第27話「武器屋での買い物」
ギルドを出た後、魔王とアリスは連なってセントブルクの街中を歩いていた。何人もの人とすれ違いながらアリスは尋ねる。
「これからどこへ向かうのでしょうか? 」
「武器屋だ、昨日みたいな力を常時発揮してもらわねばならぬのでな」
彼女の問いに魔王は淡々と答える。すると彼女は笑った。
「またその話ですか、私がキマイラを倒せるわけがないではありませんか」
アリスは昨日からずっとこの調子だった。何度魔王がキマイラを光る剣で一刀両断したことを説明しても信じられないとばかりに笑い飛ばすだけなのだ。
それ故、先ほどのギルドで貰ったキマイラ討伐の報酬も魔王の懐に収まっていた。中に入っていたのは何と二百万! 魔王としては四千万の足しにしたい思いもあったが倒したのはアリスなので今後のことも考えて武器を買うことにしたのだ。
ギルドや城へと続く大通りから薬屋のある小道へと向う。通りがかったので奴隷商人の様子を伺ってみたがまだ五人全員いるようだった。
「ここか」
三十分ほど歩いた後、魔王とアリスは目的の建物の前に立つ。店は先の薬屋の二軒隣で木造建築、看板にでかでかと二本の剣が交差するイラストが描かれている。
「いらっしゃい」
店内に入るとガタイの良い店長に迎えられる。店長は見た目は三十代でシャツ一枚と軽装ながらも動くとジャラジャラと僅かに音がすることから鎖帷子を纏っていて背中には剣と武器を扱うのでその手の輩が多いのかしっかりと武装しているようだった。
「この娘の武器を見繕って欲しい」
魔法はそう言うとアリスの肩をポンと叩いた。
「え、この娘ですかい? 」
「よろしくお願いします」
店長は挨拶をしたアリスをマジマジとみつめる。
「見た感じまだ冒険者としてやっていける年じゃありませんぜ、それに成長盛りだからなあ……小さい鎧もねえし用意できるのは剣と鎖帷子くらいですぜ」
店長の説明を腕組みしながら聞いていた魔王は力強く頷く。
「それで構わない」
「それで、予算の方は? 」
「二百万だ」
「え? 」
魔王の言葉に店長は目を丸くした。いや、彼だけではないアリスも困惑顔だ。
「魔王……オウマさん、そんな二百万なんて結構です」
彼女が囁く、それに同調するかのように店長も頭を掻いた。
「そうですねえ、二百万というのは有難いんですが、この娘が使えるようなものですとこちらですかねえ」
そう言って店長は青色の柄に銀色の刃の短剣を一つ棚から取り出すとアリスに手渡した。
「短剣は大きくなっても懐に忍ばせれば使えますし、振り回せるか分からない剣よりはこちらがお勧めですぜ」
「少し試してみても? 」
魔王の問いに店長は頷いた。
「はってゃっ! 」
それを見たアリスが上から下から右から左からとあらゆる方向からの斬り方を試すように剣を振るう。
「どうだ? 」
「今までの短剣と違って軽くて持ちやすいです」
アリスは魔王を見上げるようにして答える。
「決まりだ、これを貰おう。それとそこに書いてある木刀とやらも二つ。幾らだ」
「鎖帷子はおまけするとして短剣が十万で十万になります」
「十万だと! ? 」
魔王は目を見開いた。無論、魔王に剣の相場は分からないため高すぎるという想い故の驚きではない。その逆だった、魔王は二百万提示したのに十万の剣を勧められ度肝を抜かれたのだ。
「はあ、うちにはこの娘にピッタリなのはこれしかなくて、貴方の場合でしたらもっとお高い剣はあるのですが……」
魔王の気持ちを察したのか店主は言う。魔王が見渡してみると確かに、彼の言う通り多くの剣が並べられていた。全身金色のみるからに高級そうなものから兵士から強奪し魔王が今使用しているような剣まで種類は様々だった。なかでも一つの剣が魔王の気を引いた。柄も刃も黒色の黒剣だった。
強度も振り心地も値段も分からない。ただ、その色だけに惹かれた。しかし、魔王はすぐさま視線を店主に戻すと彼の背後の木刀と書かれた札のある木製の剣の形をしたものが目に入った。あれなら長さも丁度良く二人分あれば稽古も捗りそうだ。
「今は必要がない、だがその時が来たら世話になるとしよう。それよりも、木刀というのを二つ貰えないだろうか」
「木刀ですかい、木刀が二千なのででしたら十万四千になります」
そうとだけ言うと袋から金貨を十枚と銅貨を四枚取り出し店長に手渡した。
「ありがとうございます、オウマさん」
剣を持ちながらアリスは満面の笑みを浮かべる。その刃に多くの血を吸わせるのだ、その剣の切れ味が落ちるとき、剣の様に貴様の心も汚れていることだろう。そう伝えたい衝動を魔王は堪えたところでハッと気が付いた。その考えだと我は既に汚れているから黒剣に惹かれたのかもしれないな、と。
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