第5話「アリスの願い」

 願いを言え、とは言ったものの彼女の願いはおよそ見当はついていた。それは「父の命を立ったセントブルクの王への復讐」

 

 魔王自身も勇者を殺された恨みから同じ気持ちだったのでこんな子芝居をしてまで彼女の口から「復讐」という言葉が出るのを楽しみにしていたのである。


 しかし、少女のお願いは魔王の予想していたものとは異なった。


「私の村を、助けてください! 」


 少女は両手を合わせて祈るように懇願する。


「何だと」


「復讐」という言葉どころか「助けて」等と魔王に似つかわしくないお願いに顔をしかめる。


「実は、父が処刑されてからは家族の私たちも危ないからとその昔父と仲良くしていただいた村に向かい匿っていただいたのですが、セントブルクに住んでいた人によると数日前に見つかってしまい、数日後には軍勢が村に押し寄せると……村長さんは私だけでも逃げなさいって」


「それは貴様を逃がせば自分たちは助かるという判断からではないのか? 」


「そ、それは……」


 魔王の指摘に少女は俯く。


「まあ、嘘だと断定されて武力で制圧される結果になる可能性の方が高そうだがな」


 気まずくなった魔王はすかさずフォローをしたつもりだったが結果的に少女の顔を青ざめることとなった。


「そんな、数日後には村が……私はそこにはいないのに皆が殺されちゃう」


 魔王は彼女の様子を伺いつつも先ほどから気になっていたことを尋ねる。


「その数日後というのだが、ここに来るまで幾日かかった? 」


「父の託した地図があったとはいえモンスターとは戦わないように隠れながらきましたから、5日程は……あ」


 少女のこれ以上青くなりそうもないと思われた顔から更に血の気が引いていく。手の力が抜けたのかはらりと彼女が一枚の紙片を落とした。その様子を見て魔王は敬語により少し大人びて見えるが、こういうところをみるとやはり年相応の少女なのだと鼻で笑う。


「その村とやらは……フハハハハ、小娘貴様は運が良い。ここなら数秒でたどり着ける」


 落ち着いた様子で彼は少女が落とした紙片を手に取り地図だと確かめると突如笑い出した。


 魔王の空間移動『ゲート』はどこにでもいけるわけではなく跳ぶ場所を思い浮かべなければいけないので数十年城に籠っていた魔王はほとんど景色を忘れてしまったのだが、その地図に記された場所は数十年前だがこの世界を蹂躙するときに拠点としていた思い入れのある場所の近くだったのだ!

 

 しかし、そのどうやら少女はショックの余り気絶してしまったようで魔王の言葉は届いていなかった。


「1秒でも惜しい状況ではないのか? まあ我も数秒準備に時間がかかる。この際人間の姿も新しいものにしたいのでな、その間だけでも疲れをいやしてもらうとしよう」


 そう呟くと魔王は横になっている少女の金色の髪を軽く撫でた。


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