第13話「セントブルク到着」

 食堂を出て数十分程歩くと巨大な門が出現した。その横には二人の守衛であろう武装した二人の男がいる。


 「ついにたどり着いたのだな」


 「はい」


 二人は歩を止め巨大な門より高いところにある城を見据えながらそう言葉を交わすと再び歩を進め街の中へと入っていった。


 首都セントブルクに辿り着いた二人は門から中へと入り華やかな通りを直進すると人通りの多い中央広場ともいえる場所の噴水の側に腰掛けた。


「休憩は終わりだ、行くぞ」


 数十分座っていた魔王は立ち上がると隣に腰かけているアリスに声をかける。


「どちらへですか? 」


 立ち上がりながらもアリスが尋ねる。


「王のいるところに決まっているだろう」


 魔王は遥か高い位置にそびえたつ城壁を見据えて答える。


「お城へ向うおつもりですか! ? 」


 彼女は素早く魔王の腕を掴んだ。


「無茶ですよ、入れてくれるはずがありません」


「そんなもの押し通ればよかろう、あの程度の城壁我にとってはないに等しい。なんなら我が突破した後で『ゲート』で迎えに来てやろうか? 」


 魔王は表情を変えずに言うが彼女は腕を離さない。


「ですが……ほら、王様が騒ぎに気が付いて秘密の通路から逃げ出すなんてことも考えられます」


「それならば城ごと我が……」


 そこまで言って魔王は言葉を切る。他人が城を丸ごと吹き飛ばしたのをみて復讐を成し遂げたと達成感を得られるかと言われると微妙なところだと彼は考えたのだ。


「そうだな、城へ行くのはやめておこう」


 それを聞いたアリスは安堵のため息をつくとようやく魔王の腕から手を離した。


「ならばどこへ行く? 意見があるのならば聞こう」


 魔王の言葉を聞いて考えがあったのだろう彼女は笑顔で答える。


「冒険者ギルドなんていかがですか? ギルドで功績をあげた冒険者はお城で王様から直々に称賛されると聞きます」


 しかし、魔王は首を縦には振らない。


「何故我がそんなことをしなければならない」


「えーっと……ギルドに所属すれば魔王さんの実力ならば王様に確実に会えると思います。それに依頼がくれば強いモンスターとも戦えますしお金も頂けます」


 彼女がギルドに所属するメリットを早口で説明するも魔王は眉一つ動かさなかった。


「強いモンスターと言ってもモンスターで我に敵うのはいまい、金とやらにも興味はない。何か良い侵入手段がないか街を探るぞ」


 そう言って人ごみの中へと歩いて行ってしまった。彼女ははぐれないように小走りで後を追いかけた。


「待ってください! 強硬手段では王様にお話を伺うことが出来ません」


 人混みの中ようやく追いついたアリスは魔王の腕を引き階段を降り人の少ない橋の下まで降るとそう言った。あの時は聞こえないふりをした上に彼女の復讐心に気を取られていたが彼女は王との会話目的でついてきたのだと思い出す。


「なるほど、それならば侵入も駄目だな」


 今初めて聞いた体で納得したように呟いたその時だった。遠くに数人の人影が目に入った。魔王は視線の先へと進んでいく。


「魔王さん、どちらへ」


 彼女は再び彼を追いかけるのであった。近くなるにつれて徐々に遠くの人影が鮮明になっていく。思った通りそこにいた人々は一人の男を覗き皆下着姿の女性だった。


「あれはどういうことだ」


 魔王は立ち止まり後ろのアリスに尋ねるもアリスは目を凝らしても何も見えないようで首を傾げるだけだった。仕方なく更に近寄ると彼女はハッと息を呑む。


「あの方は恐らく奴隷商人だと思います」


 怯えるように彼女が伝える。


「奴隷? なんだそれは」


「何でも言うことを聞かせることが出来る人ということです。ですがあの方たちは」


「ほう、お金というのは人を買うことも出来るのか。しかし何故彼女らは逃げ出さずに大人しくあそこであんな姿で従っているのだ? 首輪はあるが鎖で縛られているわけではなかろう」


「それは……恐らく彼女たちにはほかに行く場所がないからではないかと思います」


 目を伏せてアリスが答える。みると皆顔立ちが整っているも目は死んでいるようだった。なかにはアリスと同じくらいの年齢らしき人もいた。あの年で行くアテがないとなると相当過酷な境遇だったに違いない。その話を聞いたら彼女はどう思うか。それを考えると魔王は笑わずにはいられなかった。


「行くぞ」


 魔王は歩き出すと一直線に奴隷商人の元へと向かっていった。


「へいいらっしゃい、良いのが揃ってまっせ」


 髭を生やし立派な服に身を包んだ奴隷商人は魔王達に近付くと奴隷商人が両手を擦り合わせながら迎える。


「幾らだ」


「どれの話ですか? 」


 どれ、かまるで物を扱うみたいだな、魔王は苦笑を漏らす。しかし皆希望を感じないような良い目をしている。


「全部だ」


 全員の目を気に入った魔王は思わずそう口にした。それを聞いた奴隷商人が目を丸くする。


「えっ、全部となると……5人で4000万ですかねえ」


「なるほど、高いな」


 アリスが見せた金貨がざっと4000万枚必要ということになる。それを集めるのがどれほど大変なのかはすぐに分かった。魔王は右掌を奴隷商品へと向ける。


「ひぃっ! 」


 怯える奴隷商人


「駄目です! 」


 何を行われるのか察したアリスがすぐさま腕を掴み苦い顔をしている魔王に囁く。


「近付いて気付きましたがあの首輪には何らかの仕掛けが施してあります。お金以外で解決しようとすると恐らく……」


「そうか」


 何を言おうとしたのか察した魔王は腕を下ろす。


「冗談キツイっすよ旦那」


 それを見た奴隷商人はホッと胸を撫でおろした。魔王は身を翻す。


「全員残しておけ、必ず金を持ってくる」


「本当ですかい? うちぁ取り置きはやってませんけどまぁ値段が値段なんで問題ないとは思いますがお早めに! 」


 奴隷商人と残された5人の女性の視線を背に魔王とアリスは元来た道を引き返す。


「お金持ってくるってどうするのですか? 4000万となると私も足りるかどうか」


「足りたとしても中身はなくなるだろうな、だが心配には及ばぬ。貴様の手は借りぬ」


「どうするのですか? 」


「決まっている、ギルドへ行く。金が稼げるのだろう? 」


 魔王は淡々と述べた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る