第34話「アリスの決意」

 魔王は気絶した三人の宝石泥棒を担ぐと『ゲート』でセントブルク近くの野原へと移動し草を踏みながらさもこれまで担いできたかのように振る舞い歩きながら門の前で護衛をしている兵士に声をかけた。


「この者たちは、我と冒険することになっていたのだが、もしや話題の宝石泥棒ではないか? 」


 突然尋ねられた兵士はドキリとしながらもミースを見つめる。


「え……た、確かに言われてみれば! し、少々お待ちください! 」


 そう言って兵士はセントブルクの中へ入ったかと思うと数分もしないうちに六人程の兵士を引き連れて戻ってきた。


「お待たせしました、むむむこの人相は……」


 一人だけ立派な兜を被った兵士はそう言って人相が描かれた手配書らしき紙と三人組を見比べる。


「確かに、手配中の宝石泥棒でございます! お手柄ですね! ところで懸賞金のお支払いですが何分急なことで……明日でもよろしいでしょうか? 」


 また明日か、またもや受け取りに行くと手柄を横取りしようとするものが現れるのではあるまいな、と考えながらも魔王は「構わん」と告げた。


「失礼ですがお名前は」


「オウマ二世だ。金は冒険者ギルドにでも預けておいてくれ。我にはまだ依頼があるのでな」


「冒険者の方でしたか、ご協力感謝します」


 その言葉を背に魔王は街を跡にするように振る舞い人気ひとけが無くなるところまでは歩くと『ゲート』を出現させて先ほどまでいた宝石のある洞窟へと移動した。水滴以外の音がしない洞窟で一人宝石をギルドで受け取った強化済みの空の袋にたっぷりと取れるだけ回収すると移動時間の点で怪しまれてもいけないのでアリスの元へと向かった。


 再び『ゲート』により城へと移動する。玉座の間でアリスは膝を抱えて泣いていた。


「平気か? 」


 魔王が無表情で声をかけると彼女が顔を上げる。魔王からすれば彼女が泣いているのは想定内だった。すぐ駆け付けなかったのは彼女に一人であの女に裏切られたという事実を向き合わせるためだったのだ。


 宝石泥棒の種明かしを最後までしなかったのは彼女に裏切られる経験をさせることが目的だったのだが、自分が知っていて黙っていたとなると以前の様に心にダメージを負いすぎて無口になられてしまっては張り合いがない、と考えたからだ。それ故に魔王はあえて彼女が消えてから宝石泥棒達に種明かしをしたのだった。そんな魔王の思惑を知らずに少女は口を開く。


「ミースさんはどうしてあんな風になってしまったのでしょうか」


「さあな。宝石は人を変えるのかもしれないな」


 魔王が悟ったように呟く。


「いえ、ミースさんは私に好きだった人のお話をしてくださいました。お金がないせいでお付き合いが続かなかったと」


「ならば原因は金か」


 そう言うと魔王はこのただの金貨が……と宝石に負けじと輝く金貨を取り出して以前の様に人指し指と親指で挟んで考えながら見つめる。


「お金かもしれません、しかし……上手く言えないのですけど私はあの人が悪い人には思えないのです」


「なんだと! ? 人質にまでされてか? 」


 この言葉には魔王も驚き魔王の声が上擦うわずる。


「はい。ですので私はミースさんのような人を出さないような強い人になります! 」


 彼女が決心したように言う。魔王はそれを聞いて額に手を当てるとため息をついた。


「よもや王に会ったら王様は悪い人ではない。父を殺したのは許す。とでも言うつもりではあるまいな? それにそれではエイリという女はどうなる? 貴様はエイリやその仲間たちにミースは悪ではないから許せ、とでも言うのか? 」


 それを聞いてアリスは黙った。沈黙が答えだが、勇者の娘とはいえまだ若いのに大人気なかったか。そう感じた魔王が言い過ぎたことへの謝罪の言葉を述べようとした時だった。彼女がポツリと呟く。


「もし、魔王さんが初めに出会ったのが貴方の命を奪おうとするものでなくブレドさん達のような優しい人達でしたら、どうしていましたか? 」


 唐突な質問に魔王は眉をひそめた。魔王は彼女の質問に答えることが出来ず代わりに手に持っていた金貨を力いっぱい折り曲げ砕いた。



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