● 閑 話 ピエール・エラン氏邸での、臨時報告会議。

 ユーリとの秘密会談が終わり、ピエール・エラン邸へ戻る途中オレは改めて例の【カスタム・カランビットナイフ】の事を思い、正直……と感じていた。


 何と言っても、ソノ素材が『』と呼ばれる精神感応金属なんてモノで創られてる訳だ。

 詳しくは解んないけど、ソレって相当なレベルのレアメタルなんじゃないの?



 ひとしきりユーリとの密会が終わり、今の段階で話せる事は話したのでオレは隠れ家に戻る事にした。

 「確かに、そろそろ戻った方がイイかもナ。

 結構な時間、長居させちまって悪かった。

 チョット待ってろナ……」


 ユーリは、そう言うと部屋の隅まで行き壁に巧妙に隠された一つのスイッチを押した。すると、しばらくして部屋全体が軽い振動に包まれた。

 俺が身構えると、

 「心配すんナ! コレは、この俺の隠れ家の『奥の手』ってヤツだ」


 ユックリと続く規則的な振動と、微かな機械音……、コレってまさか!


 「コノ部屋はよ、元々は食材やら酒ナンカを搬入する時に使う貨物用のエレベーターだったんだ。

 尤も、動力源は人間……人力だからそんなに速くは動かないんだけどナ。

 これで、裏に回ってソコにある隠し扉から出るんダ。


 もし万が一、俺があの『武器屋』に行ってユウに逢い、その後ココに一緒に入った事が教団側にバレでもしたら元も子もねぇからヨ。

 隠し扉の向こう側は、コノ酒場の主人の嫁サンがやってるレストランの厨房に繋がってる。ソコに居る奴らは、俺の昔からの友達だから安心していいゼ。


 腹が減ってるなら、何か食ってけばイイ。代金は、俺にツケとけ。

 そのレストランは、この街でも指折りの人気店でヨ。

 店の前の通りは、とにかく人通りが多いメインストリートの一つだから、上手く人混みに紛れ込めるだろうが、迷うなよ」


 隠れ家を出る時にもらってきたコノ街の地図に印を付けてもらった。多分コレで迷わなくて済むだろうけど、また苦手な人混みか……。


 一応、自分の周囲に敵意を持った者が居ないか確認するために結界張っておくかな。寄り道せずに、サッサと帰ろう。



 ……そんな訳で、今回は道に迷う事も誰かにぶつかる事も無く、無事に隠れ家に辿り着いた。

 皆、何してるだろう?

 報告事項が沢山あるんだけどな……。

 最初に通された、洋間のリビングに行くと全員が揃って、思い思いに寛いでいるトコロだった。


 「おぉ、おかえりユウ。

 外出したと聴いて、また迷っとりゃせんかと心配しておったトコロじゃ。

 無事に帰って来て、何より何より。

 それで、お主ドコへ行っておったのじゃ?」


 俺が、ただいまを言う前にゼット爺さんが、変装顔のまま声を掛けてくれた。

 「あぁ、ゴメンね。皆、それぞれに用事が在ったみたいだしジャマしてもいけないと思ってチョットだけ観光気分を味わって来た……、って言うか今度の作戦に備えてコノ世界で戦いに使う武器にドンナ物が在るのか、武器屋に行って実際に見て来たんだ。」


 「ほほぉ……。ソレは殊勝な心掛けじゃ。で、何か収穫はあったかの?」 

 「ソレが、大アリだったんだよね!

 また、新たな味方の戦力を見付けて来ちゃったんだ。

 順番に話すから、集まって欲しい」



 そして、前の『不帰の森』での時と同じように皆が並んだ所で――今回はピエール・エラン氏も参加していた――オレは、この隠れ家に来る途中に逢った傭兵『ユーリ・ランゲンドルフ』の事や、ユーリがオレが爺ちゃんに貰ったペンダントと同じ物をしていた事なんかを含め、秘密会談の内容を皆に語った。


 「お主、あのユーリ・ランゲンドルフと出逢ったのか?

 これはまた、奇遇な事よ……。


 奴は、ワシの『ギフト』能力が発現してしばらくした後に、万が一その効力が及ばぬ抵抗勢力が現れるかもしれんと心配したエルネストが、このワシに付けた護衛での……。

 当時は、若造じゃったがソノ仕事振りは驚く程真摯な物であった。


 そうか、奴も『ギフト』能力者であったか……。


 まぁ、教団の誘いに乗った事は軽率であったとしか言えぬが、結婚を控え傭兵稼業から引退してもよいとまで考えておったのならば、最後の仕事として高額の報酬に釣られた気持ちは、まぁ解らんでもない。

 しかも、奴もまた結局は利用され、あまつさえ人質まで取られる事となった訳じゃな。


 こうなったからには……じゃ。


 ワシ個人としては、ユーリ・ランゲンドルフと共闘しその上で人質を二人とも助けたいと思っておる。奴の人間性に関しては、ユウの話の通り信用に足る物と考えて良いであろう。

 何か異義のある者が居れば、遠慮なく言うが良い……」


 誰も異論を唱える者は居なかった。

 ヨカッタ!

 おっと、そうだった。

 例のカランビットナイフも、実際に見せとかないといけないんだった。


 オレは、自分が入った『武器屋』で魅入られる様にして手に取り、気に入ったのは良かったんだけど金を持たずに来てしまった事に気付いて困っていた所を、ユーリが店と話を付けて結局オレの手元へとやって来た、アノ【カスタム・カランビットナイフ】の事を話し、実物をテーブルに置いた……途端に、サシャが手を伸ばし本体を取り出しつぶさに眺めた。


 「コレが……、ユウ、キミの行った『武器屋』に在ったのカイ?

 ハナシには聴いていたけど、実在したンダ……。

 コノ武器は、ユウのハナシの通り『神々の石』と呼ばれる物質から創られた、ホンモノなのサ。


 


 そして、ユウが言った通りコノ武器は『』物なのサ。


 

 武器が所有者を選んだとしても、ソノ所有者が武器に見合わない人間だったとしたらコノ武器の強大な力に飲み込まれてしまい、下手をすれば廃人か死んでしまう事もあるのサ」


 「あぁ~、忘れてた!

 

 エテルナ……悪いんだけど、また『肉』用意してやってくれないか?

 よっぽど気に入ったみたいでサ」


そして、一陣の黒き風と共に『炎纏狼牙』が現れた……のは、イイんだけどね。


 「裕よ、呼ばれるのを今か今かと待って居ったぞ!

 我は、今とてもアノ『肉』という奴をしょくしたいのだ。アレは、美味い物だな」


 皆が呆気にとられる中、臨時報告会議は終了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る