● 第14話 鳥肌モノ級に超エグかった、ドゥアーム教の闇の淵。

 オレは無意識の内に、今さっき聴いたばかりの『ドゥアーム教団』の話に底知れぬ嫌悪感を感じ、勢いよく身震いをしてソノ感覚を振り払おうとしていた。

 「お主の気持ちはわかる。人の心の間に入り込み、そこに根差す宗教という物は、本来であれば人々に安らぎと、そして心の救いを与えるべき物じゃ。しかし『ドゥアーム教』は、本来の正しい宗教のあるべき姿とは全く逆の恐怖や差別を強制的に人々に与え、その闇の力によりこの世界を支配しようとしておるのだ」


 光の輝きが明るければ明るい程、その影は濃い闇になるというのはホントなんだな。カイザールさん(ゼット爺さん)や、クリストフさんが眩しく輝く『光』の象徴だとすれば、現宰相率いるドゥアーム教団をはじめとする一派は、とてつもなく暗い『闇』の存在だ。

某有名スペースオペラ映画の、フォース対ダークサイドどころじゃないな、これは……。


 「そしてある時、『ギフト』の所有者を捕らえた者には懸賞金が出るという、おふれが出されたのじゃ。この時とばかりに、ドゥアーム教に便乗し更に『ギフト能力者の抹殺』を加速化させるために、側近のドルンバッハに入れ知恵された、ザハトリシュが強行した政策であった。


 これは栓無き事じゃが、人間という生き物の中には欲にまみれ、その欲を満たす事で己の歓びが増幅されるという愚かな者達がおるのが現実なのじゃ。そして奴らは、そこに付け込みおった。悲しい事じゃが、この政策は奴らにとって切り札に近い物となった。わざわざ自分達が動かんでも、金に目の眩んだ狂信者達が代わりに『ギフト』狩りをしてくれるのだからの」


 「そんな事までするなんて……。なんておぞましい奴らなんだ! コレはもう、人間の所業じゃない! 絶対、倒さないと、この世界その物がどうにかなっちゃうよ」

 オレは本気でそう思っていた。

でも、冷静に考えてみると一つの疑問が湧いた。

 「確かに、その『ギフト』狩りに懸賞金を出すっていう作戦は、奴らの切り札になり得る物なのかもしれないけど、一つおかしいと思う点があるんだよね」

 「ほほぉ。言うてみい」

 「前にゼット爺さんは、その人間が『ギフト』を持っているのかどうかは、本人が『ギフト』を手にした事を自覚してなくても、親族にはその証が見える……って言ってたよね?」

 「うむ。その通りじゃ。」

 「って事は、逆に言うと『ギフト所有者』の親族じゃないと誰が『ギフト』を持ってる人間なのか分からないって事にならない? それだといくら懸賞金を出すっていう事になっても、赤の他人には全く無意味なんじゃないかな?」


 「確かに『ギフト』所有の証を知る事ができるのは、血の繋がった者だけじゃ。それはユウよ、お主の言うておる事が正しい。しかしの、やはり人間という生き物の本性というか、欲望という物は底が知れずまた本当に残酷な物なのじゃよ。この忌まわしき懸賞金制度が導入され最初に起きた事はなんじゃと思う? 


それは、だったのじゃ……。

教団の信者でもない普通の一般市民が、己の肉親である子供や孫と懸賞金を天秤にかけた結果、その者は懸賞金を選んだのだ。

そして、その出来事をきっかけにして各地で、親や親族が懸賞金のために自分の血を分けた子や孫・親戚達の命を奪うという事が多発する様になった。なんとも痛ましい事じゃて……。


 更に言えばじゃ、懸賞金の授受には、『ギフト所有者の死体と、その親族全員の自筆の署名』が必要とされておったため、愚かな民達は『ギフト所有者』の死体を、政権直轄の言わば懸賞金の受け渡し場所に親族全員が同伴して運んで行っておった。そこで何が行われたと思うかの? 


――のじゃ。『ギフト所有者』を捕らえた者には懸賞金を出すと言っておきながら、のじゃ……。そして、この事実が全て闇に葬られたのは語るまでもない事よ。


その後、事態は次の段階へと悪化していく事となった。

やはりこれも、人間の持つドス黒い欲望と残酷さという醜い本性の発露という他言葉がみつからんのじゃが、実際には『ギフト』を持っていなかった多くの若者や子供達までもが、懸賞金目的で殺されたと伝え聞いておる。この場合においても、同様に懸賞金を受け取りに行った親族全員が殺されたのは言うまでもない。


また、子供や孫等がおらぬ者達が、全く見知らぬ者を『ギフト所有者』に仕立て上げて殺すという様な事まで起きる様になってしまったのじゃ。 ……。

今はその時より民の行動も落ち着きを見せて来ておるが、当時は街の通りから子供や若者が消え、目を血走らせた金の亡者達だけが獲物を求めてさまようという異様な光景が毎日の様に見られた。これが、血塗られた懸賞金制度のなれの果てじゃ……」


「どこまで卑劣で、汚いんだ……こんなのって、おかしいよ。メチャクチャだ! 何でこんな事になったんだよ? 狂ってるとしか思えない……」

 言い様のない恐怖と嫌悪感で、気が付けば全身に鳥肌が立っていた……。

 オレは、それを振り払うために、天狼派古流の呼吸法でなんとか落ち着きを取り戻した。


それにしても……だ。このザハトリシュもドルンバッハって奴もかなりの策士だ。これだけの事を――時間は、それなりに掛けただろうが――用意周到に準備し、思惑通り段階的に進め、しかも事態は今もなお進行中なわけだ。

本当にこの宰相一派だけが一連の出来事の黒幕なんだろうか? 

こんな大それた事を一介の政治家が出来る物なのか?    

裏で別に糸を引いている本当の敵が居るとしたらどうだろう? 

『ギフト』以外の邪悪なチカラが作用してるとしたら……? 

オレの考え過ぎだろうか? 

もうここまでくると、敵の持つ闇の奥底は全く見えなかった。

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