反ギフト思想と、邪教の誕生

● 第12話 なぁ、『ギフト』迫害されるってよ……。

 「おぉ、戻ったか。心の準備はできたかの?」

 「いや。色々試してはみたんだけど、効果無くて。でも、その分腹くくって来たから大丈夫。どんな話を聴かされても、オレは逃げないよ!」

 「うむ。お主の顔にその決意が現れとる。それで十分じゃ」

 ナイスタイミングで、爺ちゃんがカフィールを持ってきてくれた。

 サンキュー。


 「最初に言うておく。お主の両親もワシらやお主と同じ様に『ギフト』の能力を持っておった。内容については、後から説明するが今は、その事をよく憶えておくがええ。そして、お主の両親の死に関わる話をするには、どうしても先に『ギフト』その物の歴史について語らねばならぬ。少し長うなるが、辛抱するのじゃ。


前に、『ギフト』は己の欲望を満たすためには使えん事は話しておるな。じゃから、『ギフト』を持つ者が国のあちこちに現れ始めた当時は、この力を悪用しようなどと考える輩が現れる事など、想像だにしておらなんだのじゃ。ワシらは、

聖都を設計する際、この神から与えられし『ギフト』の力を祝福するための聖堂まで建設しておったぐらいじゃからのぉ。


 『ギフト』というのは不思議なもんで、生まれつきその能力を持っておる者、なにかのきっかけで能力が現れる者、遺伝的な要因で能力を持つ者等、様々なパターンがある。ただ共通して言えるのは、本人が『ギフト』を手にした事を自覚しておらんでも血の繋がった親族には、その証ともいえる光が見えるという事じゃ。その光を見た親族は、光を放つ我が子や孫をさっき言うた聖堂に連れて行き、その時は能力の内容がわからぬまま祝福を行っておったのだ。


 わかるかのぉ……その当時はまだ、家族に『ギフト』所有者がおるという事を隠す事無く、友人や近所の住民達と共に祝う。『ギフト』とは、そんな存在であったのだ」

 なるほどね。ソレは理解できる。


 『ギフト』が家族にもたらされれば、その能力の内容にもよるけど、人の為の力という事で社会に認められ能力の内容によっては国にも認められ、ある年齢に達し上手く事が運べば、国の要職に抜擢される可能性だってあるかもしれない。

 そうなれば、家族の暮らしだって楽になっただろう。要するに、その当時は『ギフト』自体がオープンな存在として社会に根付き、そして認識されていたわけだ。


 「整理して言うと、まずゼット爺さんは生まれつき『ギフト』を持っていた。

爺ちゃんと婆ちゃんは、何かがきっかけとなって『ギフト』の能力が発現した。

オレは……どうなんどだろ? 遺伝的要因てヤツになるのかな?」

「まさしく、その通りじゃ。理解が早うて助かるのぉ。


 さて、そういった具合に時が流れていくと、これはもう人間の本性の現れとしか言えぬのじゃが、『ギフト』を持たぬ者が『ギフト』を持つ者やその家族に対して、次第にを持つようになっていったのじゃ。そしていつの間にか人々は『ギフト』を、だと考える様になっていった。これは、クリストフが元首になって十年程が経った頃じゃった。


 クリストフ自身『ギフト』を持っておらなんだという事もあり、コレばかりは奴の民への対応が遅れてしまっての。さらにその頃のクリストフは自身の結婚やら、地方都市への視察やらで多忙を極めておった故、『ギフト』の件に関しては二代目の宰相である『アルム・ダミアン・ザハトリシュ』なる男と、その側近である『ミカエル・ジーク・ドルンバッハ』という名の者に一任されてしもうたのじゃ。そしてこの二人はその地位を利用して、手始めに政権内に『反ギフト』

の思想をユックリと用意周到に広めていきおった。


 最初は実際に『ギフト』の恩恵にあずかった者達は、もちろんその思想に反対しておった。しかし、国で二番目の地位を持つ宰相とその側近による贈賄等の強引な手段で、『反ギフト思想』側に付く輩が出始め、先程言うた実際に『ギフト』の恩恵を受け、その能力を悪とする事がどうしても出来なかった者達は、宰相の独断によってその任を解かれ地方都市へ転任させられる事になってしもうたのじゃ。これはもう、してヤラレたという他なかった……。

 

 じゃが彼らは、今でも『ギフト』の存在を善であると信じておるし、逆に『反ギフト思想』に疑問を抱き危険視しておる者も多くおるのが、我々にとっては救いであると言えよう……」


 ここまで、ほとんど一気に話を続けたせいか、また『ギフト』に対する想いのせいかは分からないけど、ゼット爺さんの表情には明らかに疲労とも心労ともつかぬ物が浮かんでいたのが見て取れた。


 「カイザールさん……いや、ゼット爺さん、今日はここまでにしよう。顔色が悪いし。オレの両親の話はまた次の機会でいいから、今日は休んだ方がいいよ。

ここで無理する事なんてないんだから。ね、今日は休もう……」

 これには爺ちゃんも気付いていた様子で、今日の話は終わりにする事をオレよりも強引に、そう半ば強制的に認めさせた。

 それからオレと爺ちゃん二人で、カイザールさんを自室に運び彼の寝床に押し込んだ。


 「二人とも、情けない所を見せてしもうたな。ユウよ、心配かけてすまなんだのぉ。今日こそ、お主の両親の事を話す約束じゃったのに、それが出来んかったた。心から謝ろう。本当に、申し訳ない……」

 「そんな事言うなよ、ゼット爺さん。大丈夫。それより今は、ユックリ休んで早く元気になる事の方が大事だから。話なら、元気になったらいつでも聴けるんだからね」


 ゼット爺さんは、柔らかい表情で微笑み返してくれた。

 「じゃあ、ゆっくり寝てね。おやすみなさい。また明日」

 爺ちゃんとオレは、ゼット爺さんの部屋を出てリビングに戻った。

 「ねぇ爺ちゃん、ゼットさん大丈夫だよね?」

 「あぁ。以前から昔の話――特に『反ギフト思想』のな――をすると、たまにあんな感じになる事があってな。やはり、よほど悔しい思いをしていなさるに違いない。


 しかし、これは『ギフト』所有者に課せられた因果のような物じゃから、死ぬまでの約四百年の間はどうしても付いて回る事になるな」

 「え? 死ぬまでの四百年って何それ?」

 「あぁ、カイザール様はまだ説明されていなかったな、そういえば。

 まぁ、このくらいの事なら、ワシが言ってしまってもかまわんかな……。


 あのなユウ、よう聴くのだぞ。『ギフト』の能力を授かった物は、どういう訳かはワシは知らぬが、寿命が四百年を超える事になるのだ」

 オレは、正に鳩マメ状態で口を開けたまま、ポカーンとしていた。

 「じゃから、ワシらもお前もまだまだ生きねばならん。生きて人々の為に『ギフト』を使い、悪党どもから『ノヴェラード』を奪い返さねばならんのだ。わかるな?」


 いやぁー、悪いんだけど全然わかんない。いきなり寿命四百年超えなんて言われても、どう反応していいのか全くわかんないよ。だって、オレが歳くってから現世に帰ったら、せっかく出来た家族が誰も居なくなってるって事だよね? 

まぁ、そうなる前に帰ればいいんだけど……。

 

 そっか。皆の力で、とにかく出来るだけ早くこの国『ノヴェラード』を、アイツらから取り戻して、お土産沢山持って現世に帰ろう。いつの間にか爺ちゃんが作ってくれたカフィールをすすりながら、そんな事を考え夜は更けていった……。


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