● 第15話 両親を追い詰めた、邪教の殺意。

 「お主の父と母を含めた何人かのギフト所有者達は、当初は聖都『レーヴェンシュタット』に住んでおったが、『反ギフト思想』が高まるにつれ身の危険をいち早く感じ、この国第二の街である『グリュエンシュタット』に逃れておった。お主が五歳……いや、六歳の時じゃ。


この『グリュエンシュタット』という街は、観光都市として栄えておる街での。様々な地域から多くの人間が訪れるため、旅行者に紛れて身を隠すという手段を取ったわけじゃ。

その観光都市の中でも、人里から少しばかり離れた所謂『隠れ家的リゾート地』に身を置く事にし、なるべく他人との接触を避けて過ごしておった。

しかし、人目を避けるために『隠れ家的リゾート地』でヒッソリと過ごしておった彼らは、旅行者としてはその振る舞いが余りにも不自然な程に、他人との接触を嫌ったため結果的にそれが裏目に出てしまったのじゃ。

……。


そのリゾート地の宿泊先の主人は、特に『ギフト』に対して悪意も恐怖も抱いてはおらなんだ。よって、彼らに対して何の不審感も持っていなかったのじゃが、何の因果か実際に部屋の掃除やベッドメイク等を担当していたメイドが、入信したばかりの『ドゥアーム教』の信者であった。言うておくが、そのメイドも初めから彼らを『ギフト所有者』じゃと疑っておったわけではない。部屋に閉じこもり切りの彼らに対して、日が経つに連れ普通の犯罪者グループか何かと勘違いしてしまいおったのじゃ。そして、メイドはその事を宿泊先の主人に相談し、結局主人が地方警備を担当する役人に連絡する事になっての」


 「じゃあ、……そこで捕まったの?」

 「それがの……実は、その主人の娘は『ギフト』を持っておってな……。

当然、主人は周囲の者達には、その事をひた隠しにしておった。主人は、メイドから彼らの話を聞いた時にピンときたらしいのじゃ。

で、同じ境遇である自分の娘と当時のお主の姿が重なって見えたのだろう。

役人が到着する前に、裏口からコッソリと自宅の離れ家はなれやに案内してくれたんじゃ。もちろん、通報をした主人は役人に色々と事情を聴かれたが、知らぬ存ぜぬを決め込んでくれた。


そういうわけで難を逃れた一行は、しばらくの間その主人の離れ家にやっかいになる事となった。そこでの生活は、隠れ住む……という点では、この我らが住む洞窟と同等と言ってよい程、うってつけでありまた快適でもあったと伝え聞いておる。しかし、その離れ家も、彼らにとって安住の地とはならなんだ……」


 「一体、何が起きたの? そのリゾートの主人は、味方だったんだよね?」

 「そうじゃ。正に、政権側の人間や懸賞金目当ての輩から身を隠さねばならなかった彼らにとって、その主人は救世主にも等しい存在であったと言えよう。

しかし、一つ忘れておらぬか? そもそも、勘違いとはいえ彼らの事を疑い始めたのは誰じゃった?」


 そうか! あのメイドが居たか! 

 「でも、あのメイドは普通の犯罪者ぐらいにしか思ってなかったんだよね?」

 「それは、確かにその通りじゃ。しかし、彼女は見てしまったのだ。主人が、彼らの逃亡を手助けし、あまつさえ自宅の離れ家はなれやにかくまったところを……。彼女は、なぜ主人が犯罪者らしき彼らをかばい、隠れ家まで用意して助けるのかはじめは理解出来なかったそうじゃ。



……彼女、――そのメイド――は、家が貧しい境遇でな。

それは、彼女の母親が大病を患い寝たきりの生活をしておったからなんじゃがの。そして、彼女の父親というのは仕事もせずに、家にある金目の物を全部売っては、酒におぼれるというロクでもないヒモの様な男であった。

せっかく、彼女が仕事で生活費と母親の薬代を稼いできても、父親に強引に取り上げられる様な生活を送っておったのじゃ。


 そんな生活を続けていた彼女は、正直なところは今となってはわからんが、恐らくタダの懸賞金目当てで『ドゥアーム教』に入信したのであろうと、ワシは考えておる。彼女の父親がまともな男であれば、彼女は入信さえしていなかったかもしれぬし、彼女の母親の病も治っておったやも知れぬ。しかし、運命とは残酷な物じゃ。子は親を選べぬでな……」


 「確かにそうかもしれないね。で、その後どうなったの?」

 「そのメイドであった彼女は、雇い主である主人の事を慕いそして信頼もしておったのだが、犯罪者らしき集団を自らの意志でかくまうという行動を目にしてしまってから、彼に対して不信感を持つ様になってしまったのじゃ。


 何か事情があるのなら、自分にも話してくれてもいいはずなのにナゼ何も打ち明けてくれないのだろう? 次第にその思いは強くなっていった。

しかし、自分の口から犯罪者たちをかくまう理由を直接聞ける程、彼女は強い立場ではなかった。自分から雇い主を問い詰める様な大それた事をすれば、今の仕事を失ってしまうと考えたのだ。今の仕事を失えば、病の身である母親はおろか自分も生活が立ち行かなくなってしまう故、はじめは沈黙を守っておった。


 しかし、その内にやはりあの事には何か重大な秘密が隠されておるという気持ちが強くなり、彼女は自分の友人であり彼女を『ドゥアーム教』に引き入れた女性に話してみる事にした。この事が後に大きな悲劇を生むことになるのだが、彼女はそんな事など全く頭に無かったのじゃ。

言うても栓無き事ではあるが、この時にこのメイドが友人の女性に話をしていなければ……いや、彼女の家庭環境が普通であればこの悲劇は避けられたかもしれんかったと、ワシは今この時も思うておるよ……」


 長く話し続けて来たゼット爺さんにも、少し疲れが見え始めた。オレは心配になった。

 「ゼット爺さん、大丈夫? もうだいぶ長く話してるけどから、少し休む?」

 「いや、ワシなら大丈夫じゃ。心配ない。今日こそお主に両親の事を伝えねばの……」

 そう言って、カップに入っていたカフィールを飲み干し、一呼吸置いてから再び話し始めた。こんなトコで無理しないでくれよ! 頼むぜ、ゼット爺さん! 

心の中でエールを送った。


 「さて、彼女はリゾート地での仕事が休みの日に、友人をお茶に誘っての。そこで、世間話のついで……ぐらいのホンノ軽い気持ちで、主人の行動を話したのじゃ。

その彼女の友人の女性はの、実のところその街グリュエンシュタットにおける『ドゥアーム教団』支部内で幹部を務める男の娘であった。その女性は話を聞いても余り興味の無い様子を見せておったが、内心コレはひょっとしたら……と思っておったらしい。

そして、その女性はメイドの彼女と別れた後その足で教団の支部へ向かい、幹部である父にその件を報告した。支部で幹部を務めるその男『ダビドフ・サルマン』は、自分の娘の嗅覚を信じ行動を起こす事にした。

それは、この行動が手柄に繋がれば、自分が教団内で出世できると考えたからに他ならぬ。


その行動は、早速その夜に起こされた。まずは部下の信者達を集め、主人が経営するリゾート地を目立たぬ様に包囲した。そしてダビドフ自らが率いる数名が、これも目立たぬ様に例の離れ家の方へと忍び寄り物陰から、屋内の様子を窺いソノ時を待っておった。

ソノ時とは、主人の自宅から主人の娘と母親によって食事が運ばれるタイミングじゃった。そしてしばらくの時が過ぎ、とうとうソノ時がやってきてしもうたのだ。自宅の母屋から食事と飲み物を運び離れ家に向かう二人の後を、ダビドフ達は静かについて行った。もし仮に、最悪『ギフト所有者』でなくとも、そういう風に仕立て上げ自らが捕らえた事にして全員始末してしまえば、それでいい……ダビドフは、当然の様にそう思っておった。


二人が入って行った離れ家は、離れと言うには立派で部屋も相当数ある事が、外から見ただけで分かった。ダビドフは目配せをして、部下に扉を静かに開かせ素早く体を滑り込ませた。外に見張りを二人残し、ダビドフを含め三人が離れ家に忍び込んだのじゃ。

そして、微かに聞こえる声のする方へと進んで行った。

扉がわずかに開いており、廊下に部屋の明かりが漏れていた。

ダビドフ達三人は、それぞれの手にナタの様な刃物を持ち、それを握り直してから一気にその部屋に押し入った。


部屋の中に入ると食事用の皿を並べている女性が一人居るだけだった……この女は、さっき食事を運んで来た母親だ……他の者はどこだ? 

彼らが、何かがおかしいと感じた時にはもう遅く、後ろから頭を殴られダビドフ達三人は気を失ったのじゃ」

 あぁ、よかった。一応だけど敵の奇襲をかわせたんだね。

オレは、余りに臨場感タップリにゼット爺さんが語るもんだから、スッカリその物語に夢中になっていた……。

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