第16話「魔王VS勇者のブレド」
セントブルクを出た魔王たちはゴブリン討伐のため依頼者からゴブリンの目撃情報があった山の洞窟を目指していた。五人は岩が所々に埋まっている足場の悪い山道を登って行く。
「それでよあのときロアがさ~」
「おい、その話はやめろってブレド! 」
「ハハハハハハ、ロアさんって面白い方なんですね」
「そうなのよアリスちゃん、もうちょっとそういうところをオープンにすれば女の子にもモテるのに」
「うるせー」
洞窟を出かけてからというもの、アリスはすっかりと三人の冒険者と
今のところ、あの者に勇者という称号を得た故の
「オウマ二世さんはどうして冒険者になったんだ? 」
「どうしてか……」
魔王は
「正直な話、金のためだ」
結局無難な理由である金のためということに落ち着いたので述べる。
「そっか、アリスちゃんもいるからな」
「妙なことを聞くようだが、稼げるのか? 例えば四千万ノード程は」
この際だから四千万までの道のりを知ろうと思い切って尋ねる。
「四千万! ? 冒険者は命懸けの職業だからなかなかお金に関しては困らないとは思うけど四千万となると緊急クエストで手柄をたてる以外だと勇者級の難しいので二千万、でもそこから割り当てもあるから……稼げることは稼げそうだけど幾つも死線を越えないとなあ」
勇者は指で数えながらぶつぶつと計算した後そう結論を出して頭を掻いた。
「なるほど、よくわかった。不可能ではないのだな」
「え、そういう反応をするのか! ? もしやオウマ二世さん、結構なやり手? 」
魔王の態度を見てブレドは悟ったようだ。先ほどとは異なり戦いたくてウズウズしている様子だ。両手を胸の高鳴りに合わせるように震わせている。
「こら、無暗にそうやって闘いに申し込まない! すみませんオウマさん、こいつ強い人と会うと戦いたくてウズウズしてしまうようで」
聞き耳を立てていたのかウィズが素早くブレドを叱りつけ魔王に謝罪する。魔王の足がピタリと止まった。
「いや、気にすることはない。我も戦ってみたいと思っていたからだ」
気を遣ったとかではなく文字通り魔王は勇者のブレドと戦ってみたいと考えてみた。故に彼にとってこれは嬉しい誤算だった。
「本当かよ? よし、しばらく休憩にしよう! そして勝負だオウマ二世さん! 」
ブレドは嬉しそうにそう言った。
山の丁度休憩地点とも思えるべき少し平らで広い場所に距離を取って魔王とブレドは向かいあう。
「おいおい、アリスちゃんの休憩にはちょうどいいとしても戦うのか……間違いがない様にな」
アリスの隣に腰掛けたロアが呟く。アリスとその隣に座ったウィズは固唾を飲んで二人の様子をみつめていた。
「行くぞ」
「おう! 」
魔王が瞬時に移動し右上から斬りかかろうとする、それを勇者は剣を横にして防いだ。
そのまま振り下ろそうとするも剣はビクともしない。動かぬか、魔王は第一形態とはいえ手を抜いているわけではなかった。剣の差こそあれここで力で押し切れないのは純粋にブレドの力が強いということだ。
「ほう」
魔王は嬉しそうに声を出す。みると剣を間に挟みながらブレドも笑っていた。
次の瞬間ブレドが受けている剣を横にした。
「ぬうっ」
魔王の剣を滑るようにブレドの剣がスムーズに動く。
「貰ったぁ! 」
ブレドはそのまま滑り込ませるように懐に剣を忍び込ませようとする。
しかし、魔王はすぐさま手でこれ以上剣を振れないようにとブレドの腕を押さえつける。
「見事」
「そっちこそ」
こうして二人の闘いは引き分けで幕を閉じた。魔法を隠していたのは奴も同じ、これはこの男の今後の成長が楽しみだ、と魔王は密かに笑った。
「魔王を倒す気はないか? 」
三人の元へ戻る際魔王は尋ねる。
「勿論ある! 俺はオスカーさんの意思を継いで魔王を倒すのが目標なんだ! 」
ブレドは拳を握ると力強く答える。
「そうか、楽しみにしている」
「? 」
ブレドは意味が分からないとばかりに首を傾げた。オスカー、あの勇者の名だろう。どうしてか魔王は彼の名を知ることが出来たのが嬉しかった。
「すごいですねオウマ二世さん! 」
「本当、ブレドと互角なんてやるなあ」
三人の元へ戻るとウィズとロアが魔王を称賛する。
「ブレドさん、凄いです。ま……オウマさんと互角だなんて」
アリスは横でブレドの実力に驚いていた。一見、ルーキーと互角という状況になるのだけど目の前にいるのが第一形態とはいえ魔王ということを知っている彼女からしたら当然ともいえる反応だ。ブレドも何かを悟ったのか嬉しそうに笑う。
「その実力ならオウマ二世さんなら絶対勇者になれるって! 」
「そうか、現勇者の者に言われると有難い」
魔王の我が勇者になれるとは奇妙なことだ、と口角を吊り上げた。
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