第28話「宝石は女性に人気」

 アリスの短剣と木刀を購入した魔王とアリスは再びギルドへと歩いて向っていた。ギルドに『ゲート』で移動することはできるのだが、周りに人が多く展開し中を入ろうものなら目撃される恐れがあったからだ。それ故『ゲート』の使用は木刀を城に置くだけに留めた。


 剣を購入してもらい鼻歌交じりのアリスとは対照的に一時間ぶり位のセントブルクの街並みをつまらなそうに眺めながら魔王はギルドへと向かう。


「ようこそ、冒険者ギルドへ」


 先ほどとは異なりいつも通りの受付嬢の声が二人を迎える。


「貴様の言った通り、食事時を狙うというのは上手くいったようだな」


 すっかり静かになったのを確認した魔王がそう言ってアリスの頭にポンと手を置くと照れくさそうに彼女は笑った。


 そのまま受付嬢の会釈に会釈で返しながら掲示板へと向った。


「こちらとかいかがですか? 」


 アリスが何枚もある青紙から一枚の紙を取る。そこには「宝石回収の依頼」と記されていた。


「ほう、宝石か。貴様もそういうものに興味があるのか? 」


 女性に変身する従属の一人が宝石が好きだったのを思い出した魔王が尋ねるとアリスが首を横に振った。ブロンドヘアのポニーテールが激しく揺れる。


「いえ、そういうわけではありませんが」


 アリスが顔を赤らめ俯く。魔王は鼻を鳴らすと彼女に告げる。


「しかし、これはどういうわけか討伐の部類だ。残念だが我々だけでは受注はできない」


「そんな」


 アリスが肩を落としたその時だった。


「宜しければ私が同行致しましょうか? 私の名前はエイリ、これでも熟練冒険者ですので」


 顔まで鎧に身を包んだ女性が二人に声をかける。


「ほう、貴様も宝石が好きなのか? 」


「ええ、大好きでございますわ」


 魔王の問いに彼女は含みを込めて答える。


「ならばこの依頼にするとしよう、回収となれば触ることも近くで見ることも出来るからな」


「ち、違いますってば! 」


 あたふたする彼女の手を引くと魔王は受付嬢に青紙を提出する。エイリが提示したバッジをみると受付嬢は用心深く尋ねる


「エイリ様、申し訳ありませんが兜を脱いでいただいてもよろしいでしょうか? 」


 するとエイリは頭を下げて兜を取る。すると目以外は包帯に包まれている頭部が姿を現した。


「申し訳ありません、実は前の冒険で顔に炎の魔法を受けてしまいましてこのようなお見苦しい有様で」


「い、いえこちらこそ申し訳ありませんでした」


 受付嬢は慌てて謝罪の言葉を述べる。


 その様子を魔王は見つめていた。そしていつもは事務的な受け答え以外は行わない魔王だったがその時何を思ったのか受付嬢に


「宝石は好きか? 」


 等と尋ねた。


「は、はい」


 と突然の質問にしどろもどろになりつつも受付嬢は答える。すると魔王は「そうか」と笑いアリスとエイリと共にギルドを後にした。


 宝石商はギルドを出て大通りを向かってすぐの所にあった。薬屋や武器屋と異なりレンガ細工で看板もカラフルにキラキラと輝き華やかに飾り付けられている。これほど人気ということは報酬を受け取った冒険者が女性にせがまれて買いに行くということも多くはないだろう。外装を見るとその狙いは的中していると言えよう。上手く考えたものだ、と魔王は思った。


 中へと入ると様々な宝石がガラスケースの中に所狭しと陳列されていた。中には戦闘とは無縁な大きな帽子を被りめかしつけた数人の女性が宝石を眺めている。


「わあ」


 とアリスが目を輝かせるのを気を遣ったのか魔王は視線を逸らして見なかったように装った。


「いらっしゃいませ」


 遅れて小太りの四十代程の店員が姿を現す。


「クエストを受注した」


「え、クエストを? ありがとうございます! 」


 店長はお礼を言うと手を合わせる。


「それで、我々は何をすればいい? 」


「はい、今回の依頼は南西にある洞窟から宝石を取ってきてもらいたいのですよ」


「やはり宝石か、女性は皆宝石が好きらしいからな」


「そうなんですよ、宝石には一つ魔法を込めることが出来ましてね、例えば女性の身に危険が起きたときに殿方が仕込んでいた魔法が発動して危機一髪! なんて素敵なことではありませんか」


 店長はまるで自分が女性になったかのように頬を染めて言うと宝石を見ていた女性たちが一斉に頷いた。それはアリスも例外ではなかった。


「ですがそれだけに今では宝石強盗なんて物騒な存在もおりましてね、特に首領ミースが指揮する強盗団は凶悪で首領のミースには一千万の懸賞金がついているのですよ」


 その話を聞きアリスとエイリが喉を鳴らす。


「ほう、一千万か。その女とはどこで会える? 」


 対照的に魔王はキマイラよりも高いな、などと考えて関心を示した。


「えっ……何処と言われましても。もしかしたら洞窟内で出会えるかもしれませんし出会えないかもしれません」


 店長がはっきりしない受け答えをする中


「オウマさんって面白い方ですね」


 エイリがクスリと笑った。


「宝石強盗はともかくとして洞窟内は奥に進みますと強力なモンスターがいるという噂だありますのである程度進んでその場に落ちている宝石を二十個……いえ十個持ってきてくださればそれで任務達成であります」


「仮にそれ以上持ってきた場合は? 」


 魔王が尋ねると店長は目を丸くして口籠る。


「こちらで買い取らせていただくことは可能ですが……その……貴方方の身に何があっても責任は持てませんので無理のない範囲でお願いします」


 店長は最後はきっぱりとそう言った。それを聞いた魔王は「了解した」、と何やら不敵な笑みを浮かべて言った。





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