● 第24話 異世界初デートで、人生の伴侶が決定!

 「やぁ、サシャ。待たせて悪かったね」

 「そうサ。ボクは、キミに随分と待たされてしまったのサ。そんなキミは、ボクに何をして楽しませてくれるのかナ? 相当なサービスじゃないと、ボクは満足できないヨ……」

 上目遣いにオレを見ながら、サシャはチョット怒った様に言った。


 「いや、ソレに関してはホントごめん! 

 今朝起きたら、いきなりギトリッシュさんがオレの護衛って事になっててさ……。あのまま、アノ人が護衛に付いてたらココにだって付いて来る事になっちゃうから、ソレだと、ちゃんと『デート』出来ないと思ってさ。

 だから、本当は、出来るだけ穏便なヤリ方で事を収めようと思ってたんだけど、結局闘う事になっちゃって……本当に悪かった。ゴメン」 


 「アハハ! 冗談だヨ。冗談。キミは何でも真に受けちゃうんだネ……。

 本当にマッスグな心を持った人間なんだ。うん、益々気に入ったヨ……。

 ねぇ、どこかもっと『デート』らしい場所に行こうヨ……」

 サシャが、いつものイタズラっぽい微笑みを浮かべてオレを誘ったので、オレはお気に入りの場所に連れて行く事にした。


 「さぁ、ココがオレのお気に入りポイントその1『丘のテッペン』だよ。

 オレ、ここに寝転んで見上げる空が好きでさ……。

 まぁ婆ちゃんのおかげで、青空と満天の夜空しか見た事ないんだけどね」

 「へぇ……、ココはキモチイイ所だネ。吹き抜ける風も爽やかなのサ。

 そうなんだ、ココで空を見上げてるんダ……」


 そう言うとサシャは、オレの手を取りながら、

 「ねぇ、キミは運命の出逢いって信じるかい? ボクは、子供の頃からズット思ってたヨ……いつの日か、キミの様なヒトと出逢いたいってネ。

 そして、遂にソノ時が来たのサ」


 まるで、……そう、まるでオレと出逢う事を前から知っていた様な口調だった。まぁ、確かに『占術』を究めた天才なんだから、そう考えたりするのも不思議じゃないのかも知れない。


 「運命の出逢い……かぁ。サシャは、凄い事言うなぁ。

 オレ達、昨日会ったばかりだしマダ殆ど話もしてないんだよ。ソレなのに、オレと逢ったのが『運命』だっていうの? 

 もしかして、サシャって未来の事が分かったりするの?」

 「未来……。そうなのかもネ。ボクには大体の事は、何でもお見通しなのサ。

 ……そう、例えばキミがボクの事を普通の女の子であって欲しい……って、思ってる事とかネ」


 うわ! いくらオレが思ってる事が顔に出やすいからって、そんな事までわかっちゃうもんなのかよー。参ったね、コレは……。

 「別に、キミの顔にそう書いてあった訳じゃないのサ……。ボクの本当の素顔を見た人は――まぁボクは、他人に素顔はあんまり見せないのだけれどネ――まず全員が全員、ボクが男なのか女なのか分からないって言うからネ。


 実はサ、今あの洞窟でボクの本当の素顔を見てるのはキミだけなんだヨ……。

 二人だけのヒ・ミ・ツ……なのサ。

 これは『占術』の一種をボクなりに応用して使っている、変装みたいなモノなんだ。でもネ……あの時、この山に入る秘密の廃屋に入った時に感じたアノ優しい結界――結界をあんな風に感じた事は、アノ時が初めてだったヨ――を通った時、ボクには解ってしまったんダ。この場所にこそ、ボクの一生を捧げてもいいと思える『ギフト』の持ち主が居るってネ……。


 あ、先に言っておくけどコレはキミ自身を研究材料にしたいとか、キミの『ギフト』を調べてみたいとかっていうキモチじゃなくてネ。

 ボクの心が言わせてる、本当のキモチなのサ。それからネ、……キミにだけはチャント言っておくネ。ボクは、普通の女性だよ。

 何なら、キミになら今スグにでも、ボクの全てを見せても構わないヨ」


 運命の……とか、一生を捧げる……とかは、ちょっと置いといて! 

 ソノ件は、後でチャンと考えるから! 

 とにかく、サシャは普通の女の子だったんだ……。

 相変わらずの神秘的なオーラを、心地よく感じながらオレは、大いに喜んだ。


 でも、よく考えたらコレって喜んでるだけじゃサシャに対して失礼だったよね。人を見かけで判断しようとしてた自分が恥ずかしかった。

 「サシャ、あのね……ごめん! 

 オレ、疑ってた訳じゃないんだけどキミの素顔が余りにも神秘的だったから……つい、どっちなんだろうって考えちゃってさ。ホントごめんね」

 「アリガト……、キミはやっぱりボクが思っていた通りの人だったのサ」


 言うなり、サシャは自分の全身をオレに預けてきた! 

 考えてみれば、異世界に来てコンナにドキドキしてるのは初めての事だった。オレ、モテ期来たのかな? やったね! 


 「サシャ、オレの方こそありがとう。

オレの事をそんな風に想ってくれてるなんて……。オレさ……ホント嬉しいよ」

 思わず、サシャを抱きしめていた。サシャもまた、オレを抱きしめていた。


 しばらくそうして抱き合った後、オレは、サシャに『異世界ファーストキス』を捧げた。サシャは、照れながら自分にとっても人生初めての口づけだと囁き、オレの胸に顔をうずめた。

 オレは、そんなサシャが愛おしく思えてしょうがなかった。


 「ねぇ、サシャ。オレは『占術』とか解らないけど、君の本当のキモチがどんなモノなのか、よく解ったよ。オレさ、この先何があってもドンナ事が起きても、ずっとサシャと一緒に居たい!」

 現世だったら、コンナ美味いハナシはまず無いだろうなぁ~。

 オレ、どうなっちゃったんだろう……。そして、これからどうなるんだろう? なんて、考えながら言った。


 「ユウ、世界でただ一人の我が運命のひと……。

 お願いだから、もうボクを独りきりにしないで。

 考えたら、ボクのこれまでの人生はいつも独りきりだったのサ……。


 だから、『占術』や『ギフト』の研究なんかをするしかなかったんだヨ。

 そしてやっと、……やっとの事でキミに出逢えたんダ。ボクはキミのためなら、喜んでコノ命を懸けてもイイ。

 だからお願い、……この先ボクが死ぬまでの時間をこのボクと供に生きて!」


 いつの間にか、サシャの目から涙が溢れていた……。

 男って生き物は、いつだって女の子の涙には弱いもんだ。そして、それが本心からの涙だと確信出来たなら、断る理由なんて見つかる訳が無かった。


 「解ったよ、サシャ。オレはキミを独りきりになんてしない。

 ずっと一緒に居よう。でも、オレのために命を懸けるなんて、お願いだから言わないで。オレは、もう大切な人の命を失いたくないし、そうしてオレだけが残されて生き続けるなんて事は、……もうコレ以上、耐えられないんだ」


 オレは、自然と両親が自分達の命と引き換えにして自分を生かしてくれた事を思い出していた。あんなやりきれない気持ちになるのは、もうイヤだった。

 「そうだったネ……。キミは、あんなに悲しい経験をしたんだったネ。

 ゴメン…ボクの言い方が悪かったのサ。

 でも、コノ気持ちを解ってくれて、ボクは本当に嬉しいヨ……」


 「いいんだ、もう。サシャ、もう泣かないで。

 それから、コレは提案……というか、お願いなんだけどさ、今あの隠れ家にいる皆にサシャの本当の素顔を明かす事は、イヤかい? 

 あの人達は、オレにとっては、みんな家族同然の人達なんだ。

 サシャはこの先、ずっとオレと一緒に居るんだから言うまでもないけどさ。


 説明はオレがちゃんとするから、オレの家族達に本当の素顔を見せて、俺達の事も話しておきたいってオレは思うんだ。もちろん、サシャが困るって言うんなら、このままでもいいけど……」


 「うん。解った。ユウの言う通りなのサ。

 皆、ビックリしちゃうかもしれないけど……アノ人達には、素顔を明かす事にするヨ。アリガト……もう、夕方になっちゃったネ。

 ボクは、ユウと二人で見た、コノ景色を一生忘れない。

 でも、また二人で来たいのサ」

 「あぁ。オレも忘れないよ、絶対に。そして、また何度でも来ような」


 こうして、オレの『異世界初デート』はコレでもかっていうぐらい、想像以上にイイ結果を迎える事が出来た。そして、結果的に『運命の女性』と巡り逢い、その一生を供に生きていく事になった。


 オレ達は手を繋いで隠れ家に戻り、丁度夕食前で広くなったダイニングに集まっていた皆に、まずサシャの素顔の事情――『G(ギフト)の書』を守る為に、やむを得ず素顔を隠す必要があった……という事にしておいた――を説明し、オレ達二人が一生を供に添い遂げる関係になった事を話した。


 最初は皆、大層な驚き様だったが結局、話の最後にはその場の全ての人間が、オレ達二人を心から祝福してくれた。

 そして、この報告にかこつけて二日連続の宴会が始まる事になった。

もちろん、宴会が終わる夜明け前まで飲まされ続けた事は言うまでも無い……。

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