第12話「食事」
ぐぅぅぅぅぅ~~
ゴブリンとの戦いから数日、あと少しで首都セントブルクということを知らせるかのように人通りが多くなった野原を歩いているときに緊張感のない音が響き渡った。
「なんだ今の間の抜けた音は、すぐ近くのようだがモンスターか? 」
魔王が不審に思い横を見るとアリスが赤面している。様子を見るに音を出したのは彼女のようだ。
「なんだ今の音は」
「すみません、お腹が空いてしまって」
腹を擦りながら彼女は申し訳なさそうに答えた。それを聞いた魔王は首を傾げる。
「お腹が空いた、とはどういうことだ」
それを聞いたアリスは目を丸くする。そしてどうしたらよいのかとしばらく頭を抱えたのちに口を開いた。
「お腹がすくというのは、何かを食べたくなったということです」
「何か? しかし今まではそんな素振りは見せなかったではないか」
魔王の言うように彼女はここ数日間飲まず食わずで旅をしていた。
「それは……色々あったので」
「つまり今までが異常だったということか」
彼女が小さく頷く。言われて彼女をまじまじと眺める。確かにどこか覇気のない顔になっているな、と魔王は納得した。
「それで、何を食べるのだ、ゴブリンか? スライムか? 」
魔王の問いに彼女だった。彼女は勢いよく首を横に振る、彼女のブロンドヘアの髪がバサバサとせわしなく揺れる。
「いえ、あ! 丁度いいところに」
彼女が一点を見つめ顔をほころばせたので倣ってそちらを見るとポツンと木造建築の一軒家が立っていて看板にはでかでかと「おかんずキッチン」と書かれている。
「何だあの建物は」
「入れば分かりますよ」
目を細めて看板をみつめる魔王の手を引き家の中へと入って行った。
「いらっしゃい、二名様ですか? 」
中へ入ると長い木製テーブルとそこに丁寧に等間隔で置かれた椅子が並べられている内装とともに一人のふくよかな女性の姿が視界に入る。
「はい」
「空いてるお席へどうぞ」
「ありがとうございます」
アリスはてきぱきと応対をすると奥の席まで歩いて行き座った。よく分からないが魔王もそれに倣って彼女と向かいあうように座る。
「ご注文は」
「こちらのストレイワ定食を1つお願いします」
「畏まりました」
そう言うと女性は魔王の方をチラリと見ながら裏の厨房らしき場所へと姿を消した。
「定食と書いてある、ここは何かを食べる場所なのか? 」
テーブルに置いてあるメニューを指差しながら魔王が尋ねるとアリスが頷く。
「はい、ここではこのメニューという紙に書いてある中で好きなものを食べることができるのです」
「ほう」
魔王は興味深そうに店内を見渡す。しばらくすると料理が運ばれてきた。
「お待たせしました、ストレイワ定食となります」
そう言って女性は更に盛られた米らしきものと野菜と大きな塩が振ってあるよく焼けている骨付き肉が乗った皿をテーブルへと置いた。
「それではごゆっくり」
そう言うと再び女性はどこかへ消えていった。
「いただきます」
アリスが手を合わせてそう言うと野菜を食べ肉に齧り付く。その様子を魔王は頬杖をつきながら眺めていた。
「それはどんな味なのだ? 」
「ストレイワですか? こちらは柔らかくて肉汁と共にふわりと口の中で溶けるような素晴らしいお肉で塩で味付けをすると凄い美味しいのですよ」
彼女が嬉しそうに言う。それを見て魔王は鼻で笑った。
「何の肉かは分からんがそう言って他人が殺したものの肉は笑顔で食うのだな」
それを聞いた彼女の顔が凍り付く。軽口のつもりだったが思ったよりも彼女に重く刺さったようだ。
「すまなかった、しかし人間というのは物好きな者だな。狩りをして手に入れた肉を他の者に振舞うとは」
魔王はこれまでの会話からアリスが純粋であると共に気真面目なところもあると把握している。それ故ここで変に追い詰めて食事も摂らずこれ以上元気がなくなるのは困ると判断し話題を変えることにしたのだ。時間はたっぷりある、ゆっくりやればいいのだ、魔王は冷笑を浮かべる。
「……いえ、それは違います。お金を払うことになっていますから」
数十秒遅れて、彼女はいつもの調子で言った。
「お金? なんだそれは」
「お金は……これです」
彼女は腰に提げていた巾着袋から一枚の金貨を取り出すとテーブルに置いた。
「これは、ノードというもので、メニューに記されている分のノードを支払う必要があります」
そう言いながら彼女はメニューの下に書かれている数字を指差した。そこには1600ノードと書かれていた。
「ちなみにこの金貨は1枚10000ノードの価値があります。他には銀貨が5000ノードで銅貨が1000ノード、それ以下は紙幣で……」
「ほう、これが」
魔王は金貨を手に取って左手の親指と人差し指で挟み右手の人差し指でクルクルと回す。片面には城が刻印されていたがもう片面には何もなかった。
「何かを食べなければならないばかりにこれがないと生きていけないとは、人間というのは不便だな」
金貨をテーブルに置きながらつまらなそうに言う。
「他にも武器とか防具、服に家を買うのにもお金は必要です」
「なるほど、聞く限り王はその便利なお金とやらの力で国を支配しているという訳か」
再び左手で頬杖をつきながら満足そうに言う。彼女は頷いた。
「不思議なものだな」
再び右手で金貨を触る。それに合わせるかのように再び彼女のお腹が鳴った。
「長話をさせてすまなかったな」
そう告げて話を切り上げて間もなく、アリスは再び肉に
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