● 第68話 一仕事終えたら、いきなり街のVIPになったヨ。
その現象は、まるで柔らかい光がマーベルシュタット全域を包み込む様に広がっていった。
この街に悪意をもたらしていたドゥアーム教団は、今正に瓦解したのである。
オレが地下通路を引き返し、酒場に戻るとユーリは一足先に一杯
カフィールではなく、高級なラドー酒というモノだった。
床には、ユーリが倒した敵の残骸が黒い粉末状になって、少し残っていた。
「よう、お疲れ! 先に頂いてるゼ。
目的地が空き地だった時はドウしたもんかと思ったが、本丸が地下とは考えやがったモンだ」
「何かの捜査の手が及んでもバレ無い様、計画的に企んでたんだな。
一度は完成間近にまで建てた倉庫を燃やしてまで、コノ施設を隠しておきたかったって訳だ。
まぁ、アンナ施設だもん……普通の人には、見せられないよね。
さて、とりあえず報告を兼ねて一旦ピエール邸に戻るか」
「あぁ、ソレがイイだろーナ。
ココは、閉店の看板出して一応ユウの『箱』で誰も入れない様にしとくとしてヨ。それにしてもコンナ場所が、他にも色んな街に在るんだろぉナ。
全部、潰さねぇとコノ戦い……、終わらねぇゼ」
「モチロン、全部潰してやるさ」
そう言いながら、オレ達二人は酒場を出て『箱』で包み立入禁止にした。
念の為、地下の倉庫の扉と施設全体も同様に誰も入れなくしておいた。
そう、現場保存は大切。
戻る道中、道を行き交う人々の表情は本当に晴れやかだった。
今まで心の片隅にシミの様にこびり付いていた、教団の闇の思想と暴力の恐怖が完全に洗い流され真っ白に解放されたのだ。
ヤッパリ平和ってイイよね……。
ピエール・エラン邸で待っていたのは、正に歓喜と呼ぶにふさわしい皆の笑顔だった。
「二人とも、ようやってくれたの。
しかもこの短時間に……。
このワシ自身も、久々にこの力を実感出来た事、嬉しく思う」
「一応、現場保存してきたから調べる時は一緒に行くよ。
にしても、教団のヤツラ例の薬物の中に『ギフト能力者の血』を混ぜて、実験台になってた人達に投与してた。
アンナ事が許されていいはずがない!
ソレに教団は、反ギフト思想を掲げてるのに何で人工的に能力者ナンテ物を造ってるんだろう?」
「ソノ質問は、
そして、ソノ答えもとても簡単なモノなのサ」
サシャが、優しい笑みを浮かべながら言った。
「彼らは、自分達の思い通りに出来る能力者が、手駒として欲しかったのサ。
本来の『ギフト』という能力は、あくまで家族や仲間のための力で人に危害を加える様な存在じゃないのだからネ。
人工的に造ってしまえば、権力者にとっては強力な武器になり益々自分の地位を揺ぎ無いモノに出来るという訳なのサ」
「なるほど……ね。
施設の研究員は、成功例はまだゲイル一人だけだって言ってたから早めに潰せて良かったよ。
そうだ、あの薬物『能力者の血』を混ぜて投与してたらしいけど、ソンナ物どうやって手に入れたんだろう?」
「あぁ……、ソレはネ。
恐らく、以前にギフト狩りが盛んに行われた時期があったダロウ?
ソノ時に、採取した血液を特殊な方法で保存してイルのだと思うのサ……。
一方で反ギフトを唱えながら、ギフトの力を使って人々を支配するなんてネ……、敵は相当に頭がキレて、そして同時に心の歪み切ったヤツなのサ。
ボクは、ソノ敵が誰であろうと絶対に許さない!」
サシャの瞳が、決然と輝いていた。
そこへ、この家でオレに街の地図を渡してくれた親切なピエール氏の部下がやって来た。
「お客人方、お館様がお呼びです。
離れの和室の方へご案内させて頂きます」
何だか呼ばれてるみたいなので、オレ達一行は全員で付いて行った。
離れの和室は、母屋を挟んだ洋館の反対側に位置していた。
純和風庭園には池があり、錦鯉に似た魚が悠々と泳いでいた。
ご丁寧に、石灯籠や鹿威しまで配置してある。
当然の様に、扉ではなく障子が
「失礼します!
お客人方をご案内致しました」
「ご苦労、入って頂きなさい」
ピエールさんの優しい声が聞こえた。
案内役の部下が、障子を開けると三十畳程の広さの大広間だった。
その大広間には、ピエールさんの他に二人の男性が並んで座っていた。
オレ達は、ゾロゾロと全員で部屋に入り彼らと向かい合う形に腰を下ろした。
座布団が分厚くて、座り心地が良かった。
「お呼び立てして申し訳ありませんでした、皆様。
コチラのお二人が、どうしてもお逢いになりたいと申されまして……」
視線を移した途端、二人は座り心地のいい座布団を脇に押しやり、正座のままこちらに向かって深々と頭を下げ言った。
「この度は、この街マーベルシュタットを邪教の徒から取り戻して頂き、誠に感謝の言葉もございません。
そして何より、カイザール陛下のご尊顔をこうして再び目にする事が出来ました事、心から嬉しく思っております」
「私も同様に、以前のノヴェラードに戻った様なこの状況に感動を禁じ得ません。これも全て皆様のお力のお陰、本当に感謝しております!」
いやぁ、逢うなり思いっきり感謝されてるけどコノ方々はドチラさん?
あ、さっきカイザール陛下って言ったよね。
って事はまさか、アノ人達かな?
「二人とも、久しいの。
供に国に力を尽くした頃は、まだ互いに若かったの……いや、ワシの方は結構な歳じゃったかの。しかし、お主らは本当に若く、ソノ全力を以て国に尽くしてくれた。
昨日の事の様に憶えておるぞ。
フリッツ・ロイド・マイヤー……そして、クロード・アラン・ベルナールよ。
反ギフト思想に異議を唱えた事で職を解かれたとエルネストから聴いておったが、マーベルシュタットに居ったとはの……」
ヤッパリだ。パワハラ人事で飛ばされた、かつての部下だったか。
「恐れながら、このフリッツ・ロイド・マイヤー、このマーベルシュタットの首席地方都市統括官を務めさせて頂いております。
こちらのクロード・アラン・ベルナールは我が側近の任を担っております。
以後、お見知り置き下さい」
この後は、順番にコチラが名乗る番だった。
オレの場合は、コッチの世界の本当の名前を知らないので普通に名乗ったが、カイザールさんがエルネスト爺ちゃんとヴァレリア婆ちゃんの孫だと補足説明してくれた。
コレには二人とも驚きながらも、深々と
ハイ! いつもの反応来ましたー。
「あの、自分は別に地位の在る人間でも無いですし、最近になってコノ世界に戻って来たばかりなんで、普通に接して下されば十分ですので顔をお上げ下さい……」
「フリッツに、クロードよ。
彼の言う通りでよい。
確かに生まれは高貴であるが、今はまだソノ存在自体を敵に知られる訳にはいかぬのでな。
名前も、あの様に名乗らせておる。
じゃが、いずれコノ世界ノヴェラードを救う一筋の光とも言える存在である事には違いない。
今は、その事だけを心しておけば十分じゃ……、よいな」
「は! カイザール陛下の仰せのままに……」
二人は声を揃えて言った。
「以後、この街マーベルシュタットに於ける皆様の安全は、改めまして我々の名に懸けまして保証致します。
ここにお持ち致しましたのは『国家選定特別通行証』であります。
これをお持ち頂ければ、ノヴェラードのどの街のどんな施設にもフリーパスで入れますのでお役立て頂ければ幸いです。
また、今後この街でいかなる行動を為されようとも、万が一に備え全て我々が警護を担当し、また御命令のままに致しますので何なりとお申し付け下さい」
こうして、オレ達はVIP待遇に昇格したのだった……。
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