第14話「冒険者ギルド」
所々に存在する案内板に従い大通りを抜けるとセントブルク内の城のすぐ側に存在するギルドに魔王達は辿り着いた。ギルドが近いだけに人々は軽装ではなく武装している人が多く、この都市内で王が襲われようものなら皆が駆け付けることができるほどの距離だった。
「入るぞ」
四階建てほどのギルドの建物の立派さに唖然としている隣のアリスに声をかけて中へと入る。
ギルド内部は広いにも関わらず受付は一つのみでほとんどはテーブルや椅子で埋め尽くされていた。見ると階段の上も木製のテーブルと椅子ばかりで驚くことにほとんどの椅子が人で埋め尽くされていたのだ。この中に我を倒せるものはいないか、魔王は片っ端から勝負を挑んでみたい衝動に駆られるも抑える。
「時間が惜しい」
そうとだけ言うと真っ直ぐに受付へと向かった。皆興味深そうに魔王達を見つめるも声をかける者はいなかった。
「冒険者ギルドへようこそ」
茶髪お団子ヘアの白いワイシャツの上に黒いスーツを着た受付嬢が笑顔で迎える。
「冒険者登録を頼む」
「畏まりました……そちらのお嬢さんは? 」
慣れた手つきで手続きを開始しようとした受付嬢は興味深そうにアリスを見つめる。
「連れだ」
「はじめまして、アリスと言います」
「しっかりしたお子さんですね」
お子さん、という言葉に二人は顔を見合わせ苦笑いをする。
「ですが冒険者には危険がつきものですのでクエストに連れて行くのはやめた方がよろしいかと……」
「ああ、そうだな」
魔王は頷いた後にアリスを見つめる。確かにこれからモンスターと戦うというのに少女を連れて行くなんて危険な行為だ。それに相手はモンスターなのでサリーの様に人間の醜い部分などみる機会もないだろう。そうなると時間が惜しい今彼女を連れて行く必要はないと考えた。
しかし、困ったことに彼女の顔には「何があってもついていく」と書いてあった。
「娘にはあとでしっかりと言い聞かせておく。我の冒険者登録を頼む」
「畏まりました」
そう言うと受付嬢はテキパキと慣れた仕草で書類を用意して羽根ペンとともに差し出す。
「こちらにお名前の記入をお願いいたします」
「承知した」
そう言うとサラサラと魔王は名前を記入し受付嬢へと手渡す。
「ありがとうございます。マオウ二世さん……魔王! ? 」
受付嬢が目を見開き今までの落ち着いた声からは想像もできないほど高い声で言う。それを聞いたギルド内がザワザワと騒がしくなった。
「魔王だってよ、あの騎士が? 」
「冗談だろ」
「でも冗談を言っているようには見えないぜ」
「面白い人だな」
「関わらないほうがいいって」
このようにあっという間に魔王はギルドで注目の的となった。しかし、魔王は微動だにしない。その様子を見てマズいと思ったのかアリスが大声を出す。
「お騒がせしてすみません、この方、字を書くのが苦手で……ですよねオウマさん! ほら、ここが間違っていますよ」
彼女が身を乗り出し紙を取るとわざと床に置き魔王をしゃがませるとすかさず耳に囁いた。
「私の言う通りにしてください、このままではこのギルドでお金を稼ぎにくくなります」
アリスが何を考えているのかは分からなかったが魔王としてはここで彼女の言うような事態になるのは望んでいないので言う通りにすることにした。
「おおそうだ、すまないな。書くのには慣れていなくてな」
「何だ、紛らわしい」
「だからそう言ったろ」
冒険者たちは誤解だと信じ魔王に興味を無くしたようだった。
「魔王さん一人で向かうのは危険ですね、やはり私がついて行かないと」
笑顔でそう述べる彼女に魔王は言葉を返すことが出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます