● 第13話 邪教の誕生と、その教義がヤヴァ過ぎて引いたオレ。

 昨日は大変だったなぁ……。

 ゼット爺さん、話の途中で調子悪くなっちゃうし、その後オマケで『ギフト』能力者は、寿命が四百年を超えるんだって言われるし……。

なんか早起きした気がするけど、皆もう起きてるかな? 

ゼット爺さん大丈夫だろうか? 部屋を出て、リビングに急いだ。オレが入っていくと、二人とも既に起きていてカフィールタイムの真っ最中だった。

よかった! ゼット爺さん、顔色もよくなってるし元気そうだ。


 「おはよう、ユウ。昨夜はすまんかったの」

 「気にしなくてイイってば。もう大丈夫なの?」

 「あぁ。この通り完全復活じゃて! エルネストから聴いたであろう? ワシは以前から、話題がアノ思想の事になると、つい熱くなってしまう癖があってのぉ。昨夜もどうやら、いつもの様に頭に血が昇ってしまったらしいのじゃ。世話をかけたの」

「いいんだよ、そんな事。元気になったのなら、それが一番なんだから。だって四百年以上生きるんでしょ? こんなところで倒れてなんていられないよね!」


 ゼット爺さんは、オレの顔……じゃなくって、爺ちゃんの顔をジィーーーーっと、穴が開く程見つめていた。あれ? これってにらんでるのかな? どうやらオレ、余計な事言ったみたいだね。ゴメンよ、爺ちゃん……。爺ちゃんは、キッチンの中で隠れる様にして、視線を避けていた。

 「オレがたまたま聴いちゃっただけだから、ね。ゼット爺さん、また体調悪くなるよ……」

 「全く油断も隙もないのぉ。ワシが最後の方にとっておいた、ええネタじゃったのに。まぁ、どの道いつかは知れる故、気にしとらんよ。あーエルネスト君、今日は飛び切りの高級ラドー酒が飲みたいのぉ……頼んでもええかのぉ?」

 「ははぁ~。かしこまりました」

 「コレでチャラじゃ。お主も、あまり気にするでないぞ」

 「ありがたきお言葉。恐悦至極にございます」


 なんだこの時代がかった、小芝居は……。オレは、思わず吹き出していた。

 それにつられたのか、気が付けば皆で笑っていた。やっぱ、こーゆー雰囲気がいいな。陰謀があろうと、悪党が居ようと、そいつらに狙われようと、笑う時は大いに笑おうよ。そして、泣くべき時が来たら思いっきり泣けばいいさ。   だって、それが人間って生き物なんだもの……。

 その後、朝食をいつもの様に皆で楽しく食べ、カフィールタイムになった。


 「さて、ユウよ。お主さえよければ、今日こそ本当に約束を果たすとしよう。お主の父と母の話をするが、どうするかの?」

 「もちろん、聴くよ。でも、今日はムリしないでねゼット爺さん」

 「わかっておるわい。あれは、昨夜たまたま起きただけじゃ。もう、気にぜずともよい。今日の話は、ユウの部屋でしようかのぉ。エルネストよ、カフィールをたっぷりと用意じゃ」

 「少々、お待ちください。もう間もなく完成いたしますので……」

 程なくしてカフィールが完成し、話の準備が整った。

 そう、何事も準備は大切。 

 

皆でオレの部屋に入り、思い思いの場所に陣取った。

 「よし、では話すとしよう。昨夜話した様に、現在のノヴェラードには二代目宰相『アルム・ダミアン・ザハトリシュ』と、その側近『ミカエル・ジーク・ドルンバッハ』の一派によって『反ギフト思想』が広められ、それが根付いてきておるのは憶えておるな」

 「うん。もちろん」

 答えながら、頷く。

 「だが、奴らの行動はソレだけに留まらなかったのじゃ。奴らは『』をデッチあげ、国全体にその教義を流布したのじゃ。人の心とは、本来弱き物じゃ。奴らはその弱みに付け込み、『ギフト』の完全なる排除を目論んでおり、残念な事に現在のところその企みは順調に進行しておるのだ」


 そう来たか! 宗教は、人の心に根差す物だから一度それを信じてしまうと、なかなか別の考え方をするのは困難になってしまうよね……。オレは、昔現世で実際に起きた某新興宗教が起こした大事件の事を思い出していた。あの事件に限らず、現世の人間の歴史を紐解けば、大きな戦いの陰には必ずと言っていい程、宗教――すなわち、信仰の力――が存在していたんだっけ。


 とにかく、人の心を支配してしまう程の力を宗教って奴は持ってるわけだ。そういった意味では、宗教の力はゼット爺さんの持つ『ギフト』に近いと言えるのかもしれない。

けど、今回のこの場合は根本的に違うんだ。

だって、『反ギフト思想』を基に成り立っているコノ宗教は、完全に限られたごく一部の人間の私利私欲のためだけに作られた物なのだから……。こんな考え方をしてまで、自分の欲望や野望を達成しようとする敵が居るのか。コレは、手ごわい相手なのかもしれないな。


 「とにかくじゃ。奴らは宗教という形の無い力を使って、この世界から『ギフト』その物を根絶させようとしておるのだ。その宗教――これはもう、邪教としか言えぬのじゃがな――は、名を『ドゥアーム教』という。どこから連れてきたのかも、その素性も不明じゃが『シャンカ・ヌー・ドゥアーム』という男が教主をしておる。もちろん、この教主自体を裏で操っておるのが、二代目宰相『アルム・ダミアン・ザハトリシュ』と、側近『ミカエル・ジーク・ドルンバッハ』である事は言うまでもないがな。


 そして、この『ドゥアーム教団』の教義とは、とにかく過激な物じゃ。

まずはこのままでは、『ギフト』を持っていない普通の国民は、いつの日か『ギフト』所有者達にその能力を使って支配されてしまうという恐怖心を植え付けよった。そして『ギフト』を異端と見なし、能力者を全て抹殺する事こそが世界の救済だという事を広めたのじゃ。その結果、異端である『ギフト』を排除するためであれば、仮にそれが人の命を奪う事であっても、正当化されてしまう程にまで事態は悪化してしまった……」


 正に、魔女狩りだ……。

 現世でも実際に同様の事が起きている。中世ヨーロッパでの異端審問や、日本でもキリシタンが弾圧され、多くの信者達が死ぬことになった。他にも歴史を紐解けば、枚挙に暇はない。

 「これは……ヒドイ」

 オレは、その一言しか声に出来なかった……。

 

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