女達やとある村の警備にあたって貰いたいのだ」
とある村とは、アリスが育った村のことだ。今でも時間を見つけては遠目に無事を確かめていたのだが、時々では忙しいときに来たら対処ができない。それ故に誰か専属で守ってくれるものはいないかと考えていたのだ。
「どうして魔王様ともあろう男が人間なんかを、それによりによって人間の女を……」
ギリリ、と彼女が歯ぎしりをする。魔王はどれだけ話せばいいかと頭を抱えた。熟考の末魔王は口を開く。
「実はな、七年前に現れた勇者がいただろう? あの者が王に処刑されたという話を聞いてな、こうして王に憎しみのあるものを集っては復讐の好機を伺っているわけだ」
結局、まだ彼女が味方とは限らないこの状況では時期尚早と判断した魔王は、アリスが勇者の娘だという情報は伝えないことにした。これではメイに素性を明かさない彼女のことを笑えないな、と苦笑いを浮かべる。
「勇者、いましたね……思えばあの者のせいで魔王様は変わってしまわれた」
ランは更に顔をゆがめる。これは無理かもな、と魔王が諦めかけた時だった。
「ですが」
彼女の声が朗らかなものに変わる。
「六人もの女性に魅入られるだなんて流石私の魔王様ですわ! 何より再びお側に置いて頂ける喜び! 貴方とともにいられるのであれば女であろうと村であろうと守ってみせましょう! 」
そう彼女は早口で言い切った。
「そ、そうか、それは頼もしいな」
魔王は一瞬彼女の変わりように驚きながらも力強くそういうと話題を移す。
「それで、これからのことなのだが……我は普通の冒険者を偽っている、であるからにして……」
そう言って魔王とランは何かをごにょごにょと話し始めた。
「畏まりました、魔王様のためであれば! 知らずとはいえ、いえ! 従属にもかかわらず魔王様だと気付かず暴力をふるってしまった罰として、甘んじて貴方の攻撃をうけてやられてみせましょう! 」
勢いよく答える彼女に「頼んだぞ」と言うと魔王は『ゲート』で地上へと戻っていった。
魔王は『ゲート』で岩と一部凍ってしまっている荒野に戻ると先ほどまでいた遥か上空を見上げる。
「く、くそ~にんげんめ~~なんてつよさなんだ~もうわたしはほのおのまほうはつかえな~い。こうなったらわたしのさいごのとっしんでいっきにしょうぶをつけてやる~~」
大きな声でランは叫ぶと魔王に目掛けて突進を仕掛けてきた。徐々に彼女が大きくなってあと数メートルほどで激突するといった時だった。
「し、しまった。もうわたしにはこのどらごんのじょうたいをいじしているちから……ぱわーがのこっていない」
そう言った彼女の姿がみるみる縮んでいき赤髪の女性の姿に戻る。
「う、うわーこのままではやられてしまう~」
ランがズシン! と魔王の横に落ちた。魔王が彼女に向けて掌を翳す。
「呆気ない幕切れだな、ドラゴンの娘よ」
ランは何とか逃げようとするもあちこちが痛くて思うように歩けないとばかりに手足をバタバタさせる。
「おのれ、なんというすてk……ひれつなぼうけんしゃだ、このままではわたしはやられてし~ま~う~」
「貴様にかける慈悲はない、消え去るがいい! 『オメガスパーク』! 」
魔王の掌から分散されていない巨大な雷撃の球体が現れる。それを彼女目掛けて放った。
「えっ? ちょっとこれは無理! 無理無理無理大きすぎて死んでしまいます! ! 」
その言葉を最後に彼女は雷撃にのまれ、雷撃は遥か彼方へと飛んで行った。上手くいったようだな、雷撃で丸焦げになった彼女の姿がないことを確認した魔王は作戦の成功を確信する。
実は、彼は彼女に宝石を渡していて雷撃が当たる直前、彼女は宝石に入っていた『ゲート』により魔王の城へと跳んだのだ。『オメガスパーク』を選んだのはただ宝石の発光を目立たないようにするためだった。
「それにしても」
魔王は空を見上げ呟く。
「ランよ、もう少し自然な演技はできないものか」
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