● 第16話 長き時を超え、もたらされた『両親の死の真相』!

 長かったオレの両親に関する話は今、正に佳境を迎えようとしている。

ただ、早く続きを聴きたいという気持ちを抑えられずにいた。

 「何故、彼らは教団の奇襲をかわせたのか? それは、お主の父がが持つ『ギフト』の能力のおかげであった。

彼は、自分たちの『』できたのじゃ。


よって、離れ家はなれやの外に見張りが居る事も、このリゾート地全体が既に教団の信者達によって取り囲まれておる事も分かっておった。

もし、この能力がもう少し強力で、少しでも早い段階で教団の奇襲を察知できておれば、恐らく全員がこの場を無事に逃れる事ができたであろうの。

まぁ、これは今言うても栓無き事じゃな……。さて、ここまで包囲されておってはこのリゾート地から出る事さえ無理じゃと判断した彼らは、のじゃ。

それは余りにも残酷と言えばそう言わざるを得ない物であったがコノ世界の未来を考えた時、道はもうソレしか残っておらなんだのじゃ……。


 まず、見張りの居る玄関を避け裏口から、離れ家にかくまってくれたリゾート地の主人の娘と母親を母屋に逃がした。母屋の地下室には海へと繋がる、秘密の水路があってのぉ……。コレは流石に教団側も、リゾート地の職員達すら知らぬ、彼ら家族が娘を守るために用意した最後の奥の手という奴じゃった。水路は地下からずっとトンネルの様になっておったそうであるから、恐らく彼らの家族は無事に逃れる事が出来たじゃろうて。

そう、生きておればこの先、またどこかで会えるかも知れぬな……。


 問題は、離れ家に残されたお主とお主の両親を含む五人じゃ。

厳密にいえば、お主の両親は先に言うた様に既に決断を下しておった故、お主を連れ地下室へ降りた。残りの二人は敵を引き付け、可能な限り時間を稼ぐ事になった。まずは外の見張りにバレぬ様、ダビドフ達三人に彼らの持っていたナタでトドメを刺した。人を殺す事は本意ではなかったが、縛りあげている時間も無かったし、かといっていつ意識を取り戻すかわからない敵をそのままにしてはおけんかったのだ。そして、これが『ドゥアーム教団』との戦いである以上、時には辛い決断も必要じゃった……。


 さて、地下室に降りたお主と両親じゃが、母はお主と向かい合って地下室の床に座り、父はその母を守る様に彼女の背後に立っておった。

そして、彼女は自分の持つ『ギフトの能力』を発動させたのじゃ。

それこそ、最大限の力を使ってな……。


 だいぶ待たせてすまなんだが、やっとお主の母の『ギフト』の能力の正体を話す時が来た。彼女のギフトは『』であった。

使える回数は一回きりで転移させられる人数は一人だけという制限付きの能力であったが、人間を好きな時代、好きな世界、そして好きな場所に転移させる事ができる物であった。しかし、その能力には大きな代償が必要であったのじゃ。使であった……」

 ここまで話して、ゼット爺さんは息を深く吐きしばらく沈黙した。



 ――そうだったのか……。

オレの本当の母さんと父さんは、この世界の未来をこのオレに託し、再びこの世界に平和を取り戻すためにオレを現世に送ったのか……そして、その代償に二人の命は失われてしまったという事か……。


これで、オレが記憶を失って山中湖の近くの森の中で目覚めた理由がわかった。

それに、こっちの世界では、こんなヒドイ事が起きていたのか……。

いや、でも待てよ……。コレってちょっとおかしくないか? 

今までずっと、この世界の歴史や『ギフト』について色々聴いてきたけど、そもそもは確かカイザールさん――今は、ゼット爺さんだが――のギフト『人々の心を穏やかにし、争い事を無くさせる能力』によって、この世界は統一され国が出来、平和的に統治されてきたんじゃないのか? 

クリストフさんはギフトを持ってなかったけど、それでも初代元首であるカイザールさんのギフトの力は効果的に働いていたんじゃないのだろうか? 

それが何で急に、宰相とはいえ普通の人間やその一派がここまで国を、独断で悪い方向に動かせる様になったんだろう? ギフトの効力には、有効期限があるのか? うぅ~ん。ワケがわかんなくなってきたなぁ……。


 「お主は今、こう考えておろう? を……」

 おっと、相変わらず鋭いねぇ……ゼット爺さん。

 やっぱ、オレの心読めてるんじゃない?

 「うん。正にその事を考えてたよ。ここまでずっと安定して平和を保ってきたのに、ナニが起きたんだろう? って思ってた。どうして、カイザールさんの持ってる『平和的統治』の力は失われて、コンナ事態になってしまったんだろう?『ギフト』の能力には有効期限とかあるの?」


 「いや。そんな物はないはずじゃ。お主の母の様に一生のうちに一回きりしか使えぬ、ある種特別な能力に関しては別じゃが、『ギフト』の能力に有効期限があったという事は、長きに渡り前例が無いでな……。その点については、今のところ全く不明なのだ」

 じゃあ、コレはどういう事なんだろう? ヤッパリ、何か別の未知の力が作用してるんだろうか?


 「この件に関しては、実は現在調査中での。ホレ、前に話したであろう。お主の祖母であるヴァレリアの事を。正に今、その事を彼女に調べてもらっておるのだ。原因が分かったにせよ、まだにせよソロソロ経過報告のために戻ってくるはず故、今は、とりあえず彼女の帰還を待つとしようかの」

 そうだったのか。やっぱりゼット爺ちゃん、元は元首だもんなぁ……。考えるべき事は考え、打つべき手はちゃんと打ってるんだ! さすがだよ。

そう、的確な指示と、謎の調査は大切。


 「さてさて、お主が一番聴きたいと思っておったであろう両親の事についての話は以上じゃ。これを理解してもらうためには、この国の歴史やギフトの能力を取り巻く現状に関しても把握してもらわねばならなかった故、ここまで随分と時間がかかってしまったの。すまなんだ」


 「謝る事なんてないよ、ゼット爺さん。そりゃオレだって、はじめにもう父さんも母さんも居ないって事を聴かされた時は、とにかく早く真相が知りたいって思ったよ。

でもね、なんで自分達の命と引き換えにしてまで、オレを現世に送って生かしてくれたのかがこれまでの話でよく分かったし、オレの能力――ソレがどんな物なのかは、まだ不明なんだけど――にこの世界の未来を託してくれた事も理解出来たから良かったよ。

だから、今度はオレが頑張る番なんだなって腹もちゃんとくくれたしね」

 「そうか! それならワシも嬉しいし婆さんも喜ぶぞ、きっと!」

 おおぅ、久々に爺ちゃんの声聞いたからびっくりしたよ~。コノ人は、しゃべらない時はホント徹底して、しゃべらないからなぁ……。


 「オレ精一杯頑張るし、この世界の為にオレが出来る事は、全部何でもやるからね!」

 「ユウよ、よう言うてくれたの……。今のワシらには、その言葉だけで十分じゃ。本当にありがとう。よく、この世界に戻ってくれたの。感謝するぞ」

 「オレに、そんな気ーつかわなくっていいってば。家族なんだし」

 「うむ。実はのぉ、その言葉を待っておったのじゃ……。明日から、お主の『ギフト』の能力が一体どんな物なのかジックリ調べる故、気合い入れてシッカリ頑張るのじゃぞ!」

 うわぁ……。そーだよねー。やっぱりソウ来ちゃうよね~。

 「ハイ、ハイ! 頑張らせて頂きます!」

 そして、オレの新しい課題への挑戦が始まる事になった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る