第15話「冒険者見習いと勇者称号のパーティー」

 先ほどの魔王騒動の後、魔王と受付嬢は何事もなかったかのように手続きを進めていた。何か魔王が失言しないかと心配するようにアリスが魔王の横で目を光らせていたがその甲斐あってかそれ以降何も問題は起こらなかった。


「それではオウマ二世さん、これで冒険者登録は完了となります、こちらをどうぞ」


 そう言って受付嬢は青いバッジを差し出す。


「これは? 」


 魔王がバッジを手にし首を傾げる。


「そちらは冒険者見習いの証です」


「冒険者見習いだと? 」


 魔王である彼にとって冒険者見習い等という称号は耐え難く思わずドスのきいた声で尋ねる。


「はい」


 彼女にとっては慣れたことなのだろう、受付嬢は怯える素振りもなく説明を続ける。


「冒険者には青いバッジの見習い、赤いバッジの駆け出し、銀色のバッジの熟練、金色のバッジの勇者と等級がございまして……」


「ほう、勇者か」


 冒険者見習いという扱いに憤慨ふんがいしていた魔王がその言葉を聞いた途端顔をほころばせる。受付嬢は「はい」と答えると更に続けた。


「冒険者見習いは青い紙の依頼を三回果たせば駆け出しへと昇格することができます。しかし見習いの方は駆け出し以上の方とパーティーを組まないと戦闘の依頼を受けることはできません。ですので最初パーティーが組めない場合は戦闘のないおつかいの依頼を受けることがオススメです」


「おつかいか」


 何故魔王が見習いとなりおつかいなどをしなくてはならないのか、自らの境遇を嘆く。しかし、これも目的のため、郷に入っては郷に従えというやつか、と魔王は割り切った。


「理解した、長々とすまないな」


「いえ、これもお仕事ですから」


 魔王がお礼を述べると受付嬢は笑顔で彼らを見送った。


「さてと、おつかいとなるとどれがいいか」


 魔王は受付の左隣にある掲示板の前で腕組みをする。その横にちょこんと立っているアリスが確かめるように尋ねる。


「あの、他の冒険者の方と出かけるなんてことは…………ありませんかそうですよね」


 魔王の仏頂面をみて彼女は諦めたようだ。そうして大人しく二人で青い紙で依頼が書かれているお使いのものを探していた時だった。


「一緒にゴブリン退治とかどうだ? 」


 振り返るとそこには金色のバッジをつけた青と金の片手剣を背負った青年と銀色のバッジをつけ茶色の杖に赤い球体をつけた魔法使いの青年と同い年位の女性、同じく銀色のバッジをつけ弓を構えた二人の親かと思われるほど年齢の離れていそうな男がいた。


 掲示板を背に魔王とアリスは三人の冒険者と向き合っている。


「その金色のバッジ、もしや勇者か? 」


 魔王が剣を持った男の鞘を固定するベルトにつけられたバッジを指差して尋ねる。


「ああ! まあ、ただのギルドでの称号で実際は違うんだけどな、オレはブレド、で隣の魔法使いはウィズ、そのまた隣の弓つかいはロア。よろしくな! 」


 ブレドという青年が順番に紹介していく。紹介を終えた後アリスが声を出す。


「よろしくお願いします、ブレドさん、ウィズさん、ロアさん。私はアリスと申します。そしてこちらが……」


「知ってる、オウマ二世さん、だっけ」


 ブレドがアリスの紹介を遮り言う。魔王はああ、と答えた。


「んじゃ、オウマさん提案なんだけど一緒にゴブリン退治なんてどうだ? 」


「おい正気かブレド」


 突然の提案に眉をひそめる魔王とアリスだったがロアという弓使いも同じようだ。


「ああ、最近勇者の称号を持つのが依頼先で謎の死を迎えるってので心配した誰かさんのお陰で依頼を受けられなかったからな。身体が鈍ってるから気分転換にも丁度いいだろ」


「そうよ、六人いた勇者の称号持ちが今では二人にまで減っちゃって。それにミゲルはこの数日何ともないって言うけど、例えロアの言うようにそれが何かの呪いだったとしても勇者向けならまだしも青紙の依頼なら大丈夫でしょ」


 ウィズという女性に言われロアは頷いた。それを笑いながら見ていたブレドは話が終わったのを見計らって再び魔王たちを見る。


「ってわけで、一緒にどうかな? 」


「是非! 」


 そう言ってアリスは飛び跳ねた。魔王は渋い顔をするも勇者という称号を持つブレドへの興味とアリスの身の安全、それに人間としての振る舞いを学ぶいい機会だという想いが勝ち頭を縦に振り承諾しょうだくした。


「よかった、場所は……この付近の山を登った洞窟だな。とはいえ遅くなっても悪いから早速出発しよう! 」


 こうして魔王とアリスの初クエストが始まった。

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