第33話「戦わずして勝利する」
「え、どういうことだい。あの娘はどこいった」
慌てふためくミースとその部下二人、その中で魔王はポツリと呟いた。
「魔力を込められる宝石、使い勝手は悪くないな」
「宝石、あんた宝石に何か魔法を込めたのかい? 一体何を……」
魔王の言葉を聞き取ったミースは後ずさりをする。それもそのはず、『ゲート』のような瞬間的に移動する魔法を普通の人間は使うことが出来ないからだ。それ故に一人の移動ならわざわざ門を開くまでもなく瞬間的に消えるのを目の当たりにしてもどの魔法をかけたのか見当はつかないだろう、と魔王は推測したのだがその考えは見事に的中したのだ!
「まさかあの娘を透明にした? いやそんなはずはない、透明になっても抱えていたんだから感触で分かるはずだ! なら小さくなった! ? 探せ! そこらへんにいるはずだ! 」
「姉さん! 小さくする魔法が使えるんだったら娘を人質に取った時点で使ってると思いますぜ! 」
「じゃあ、何なんだ! あいつは一体何をしたんだ! 」
魔王の思惑通り見当がつかず気味が悪いとばかりに三人は身体を震わせる。
「さあ、何の魔法だろうな。それにしても確か貴様ら、その女の演技が上手いなどと言ったな。片腹痛いわ」
「な、なんだって? 現にあんたたちは気が付かなかったじゃないか」
震えながらも指摘するミースに対して魔王は首を横に振る。
「いいや、始めから分かっていた。まずおかしいと思ったのは宝石店だ。あそこで貴様はミースという名前に過剰に反応した。加えて貴様は馬車の手配をつけてくると言って門へと向かったな、広場から門へ向かうときに確認したがあの付近に馬車の手配をつけられる場所はなかった、威勢よく出て行ったわりには門の外で空の馬車が来るのを待つなんて不自然だろう。事前に馬車を門の外へと用意していたと考えるのが自然だ。ならばミーアという宝石強盗の名前に過剰に反応し事前に馬車を用意しながら宝石採取の依頼に同行を申し出る顔が不明の女の正体は誰か、なんてことは
魔王がそう告げるとミースは肩をすくめる。
「そこまで分かっていながら何故大人しく縛られた? 結局はあとから好き放題言っているだけじゃないのかい? 」
「それはどうかな。なぜ黙っていたか……それは言うまでもなく我にとっても都合がいいからだ」
魔王は手が縛られている状態で器用に立ち上がると全身に力を込めた。その瞬間、辺りに突風が発生した。
「あ、姉さん……この風は一体」
「馬鹿! うろたえるんじゃない! ただの隙間風だよ! 」
「隙間風にしちゃあ、激しすぎませんかねえ……」
突然の風にあたふたする三人を前に魔王の身体は背中の鎧を突き破り悪魔のような羽が生え、前の鎧は黒い鱗のようなものに変わりブロンドヘアの髪からは角が何本も生え顔もみるみる恐ろしい形相へと変化していった。魔王は真の姿を解放したのだ。
「ああああああああああああああああああああああああああ」
「お助けええええええええええええええええ」」
「わ、わかったよ! お前が書けたのは幻覚のまh……」
三人は三者三葉の反応をしてグッタリと倒れた。
「ただの人間だと思っていた我の身体から翼や角が生えたらどんな反応を示すかと思えば、幻覚か」
戦わずにして三人を倒した魔王はさも愉快そうに笑った。
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