第7話「魔王降臨」

 村長である老人を救った少女と共にいる男は何者か、それは言うまでもなく魔王である。これが新たな魔王の第一形態である人間態であった。魔王と少女は『ゲート』で村の近くまで移動した先の崖の上から遥か下にポツンと見えている老人と兵士の姿を見てその周囲の姿を思い浮かべ再び『ゲート』でこの場所へと移動した。

 

 かくしてこのように危機一髪の事態に駆け付けることが出来たのであった。


「な、なんだ貴様ら! 」


「ふん! 」


 魔王はすかさず突然の彼らの登場に度肝を抜かれている兵士から強引に手に掴んだ長剣の刃を引き剣を奪い取る。


「アリス、どうしてここに」


 夢ではないかと目を擦る老人に少女は優しく微笑む。


「もう大丈夫です、村長さん。ありがとうございました」


 二人の会話を背中越しに聞きながら魔王は村に入った兵士たちの場所を、周りの木造建築の家とその背景を頭に刻み込む。前述のとおり、魔王はこうして訪れたことがない場所でも視界に入りさえすれば瞬間移動が可能なのだ。


「…………! ? 」


「遅い! 貴様ら等、魔剣を抜く価値もない! 」


 魔王はパチンと指を鳴らして『ゲート』を出すと潜り移動すると突然現れたことに驚く兵士の前に現れ心臓付近に奪った剣を突き刺す。今度は襲われている親子が視界に入った。


「怖くないよ僕、すぐにお父さんの後を追わせてあげるからねえっ! ガはっ! ? 」


 すかさず親子の元へと移動すると兵士に剣を突き刺す。


「ありがとうございます」


「おじちゃんありがとう」


 彼らの言葉を背に魔王は再びパチンと指を鳴らして『ゲート』を出現させるとその中へと入った。


「待たせたな、残りはあいつらか」


 やがて村に潜入した全ての兵士を倒すと少女の元へと再び現れた魔王は少女の頭に返り血を浴びた手を置くと眼前の以前四十人はいる兵士たちを睨みつける。いつの間にか門から兵士たちの元へと戻っていた隊長が叫ぶ。


「うろたえるな、相手はたった1人だ! 」


「「「うおーーーーっ」」」


 その言葉で恐怖が消えたのかヤケになったのか、兵士たちが一斉に魔王へと向かっていった。魔王はすかさず掌を軍隊へと向ける。そして苦笑いを浮かべながら呪文を唱える。


「『エンペラーフレイム』! 」


 たちまち巨大な火の玉が兵士たちを焼き尽くした。その火の玉は七年前に勇者が繰り出したものそっくりだった、魔王はこの村を救うにはこの魔法がいいと考えたのだ。


「あっ……あっ……」


 あまりの惨状に隊長と裏切り者のサリーは上手く言葉が出ない。いち早く立ち直ったのはサリーだった。彼女はとにかくこの場を離れようとしたのだろう素早く隊長が乗っている馬に飛び乗ると手を伸ばし手綱を引いて馬を走らせる。


 だがその逃亡も失敗に終わった。『ゲート』により瞬時に進行方向に現れた魔王は未だ気持ちの整理が追い付かない隊長の心臓に剣を突き刺す。


「ああっ! 」


 サリーは隊長が馬から崩れ落ちるのに巻き込まれバランスを崩しドサッと無残にも地面に叩きつけられる。すかさず魔王がその前に剣を構えて立つ。


「ひ、ひぃぃ! 」


 魔王が声の限り叫び後ずさる女性を蔑むように見下ろし剣を振り下ろそうとしたその時だった。


「待ってください! 」


 勇者の娘が村長の手を引いて駆け寄ってきた。


「サリーさん、一体どうして」


「そうじゃ、どうしてお主が……アリスと仲良く遊んでおったではないか」


 息を切らしながら二人が尋ねる。


「何よ、裏切り者の勇者の娘の情報だけで一生遊んでも使えないほどのお金が手に入るのよ? 恩があるっていったってそんなの当人でもないその娘になんて関係ないじゃない! 何が悪いのよ! 」


 サリーの言葉を聞いた二人は息を呑む。魔王ですら何も言わなかった。というのも魔王にはこのサリーという女が興味深かったのである。


 魔王がこれまで見てきた人は勇者の様に自ら前に出て誰かのために戦うものと逃げ惑うものだった。サリーのような自らのために他者を陥れるものをみるのは初めてだった。


「すみませんでした」


 沈黙がしばらく続いた後少女が涙声で謝罪の言葉を述べた。


「サリーさん、ごめんなさい。貴方の言う通り私は、私自身は何者でもありません。それなのにこの村にいて村長さんや村の人に迷惑をかけて、本当にすみませんでした」


 少女の謝罪を聞いたサリーはワナワナと震える。


「何よ、そうやって良い子ちゃんぶって……あんたのそういうところも前々からムカついていたのよお! 」


 そう言うと背中に隠していたであろう短刀を抜き少女に襲い掛かる。グサッ! と何かを貫く音が荒野に響いた。










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