● 閑 話 『異世界激動の歴史スペシャル』前に、とりあえず落ちつこうか……。

 日が変わると、二人はいつもの二人に戻っていた。

 昨日の話の内容がアレだっただけに、その気分を引きずったまま今日を迎えるかと心配だったんだけど、どうやら大丈夫みたいだ。


 オレがいつもみたいにカフィールを頼もうと思ったら、爺ちゃんは既に作ってあったらしい物をカップに注ぎ、ニヤッと笑顔をみせながら黙って手渡してくれた。ありがとうね。

 そいつをすすりながら、思いを巡らせた。そう、復習は大切。


 昨日の話の最後にカイザールさんは『ワシの話も残りあと少し』……だって言ってたんだよな。

 その残りの中に入ってるかどうかは今のところ不明だが、オレにはどうしても知っておきたい事がまだ残っていた。


 それは、両親の死に際についてだ。


 オレを現世に送ったのは、恐らく昨日も言った通り、オレの身に危険が及ばない様にするためだったのだと思う。

 そうとしか考えられない。

 では何故、二人ともが命を落とさなければならなかったのか? 


 やっぱりその点だけは幾ら考えても、今オレが知ってるこの世界の知識では解らなかった。

 迷った末にオレは、ゼット爺さんに声をかけた。


 「あのさ、昨日の今日で悪いとは思うんだけどさ……。

 オレ、まだどうしても知りたい事で教えてもらってない事があるんだよね。

 無理だったら今日じゃなくてもいいんだけど、いつか話してもいいと思った時が来たら教えて欲しいんだ。この通り」


 「お主がどうしても知りたい事とは……それは、お主の両親の事ではないか?

その事ならどの道、今日にでも話そうと思っておったところじゃ。

 心配するでない。ちゃんと話してやろうからの。じゃが、今は食事が先じゃ。ちゃんと食べておかんと、身体に障るでな」


 この流れで、食事の時間になった。

 (その前に顔洗ったり、用を足したりしたけどね。)


 今日のメニューは、現世で言う所のパスタのミートソースに似た料理だった。

 しかし、爺ちゃん相変わらず料理の腕はバツグンだよなぁ。

 一度、食材を召喚してるトコ生で見てみたいもんだ。

 いつもの三人で、いつもの団らん……やっぱり、安心するし和む。


 これでこの世界が、何事も無く平和だったら言う事ないのにね。

 あ、でもこの世界が以前の様に平和だったら、オレの出る幕はなくて呼ばれる事もなかったかもしれない。

そう考えると、チョット……いやだいぶ複雑な気分になった。


 とにかくだ、今出来る事をやって少しずつでも前進し、目の前にある壁を全部ブチ壊して必ずノヴェラードに平和を取り戻す。

 そして平和になったこの世界で、また皆と一緒に楽しく爺ちゃんの美味い料理を食べるんだ! 


 そして平和になったら、寂しいけどお土産沢山持って現世の家族の所に帰ればいい。オレは食事をたべながら、自然とそんな事を考えていた。


 「ふぅ~、ごちそう様でした! 

 爺ちゃん、今日も美味かったよ。

さすがだね!」


 「おうよ!

 お前みたいに、食いっぷりのイイ奴が居ると作るコッチも張り合いが出ようってもんだ。

 だから、ワシも嬉しいぞ」


 この会話を見ていたゼット爺さんの目には、相変わらず優しい光が宿っていた

が、どこかチョット寂しげ……というか、切なげな表情が見えた。

 こんな表情を見たのは、初めてだった。


 どうしたのかきいてみようと思った矢先に、ゼット爺さんが口を開いた。

 「さて、ユウよ。さっきお主が言っておった両親の話、お主の聴きたいと思う

た時にいつでもする故、心の準備が出来たらひと声掛けるがよい。

それまでは、休憩時間じゃ」


 出鼻をくじかれた様な感じになったオレは、ヤッパリこの人は他人の心が読め

るんじゃなかろうか……って改めて思った。


 オレは外には行かず、自分の部屋で心を整える事にした。

 現世で教わった座禅を組んでみたり、これも向こうでならった例の古武術の呼吸法で精神統一してみたりしたが、どれも余り効果がなかった。


 でも、昨日みたいに焦りを感じているというのとは明らかに違うのかな……。

 よく分かんないけど、まぁイイか! 

 オレは結局、この状態のまま両親の話を聴く事にした。


 リビングに戻ると、二人がいつもの様に待っていた。

 この二人と居ると、ホント安心感に包まれる様で心が楽になるなぁ。


 さて、オレの両親はどんな人達だったのか、いよいよ分かる時が来たんだ! 

 期待とも不安とも異なる、混とんとした気持ちの中ゼット爺さんの方へ近づいていった。


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