● 第44話 悩み事は食事の前に済ませて、飯は美味く食べよう!

 翌朝、そのノックの音が聴こえて来るまで、オレは爆睡状態だった。 

 サシャと妹のリサも同様で、繰り返されるノックが目覚まし時計のアラーム音代わりになった。

 もっとも、コノ世界で時計ってヤツをオレは見た事が無いし、そもそもどんな風に時間の管理をしているのかも、未だに知らないんだけどね……。  


 ――コン、コン!

 再び、部屋の扉がノックされた。

 待たせ過ぎは良くないと思い、慌てて返事をした。

 「はい! 返事が遅れてすみません。今、起きました。

 開けますんで、チョットお待ちください」

 スグに開錠し扉を開くと、モフモフ尻尾を元気に振っている、笑顔のエテルナがソコに居た。


 「おはようサン! 

 狼ハン、昨夜いつの間にやら大広間からおらん様になったとおもたら、ヤッパリや!

 サシャ様のお部屋やろなぁ……、いう目星付けてたから迎えに来たんヤ。

 あれま? サシャ様は当然やけど、リサ様までココに居らしたンヤネェ。

 ソレやったらホンマの話、ウチも来たらよかったワ~。

 あ……、サシャ様オハヨウさんです。

 今の、冗談やさかいに気にせんとって下さいネ~」  


 「やぁエテルナ、おはようなのサ。

 キミは、よっぽどユウの中に棲む内なる狼『天狼』にみたいダネ。

 狼同士仲良くするのはイイけど、ユウに手を出したらボクは怒るのサ。

 ユウは、ボクの人生ソノモノと言ってもイイぐらい大切なひとなのだからネ……。


 確かに、のエテルナにとっては『天狼』というモノの存在は、光明の如く魅力的だと思うのサ。ソレはボクにもよく理解できるから、実は一計を案じたンダ。

 ってネ……。


 でも、そもそも実体を持たない『天狼』が単独で存在出来るのか? 例え存在出来たとして、ソノ際にユウにはどんな影響が及ぶのか? 

 他にも色々と、考えるべき点があるカラ、もう少し待っているとイイのサ。


 さて、エテルナが呼びに来たって事は、もう食事なのカイ?」

 「ハイ、お食事の準備が出来ましたんで、ウチ自らお迎えに来たんですぅ。


 アノ、今の話なんやけど……ホンマにそんな素晴らしい事、考えてくれてはったんです?

 ウチ……、ウチ、もうメチャメチャ嬉しゅうてタマリマせんわ!

 サシャ様、ホンマおおきにデス!


 安心して下さい! ユウ様に手出すやナンテ事、絶対にしませんよって!

 その代わり、ウチの力の及ぶ限り、ユウ様達のお命をお守りします!

 って事で、話がまぁるくまとまったトコロで……皆はん、ご飯デスよ~」


 また、何だかオレの知らない所で話が進んでる様だね……。 

 食堂に向かう道中、オレは思った。

 ? じゃあ、どうやって今まで子孫を残し、種を存続させて来られたんだろう? ヤッパリ、コノ世界特有の何かが作用してるんだろうか?

 オレには、まだまだコノ世界に関する知識が足りないなぁ……。


 逆に、サシャは……ソノ知識や見識は言うに及ばずソレらを応用して色んな所で、ノヴェラードをあるべき姿に戻すために役立ててる。

 それだけじゃなくて、さっきの話の様に絶滅危惧種である緋色狼一族の事まで気に掛けていて、彼女達の為になる様な事も思案中だと言う。


 オレなんかより、ずっとノヴェラードにとって光たる存在じゃないか……。 

 今更ながらに、現時点での自分の存在がコノ世界であるノヴェラードにとって、どれ程の役に立つのか解らないまま、オレのギフトの力が『コノ世界を救う、唯一の光である』なんて言う、超重要な立場に置かれている事の歯がゆさを実感した。 


 そんなオレの表情をたサシャが、すかさずオレの手を取り語り掛けて来た。

 ≪ユウ、……キミは『ノヴェラードにとって、自分は無力なんじゃないか?』なんて考える事ないのサ。今はまだ、キミの出番が来ていないだけなのだからネ。

 大丈夫なのサ。何と言ってもキミを導くのは、このボクなのだから……。

 ダカラ、安心していいのサ≫ 


 ≪あぁ、……うん。ホントいつもありがとう、サシャ。

 でもさ、男としてはさ……何かしらの『役に立ってます感』というか、実感みたいなモノが欲しかったりするんだよね。解っちゃいても……さ。

 これは、何て言ったらいいのかな。

 正解じゃないかも知れないけど、男には『英雄願望』みたいなモンが、意識の中にあるんだろうね、きっと≫


 オレは無意識の内に、現世で見ていた大好きなアニメの中の言葉を引用していた。

 ≪ダイジョブなのサ!

 ユウは、今でもボクにとっては英雄にも等しい存在なのだし、この先出番が来て本当にキミの力が必要になって、ソレが為された時……皆がキミを称える事になるのだからネ。

 だから……、サッキも言ったけど心配なんて要らないのサ。


 英雄にだって『かみとき』ってモノがあるのだカラ。

 ソレに、常に英雄で居られる人間なんて誰も居やしないし、もし居たとしてもソンナ人間……ボクはちっともスキになれないのサ……。だって、


 まぁ、確かにそうだよな。

 世界中のヒーロー物の映画なんかでも一日二十四時間、一年三百六十五日ずっとヒーロー活動してるヤツなんて見た事ないし、世界最強なクセに最初は趣味でヒーローやってたハゲでマント姿のアニメキャラも居たんだっけ。

 今は、むしろお気楽で居るぐらいの方がイイのかもしれないな。

 その内、サシャが言った出番ってヤツがやって来るのなら、ソノときこそがオレにとっての『神の刻』になるのだから……。


 ≪チョットは、解ってくれたみたいだネ……安心したのサ。

 未来の英雄だって、楽しむべき時は楽しめばイイのサ。

 そう言った意味で言えば……、今は食事を楽しむべき時だと言えるネ≫


 サシャは満面の笑みでそう語り掛け、オレもソレに応える様に微笑みながら食堂に入った。

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