信者の嘆き

「なあ さっき外したばかりなのにもうまた装着するのか?」


セリザワは再びロボットスーツを着させられていた。博士の助手がセリザワの体に手際よくロボットスーツを装着していく中、セリザワはただされるがままに助手達の後ろに立っている博士を見ていた。


「まあ ぶっちゃけロボットスーツは使わないんだがな 一応仮面、ロボットスーツ、ローブで1セットだから とりあえず着けるんだ」

「で、何をするんだ?」

「これからセリザワ君には十三番目のナイトとして神殿に行ってもらう そこで信者達の願いを聞き入れろ」

「ロボットスーツを着た人間を崇めているのか そのナイト教というのは 信じられん」

「特に名前はないが...まあそれでいい」

「このロボットスーツ一々装着するのが面倒くさいんだよな」

「それは目下改良中だ 先ほどの警察との鬼ごっこがいい実験になった 新しいガジャットを作らねばな!」


博士はこの類の話になると我を忘れて話に集中する癖があるな。早く抜け出せるような返しを思いつかなければとセリザワは自分の心にメモをしておく。


「お待たせ」

「ん? 誰だ?」


声のした方をセリザワが振り返ると、そこには顔の目の部分以外を黒色の布で覆い、体の部分は機動隊の格好にも似た黒色の防弾チョッキに身を包んだ、遠目から見ると忍者のような風貌の者が立っていた。背中に背負っている謎の棒状のケースが余計に忍者感を際立たせる。


「いや 誰って 声で分かるでしょ 普通」

「...サナダか?」


忍者が頷いた。正確にはサナダが。


「サナダ君も僕とセリザワ君同様にナイトのメンバーなんだよ」


サナダの異様な格好をまじまじと眺めていると博士が聞いてもいないのに補足説明をしてきた。


「君のロボットスーツ程ではないが、身体機能を上昇させる補助器具を内蔵していてな セリザワ君が対戦型とするならばサナダ君は隠密型といったところか」

「隠密ね あの背中のやつが目立つんだが」

「あれは万能ガジャットだよ 無線接続をしていないデバイスにも接続できるようにマルチコードが何種類もあのケースに入っていてな 大抵のデバイスはハッキングできる ハッキング範囲ならサナダ君の方が上だな それにあのケースの側面にはレーザーカッターをつけた。金庫なんか容易く破壊可能だぞ それにサナダ君の運動神経なら敵を屠ることも––––––」

「博士! 喋りすぎ」

「いいだろ? 今後行動を共にする仲間の情報は共有しておいた方がメリットが高い 特にサナダ君は普段も気配を消すのが上手だから背後に急に現れて....大変....な...んだよ....分かった話すのはやめます」


サナダの忠告には意外に言うことを聞くようだ。今後話が長くなりそうになったらサナダに振っておこう。かと言ってあの目で睨まれたらキツイが。


「カク 準備できた? 行くわよ もう18:00を過ぎたから神殿に信者が来てるわ」

「おう」


サナダに連れられ着替えいていた部屋を後にし、しばらく歩くと何もない真っ白な部屋に到着した。よく見るとうっすら地面に円形の線があったが。


「随分と質素な部屋ですな」

「あそこの円の真ん中に入って」

「これから神殿に行くとか言っていたがいいのか? 行かなくて」

「今から行くのよ ここはちょうど神殿の真上に当たるから」

「何?」


すると、次の瞬間、真っ白な部屋が明るくなった。セリザワは思わず眩しさのあまり手で顔を隠した。


「今から登場していくんだからそんな見っともない格好しないでよ それにあんた仮面つけてるでしょうが」


確かに仮面のおかげで眩しいと思っていた部屋の明かりも瞬時に気にならなくなっていた。自動的に光量が仮面のアイフィルターで調節でもされたのだろう。


「よく眩しくないな」

「もう慣れたわ それに水にもね」

「水?」


サナダはこれから起こる全ての工程を知っているためかとても冷静だ。そんな態度に若干だがイラついてしまうが、すぐに足元から湧き出てきた水の噴射により沈静化された。


「うわ!? なんじゃ! なんで水が」

「この神殿の下に噴水があるのよ その噴水の水が天井まで到達するとナイトが天井から噴水に乗って神殿に降臨するという演出になってるの」

「普通に行けばいいものを... とういうか噴水に乗るって 無理だろ」

「まあ 普通水の上には乗れないけど マジックと一緒よ 水の柱の中にある透明な台が噴水と同時に天井まで伸びるからその台に乗って降下してくの」

「もしかして この水は神殿の噴水の水なのか?」

「そうだって言ってるんじゃん さあ もう降りるわよ ナイトらしくしてね」

「ナイトらしくって言われてもな...」


数秒後、台が下から現れた。


そして、サナダとともに台に乗り下へと降りていく。白い部屋が明るくなったのは後光を表現するためか。演出にこだわり過ぎだと思う。


すると、神殿でナイトの降臨を待っていたと思わしき人間達の拍手の音が鳴り響いた。


パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!


どこかの調子に乗った金持ちの結婚披露宴じゃないかと言われても否定できない登場の仕方だが、降下中のセリザワの目には本当に神が降臨したかのごとく真剣にセリザワ達のことを眺め、そして拝んでいる者達の姿が目に映った。


セリザワ達が降りたところは神殿の祭壇の後ろに設置されていた噴水。そして、目の前にはここの神殿を埋め尽くすほどの信者で溢れかえっていた。


どうすれば良いのか戸惑っていると、信者側から一人の神父と思わしき初老の男性が祭壇へと近寄ってきた。


神父がセリザワ達の前まで到達すると、片膝を地面に付き頭を下げ平服の姿勢をとった。


「ナイト様 ご降臨感謝致します 信者を代表しまして私、フィルンデール・コウトスが挨拶させていただきます よろしいでしょうか?」

「ええ お願いします」


今までのサナダのセリザワに向ける荒っぽい声質とは異なり、聖女のような透き通った美しい声で忍者姿のサナダが神父に返事をした。二人の最新テクノロジーに身を包んだ者を神殿で信者達が拝んでいる姿を第三者目線で観察したのなら、おふざけでもやっているのかと思ってしまう。だが、ここにいるセリザワ以外は至って真剣に儀式を行っているのだ。理解は出来ずとも軽蔑することなど出来るはずがない。


「これより、信者達の嘆きをナイト様方にお聞き願います こちらへどうぞお越しください」


フィルンデールが顔を上げ、セリザワ達を祭壇へと案内する。そして信者達の前に立ったサナダが告げた。


「私は十二番目のナイトです。今日は皆様方の嘆きを聞きに降臨しました。体の内側に溜まった嘆きをどうぞ私どもに吐き出してください。そして今回は私一人でありません。十三番目のナイトを連れて参りました。十三番目は降臨したてではございますが、皆様の矛となり戦いへ赴きます。ですのでその十三番目に皆様の思いも一緒にお伝えして頂ければ幸いでございます」


サナダが信者に勝手に告げると、話を静かに聞いていた信者達がざわざわと騒ぎ始めた。内容としては、


「つっ 遂に! 十三番目様が!!」

「やっとこの時が来た! これでやつらに痛手を負わせられる」

「長かった 本当に長かった」

「反撃開始ね! 私たちの力を見せつけてやるわ!!」

「ナイト様に我々の思いを伝えるんだ!」

「聖戦の開始だああ!!」


歓喜に沸く信者達。


それを見て、何も知らないセリザワ自身は己の内に何故だか罪悪感が湧いてきた。


(何をそんなに期待してる? 俺は...俺はなんも出来ないぞ それに純人間の支援を決めたわけでもないのに...)


「それでは十二番目のナイト様はこちら側の信者を そっ そして十三番目のナイト様にはあちら側の信者の嘆きをお聞きくださいませ」


緊張からか若干声が裏返っているフィルンデールがセリザワ達を信者の元へと誘導し始めた。


「ありがとうフィルンデール。そういえば...ナターシャはここに?」

「おお! 私どもの名前を覚えて頂いてるとは感謝のしようもございませんっ はい ナターシャ・ロレンツも神殿に来ております」

「分かったわ では十三番目 そちらをよろしくね」

「...ああ」


サナダはナイトとして信者の方に行ってしまった。本当ならもう上に戻りたいのだが、そう簡単にはいかない。


(とりあえず 聞くしかないか... ナイトっぽくってどうやってやんだよ)


ゆっくりと祭壇を降り、信者達の方へと向かう。


すると、両手を指し伸ばしてきた信者達がすぐにセリザワの周りを囲んできた。


「十三番目様! 私、ニコッレタの話を聞いてくだされ! あの忌々しいダスプ大統領を殺してください!!」

「リンク社の代表を! 彼奴らさえいなければうちの子は」

「地上にも私らが暮らせる家を 家を建ててください!」

「仕事をできる環境を 遺伝子野郎がいては無理です!」

「聖戦はいつ行われるのですか!? 私も参戦しますぞ!」

「遺伝子改造人間に鉄槌を!!!」

「私、ボッレタの話を!」


矢継ぎ早に信者達の声がミックスされてセリザワの耳に洪水のごとく押し寄せてくる。何人もの意見や嘆きを同時に聞くことはできないので、近くにいた者から順に話を聞いていくことにした。聞くといってもこの人数じゃこちらから返事をすることはできないので、一方的に聞いているだけだが、


1時間後、


脳がパンクするほどに信者達の嘆きの聞き取りが終わった。


聞いているだけでもこれでは重労働だ。精神的に疲れる。特に暗い話をたくさん聞くと。


彼らの話はまとめると主に仕事、遺伝子改造人間、純人間の生活、殺し、革命、聖戦、復讐など。皆、生きてる間になんとか遺伝子改造人間達を懲らしめたいと思っている者であった。


博士は純人間の解放に賛同する全ての者と言っていたが、信者達は純人間に賛同する遺伝子改造人間達のことも嫌うのだろうか。みんながみんな嫌うとは考えられないが、その逆も同様にして考えられない。もしもセリザワが遺伝子改造人間だと自白したら彼らはどんな反応をするだろうか。絶対にやりたくはない。お互いに悲劇が待ち受けているだろう。


「それではナイト様方、我らの嘆きをお聴きいただきありがとうございます このご恩は決して忘れません」


フィルンデールの言葉で嘆きを聞く時間は終わった。


そして、サナダも目的を果たしたのか噴水へと戻っていった。


「では皆様、またお会いしましょう ニュースは絶えず確認してくださいね 昇天!」


サナダの合図で噴水の水が再び吹き出し、セリザワとサナダが天井へと上昇していく。


「ナイト様!!」

「信じております!」

「ナイト様万歳!!」


下の方からは依然熱が冷めない信者達の声が聞こえてきていた。

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