● 第67話 マーベルシュタットから、邪教の悪意が消えた日。

 敵が地下に居る事を知ったオレ達は、ソコへ降りるための入り口を探した。

 一応、事を慎重に運ぶために目立つ行動は避けたかったからだ。

 だが、辺りは見る限り空き地である。

 抜け穴か何かの通路が離れた場所まで通っていて、ソコから出入りしてるって事だろうか。


 オレは、もう一度……今度は自分の下方向に、大きく結界を張ってみた。

 そして、心の中に結界内の景色をイメージする。

 すると、地下の内部構造が鮮明に描き出された。

 ソノ場所はまるで、病院と収容所を足して二で割った様だった。


 出入り出来そうな場所は……っと。

 オレは、病院と収容所が混ざった様な何とも言えない施設から出た所に一本の通路を見付けた。コンクリートの様な床と壁で出来、所々に大きめのロウソクが灯された殺風景な通路だった。

 その通路は一直線に、隣の倉庫の地下を突っ切って伸びていた。


 「ユーリ、地下通路を見付けたよ。

 出入りには、きっとソイツを使ってるんだ。

 隣の倉庫の地下を越えて、向こうに続いてる。行こう!」


 オレ達は迷わず、通路の出口目指して走った。

 ユーリが空き地の事情を聴いた倉庫も通り越してしばらく行った角を曲がった先に、ある建物が建っていた。

 地下通路は、この建物がゴール地点だった。


 そこは見るからに……、だった。

 ここらで働く人々が、休憩時間や仕事帰りなんかに寄って疲れを癒す憩いの場なのだろう。


 ――しかし、


 という事は、……

 油断は禁物だな。


 そう思っていると、ユーリは何の迷いも無く酒場に歩を進め始めた。

 「ゆ、ユーリ……。

 イキナリ、入るの?

 作戦は、どーすんだよ?」


 「たかだか、コノ規模の酒場だしヨ。

 何かありゃ、暴れちまえばイイだろ?

 最悪な状況んなったら、ユウの力をチョイと借りるかもしれねぇけどナ。

 まぁ、何にせよ俺は今喉が渇いてて、何か飲みたい気分なのヨ。行こうゼ」


 ヨク解らない言葉が返って来た。

 でも、中に入って見ない事には状況も解らないし通路にも辿り着けないんだから、しょうがないか。道の真ん中に穴ブチ開ける訳にもいかないだろうしね。

 ハイハイ、こうなったら貴方に付いて行きますよ、ユーリさん。


 酒場の少し建て付けの悪い扉を、軋んだ音を立てながら開ける。

 店は、カウンターにテーブル席合わせて二十席程だった。

 半分ぐらいが客……なのか、その振りをしてる警備員ばんけんで埋まっている。

 店員は、見える限りはカウンターの中に居る日焼けした筋肉質の男性一人だけだった。


 「いらっしゃい。 

 ……ココいらじゃ、見かけない顔ですがお仕事ですか?」

 「あぁ、最近来たばかりでヨ。

 コノ辺の事ぁ、何も知らねぇんだが飲める場所聞いたら、ココを教えられたんでナ」


 「そうですか……。では、カウンター席にどうぞ。ご注文は?」

 「とりあえず、カフィールと何かツマミくれヤ。二人前な」

 「かしこまりました」


 

 アヤシイって言ってる様なモンだ。


 注文の品が運ばれて来たが、毒なんかが盛られてる可能性もある。

 飲み食いはやめとこう。ユーリも同じ考えだった様だ。

 オレ達は目配せをした。 

 さて、作戦開始と参りますか。


 「よぉ、主人。

 チョット聞きてぇんだけどヨ。

 ?」

 ド直球のストレートな質問に、店の主人は鳩マメ状態だった。


 「コラ手前テメェ、今ナニ言った?

 

 手前ら、ナニモンだ?

 さっさと答えねぇと、痛い目みるゾ」


 返事をしたのは、客の振りをした警備員ばんけんの中で一番大柄な男だった。 

 

 顔を見ると、目が泳いでいた。


 オレは、さっさと終わらせたかったので何も言わずに近付き、素早くソイツの水月に拳を突き入れ、崩れ落ちようとしたソイツの顔の側面に手を当てるのと同時に足を払い、テーブルの淵に顔面ごと叩き付け、ソノ勢いで砕けたテーブルを突き破って床に顔面をめり込ませてやった。

 

 「さて、痛い目みるのはドッチかな?

 今のコイツは、あばらが三本と鼻骨それから頬骨と運が悪ければ顎の骨も壊れてる。しばらくは意識も戻らないだろうし、当分は固形物は食べられないだろう。どっちにせよ、コノ店は今日で廃業してもらうよ」


 「オメェさん達は、コノ店から出さねぇ。

 この俺、ユーリ・ランゲンドルフ様がキッチリと面倒みてやるからヨ。

 覚悟しときナ!

 ユウ、ここは俺に任せて行け」


 「あぁ、頼んだユーリ……けど、火事は起こさない様に!」

 「言われるまでもねぇゼ。

 イイから、ユウはアッチを頼む。

 ここなら俺一人でも、大丈夫だからヨ」


 その言葉の後は店中が大乱闘になった訳だが、ユーリなら余裕だろう。

 アノ程度の連中ばんけんじゃ、傭兵の相手には役不足だ。

 一番強いと思われた相手は、最初にオレが片付けちゃったしね。



 地下に降りると倉庫があり、その奥の扉を開けるとさっきイメージ化した時に見た殺風景な通路が現れた。直線がずっと続いている。

 日常的に使われている通路なら罠が仕掛けられている可能性は低いだろう。

 一応用心して進んだが、杞憂に終わった。

 通路の終着点には、いかにもなゴツい鉄扉が待っていた。


 さて……、と力を込め引くと思いがけない程アッケなく扉が開いた。

 中に広がっていたのは、イメージ化で見た通りの半分病院で残りは収容所といった雰囲気の広い空間だった。

 薬用アルコールに似た匂いが、鼻をついた。


 二十床程の並べられたベッドには、手足を鉄枷てつかせと鎖で繋がれご丁寧に拘束衣らしきものまで着せられた人間が横たわっていて、ある者はもがき苦しみ……ある者は意識すら無い状態だった。


 五人ほどの医者か化学者らしき白衣を着た人間が忙しそうにベッド上の人間達の様子を見回っている。

 カルテの様な物にメモをしていた。

 オレは迷わず、そのカルテに記入中の白衣に近付き言った。


 「様子は、ドンナ具合だ?」

そう、オレは教団の人間の振りをして、コノ実験の進捗状況を探り出そうと考えた訳だ。どうやら、作戦は見事に成功したようで、


 「あぁ……、驚きましたぞ。

 いつもなら、前もって視察の予告を頂いておりましたので。

 今回は、手違いからか支部からいらっしゃるというお話を聞いていなかったもので……。

 失礼しました、コチラへどうぞ」


 付いて行くと、簡素な応接セットが置かれた場所へ案内された。

 成程、教団支部から定期的に研究の進み具合かなんかを見に来てたのか。

 まぁ、もう教団支部は建物しか無いんだから視察の予告なんて二度と来ないし、今日を境にコノ場所も閉店してもらうんだけどね。


 「コチラが、最新の研究結果になります。

 やはり、

 今の段階で唯一の成功例である、ゲイルの経過を詳しく調べたいのですが」


 そうか、人工的に『ギフト』が発現したのは、まだゲイル一人だけなのか。

 しかし、今『』って言ったよな。

 薬物に、そんなモン混ぜてるって事か……。

 早いトコ潰しといた方がいいな、こりゃ。


 「わかった、ソノ件は上に伝えよう。

 さて、今日はココの研究員全員に話をしたいので、皆を集めて欲しい」


 「解りました。

 少々、お待ちください。

 スグに呼んで参ります」

 足早に立ち去り、研究員達に声を掛け全員がスグに集まった。


 「私を含めたこの五人が、ここでの実験と研究を任されております。

 最新の薬物と、それに関するデータは先日の視察の際に支部の方へ納めさせて頂きました」

 五人の視線がオレに集まる。

 オレは、ここでも直球で行く事にした。


 「えぇ~と、皆さんには悪いんだけど方針が変わったんだ。

 今日、ただ今を以てコノ研究所を閉鎖する事になった。

 申し訳ないんだけど、皆さんには消えて頂く」

 驚きで固まった全員を、素早く『箱』に入れ瞬間収縮させその後消滅させた。


 さて、研究員はコレでよし。

 何か事情があって、教団に協力せざるを得なかったのかもしれないが今までやって来た行為は到底許されるモノじゃない。

 何人の研究対象を犠牲にしてきたんだろう?

 ソレを平気でやってたこの五人の研究員は、十分死に値すると思った。


 次は……、哀れな実験対象となった人間達か。

 オレは機械的に、実験対象を『箱』に入れ収縮させて消す……という作業を人数分繰り返した。


 機械的にやらないと、教団に対する憎悪の感情が高ぶり、一気にコノ施設ごと消してしまいそうだったからだ。

 最終的には、そうする予定だがそれはココを全部調べてからだ。


 オレ以外の全員が居なくなった研究施設は、静寂に包まれていた。


 そして次の瞬間、……

 コレってひょっとして! 

 って事は、マーベルシュタットは……。



 そう、


……。

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