第6話「襲われる村」

 とある荒野に囲まれた村の門の前で武装をして馬に乗り鎧に身を包み腰に剣を提げた兵士の隊長らしきものと村長らしき白髪を生やし杖をついた老人が向かいあっている。お互いに互いの顔を見つめながら唇を真一文字に閉じており緊迫した様子だ。それもそのはずで兵士の背後には何十人といった兵士が彼の様に武装して馬にまたがり今にも襲い掛からんとばかりに待機していたのだ。


「この村に勇者の娘がいると聞いたが」


 兵士が老人を見下ろしながら尋ねる。老人はそんな兵士を見上げながらきっぱりと答える。


「いえ、そのようなものはおりません」


「そんなはずはない! 確かな報告があったのだ! 」


 兵士は老人を怒鳴りつけた。


「一体誰がそんなことを……」


 狼狽する老人を前に兵士は後ろの何十人といる兵士に目で合図をする。すると1人の茶髪の地面につくほどに髪を伸ばした成人したであろう女性が兵士たちの間から姿を現した。


「サリー、何ということを……勇者様への恩義を忘れたのか」


 老人は顔を歪めて声の限りに叫ぶが彼女は何も答えない。その様子を見た兵士が笑う。


「突撃! 北の国の王からのお許しがある。勇者の娘ごと裏切り者の村民を皆殺しにしろ! 」


 その言葉を合図に兵士たちが馬の手綱を引き村の門目掛けて迫る。


「そちらがそのつもりなら……かかれぃっ! 」


 老人の言葉を合図に武装した兵士たちが襲い掛かる。そして村人と兵士たちの戦いが始まった。一見武装した者同士互角かに見えた戦いだったが片方は武装しているとはいえ戦闘は付け焼刃やきばの村人、もう片方は訓練された兵士である──その差は歴然だった。


「ぐあああああああああああああ」


「ああああああああああああああ」


 無情にも老人の背後で悲痛な叫びが響く。それをみて先ほどから老人の側にいた兵士はニヤリと笑った。


「もう一度聞こう、勇者の娘はこの村にいるのか? 」


「勇者の娘は…………この村にいたが今はいない、じゃから退いてくれ」


 勇者に恩があるとはいえ立場を考え村人の命を優先したのだろう。老人は苦悶の表情を浮かべながら真実を述べた。


 しかし兵士はそれを聞き更に口角を吊り上げる。


「ほう、認めたな。この村全てがセントブルクの国王に背いた逆賊どもであると」


 そう言いながら兵士は剣の柄に手をかけ鞘を引き抜くと老人目掛けて思い切り振り上げた。


「この村の民のように貴様の息の根を確実に止めてやる、死ねえ! 」


 振り下ろされた剣を前に老人は祈るように手を組み口を開く。


「勇者様、身勝手な頼みでありますが私共をお助けください」


 老人が目を瞑りそう言い終えた後、おそるおそる目を開いた。それもそのはず、剣を振られた後に自らが斬られるまでに言葉を残せることは不可能だろう。老人自身も途中で命を落とすと考えていたのであろう、いつまでも死が訪れないことを不審に思ったのか頭上を見上げる。

 そこにはどういうわけか謎の黒い渦のようなものがぽっかりと空いておりその穴から血を垂らしながらも剣を止めている手があった。


「村長さん、ご無事で何よりです」


 穴から出て来たブロンドヘアの少女が嬉しそうに語り掛ける。老人はこの少女をよく知っていた。勇者の娘アリスである。


「ほう、どうやら間に合ってしまったようだな」


 少女と共に現れたブロンド色のの髪と髭を生やした程よく年を取った三十代程であろう頭以外を銀色の鎧に身を包んだ男が感心したように言った。


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