● 第30話 お約束通り、早速トラブル発生! コノ先が思いやられます……。
コノ世界に(正確には、戻って)来て初めての『旅』なわけで、例え不穏な思惑が
お気楽なオレには、モチロンこんな状況は完全に想定外だった。
周りにはうっそうとした森が広がり、道らしい道なんてドコにも無い。更には身体にまとわり付いて来る様な濃い霧に視界を遮られ、まるで先に進もうとしているオレ達一行をコノ森自体が拒絶しているかの様だった……。
ナゼ、こんな状況に陥ったのかって?
ソレはチョット長くなるかもしれないけど、これから順を追って説明していく事にするね。
まずは、こんな事態になっちゃった発端から話していこうかな……。
山を下り、旅が始まってからしばらくは遠足気分で皆とワイワイおしゃべりしながら普通に街道に向かっていた。留守番のヴァレリア婆ちゃんの『ギフト』のおかげで天気はイイし、空気も美味い! オレは正直、普通にコノ旅を楽しんでいたんだ。
その後程なくして、何事も無くオレ達はこの国家の各地を網羅している街道の一つに出た。
目的地の『マーベルシュタット』を目指し、西へと街道を進んだ。街道は道幅が5メートル程だったが、石畳でキレイに整備されていて歩きやすく、旅人の足に優しい造りになっていた。時折オレ達を追い越して行ったり、すれ違ったりする荷馬車――そう、コノ世界にも馬が居たんだ――も、その走りはとてもスムーズだった。
しばらく街道を進んだ所で、サーシャの提案でオレ達は休憩する事にした。
なんでもコノ先には、統一国家ノヴェラードの大きな水源の一つになっている清らかな大河『リューセック川』が流れており、そこに架かる随分昔にに造られたらしい木製の吊り橋を渡らないといけないという事だった。その橋の手前には、現世で言う所の『道の駅』的な旅人達の憩いの場があるというので、ソコが休憩場所に選ばれたのは自然な流れだった。
オレ達は、他の旅人に紛れて『旅人の憩いの場』へ入り奥に位置する一段上がった座敷の様な場所に陣取った。もっとも、畳は無かったけどね。
ギトリッシュさんが、皆の分のカフィールを注文してくれた……のはイイんだけど、出発前にゼット爺さんが言っていた『道中も気をつけねばならん』という事になると、飲食物に『毒』なんかが仕込まれたりする可能性もあるのか?
と、なるとコレは結構厄介かもしれないなぁ~……。
そんな思いを巡らせていたら、突然その場の空気を震わせる地響きの様な音と多くの人の叫び声やどよめき、そして時を置かずして辺りが騒然となった。
オレが外の様子を見に行くか、ゼット爺さんと見た目双子のサシャ――もとい、今はサーシャだったっけ――に付いているか逡巡していたらイリアさんが、
「しばしお待ちを。様子を見て参ります。ギトリッシュは、ここで待機!」
と言い残し、足早に建物を出て行った。
やっぱり、判断が早いね! とりあえずは、待ち時間か……。
問題はナニが起きたのか……だけど、さっきの音と人々の声の様子から察するにタダ事じゃないのは間違いないだろう。
そのうちに、橋の方から戻ってきた旅人の一人が慌てた様子で『橋が落ちたぞ!』と言っているのが聞こえてきた。オイオイ、本当かよ……。
これから、どうすんだよ? っていうか、ココで休憩してなかったらオレ達も危なかったんじゃないのか? コレって、偶然?
――いや、やっぱり偶然とは考えにくいよな。なんたって、このタイミングだし……。
その時、イリアさんが戻ってきた。少し青ざめた表情だったが、一方で何故か少しホッとした表情をしていたのが気になった。
「この先の吊り橋が丸ごと……流されました。原因は、突然の鉄砲水の様な激流だったと目撃した旅人達が口にしておりました。幸いにも、巻き込まれて流されてしまった者は居なかった様ですが、この場所で休みを取っていなかったら我々も危なかったかと……」
「イリアさん、この川は鉄砲水みたいな物がよく起きる所なの? 普通、鉄砲水って上流で大雨が降ったり、何かの原因で起きた増水が原因で発生する物だよね?」
「ソレは、……確かにその通りです、ユウ様。ここら一帯の地域には、ヴァレリア様のお力の効力が及んでいるため、少なくともここ数日の天候は穏やかだったはずです。大雨等の急激な増水に繋がる原因が、私には思い当たりません。また、この付近の住民の話では、リューセック川でこの様な出来事が起きたのは初めてだそうです……」
「ソレは確かに妙な話じゃな……。
報告、ご苦労じゃったのイリア。フム……とりあえずはじゃ、ここでこのまま話をしているだけでは埒があかぬな。皆で川の所まで行き、付近の様子を自分の目で確かめるとしようかの。各々が実際に現場を見れば、何か新たな発見があるやもしれぬでな。しかし、皆くれぐれも注意を怠らぬ様に。
考えたくはないが、コレは我々を狙った物である可能性も否定できぬ事を心せよ!」
こんな事になっても、ゼット爺さんは慌てず騒がず皆を導く様な力強い口調だった。ホント、心強いよ!
オレ達は、大騒ぎになっている――まぁ、コンナ事が起これば当たり前だけどね――『旅人の憩いの場』を出て、吊り橋……が存在したはずの場所へ向かった。その途中、オレと瓜二つのコスプレ変装をしているサーシャが、オレの手を握りしめながらソッと囁いた。
「これから起こる事に驚かないで欲しいのサ……」
ソレだけを言うと、素知らぬ顔をして並んで歩き始めた。
しばらくすると、驚くべきことが起きた。サーシャの声がオレの頭の中に直接入って来たのだ。彼女は『驚かないで欲しい』って言ったけど、コレが突然起きたら流石に誰でも驚くってば……。事実、オレは予告があっても驚いたし!
≪ゴメン、ユウ。
でも、驚かずに何も起きてない様に普通に行動して欲しいのサ。コレは、『
≪サシャ……いや、今はサーシャだったな。こんな事まで出来るんだね。コレは本気でビックリしたけど、今の状況を考えるとキミと話すには完璧な術だね。触れた相手とだけナイショ話が出来るなんて、スゴク便利だし安全だと思うよ≫
そこまで他人に知られる事無く話した所で、オレ達はサッキまで吊り橋が在ったはずの場所に来ていた。サーシャは何も無かった様にさりげなくオレの手を離して、オレの背後に回り込み隠れる様にして現場を見ていた。
現場には、災害レベルの惨状が広がっていた。吊り橋を固定していた、川岸に深く打ち込まれ補強されていたはずの支柱や周辺の地盤もろとも、正に水で出来た巨大な悪魔の爪にえぐり取られた様な状態になっていて、川の流れも荒々しく驚くほど速かった。
「コレは……。なんという事か。一体、ナニが起こったというのだ?」
あのギトリッシュさんが明らかに驚き、そして狼狽すらしていた。
「ふ~む……。こうして見た所、やはりイリアの報告通り『自然のなせる力』によって橋は流されてしもうた様じゃ。そしてコノ流れでは、仮に船を手配出来たとしても、向こう岸に渡る事は叶うまいの……。
さて、どうしたものか。皆、とりあえず先程の場所に戻り今後の計画を練るとしようかの。何か気付いた点があれば、その際に言うがよい」
言うなり、ゼット爺さんは川に背を向け『旅人の憩いの場』へと戻り始めたので、オレ達もそれに倣った。
旅が始まってまだ半日も経ってないのに、イキナリこんな大トラブル発生だよ。考えてみれば、ここって主要な街道の橋なんだよな? 街道の様に整備はされていなくても迂回路の様なルートはあるんだろうか? ソレにしたって、いずれにしろ『リューセック川』は渡らないといけない訳だからなー。近くに別の橋ってあるの?
今回は鉄砲水で橋が流された訳だけど、その原因も結局の所今は判然としてないんだよな……。それでなくても『旅の一行の中に悪意を持った者が居る』っていう状況なのに。
どうやら、オレ達の旅は平穏無事には進まない様だ。
先が思いやられる……ってのは、こういう事を言うのか。
出発当初の遠足気分は、当然の様に消し飛んでいた……。
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