● 第23話 初デートは、バトルの ア・ト・デ……瞬殺ですが、ナニか?

 勝負会場は、隠れ家から見てオレがいつも行く沢の反対側にあるごく普通の空き地だった。既に、ギャラリーの皆さんとギトリッシュさんはお揃いで、オレを待っていた。

 「遅くなってゴメン。待たせたかな?」

 「いや、私もさっき来た所だ……」


 明らかに、食事の時のギトリッシュさんとは、表情が違っていた。

 正に、戦士の顔だった! 『オラ、ワクワクすっぞ!』思わずそんな風に言いそうになったが、茶化すのは失礼だと思いやめておいた。

それに言ったところで、誰のセリフを真似したかなんて分からないだろうしね。


 「それではこれより、ユウ・カミハラと、ギトリッシュ・ウェーバーの勝負を始める事とする。二人とも、条件や希望するルールがあれば、何でも言うがよい。ユウよ、お前からじゃ」

 「オレの方からの希望は特に無いかな……あ、今回は飛び道具だけ禁止してくれれば、ソレでいいよ。

 それに、もちろんだけどオレは『ギフト』は使わない。

 身に付けた技だけで闘うよ。以上」


 「ではギトリッシュよ、お主の希望はあるかの?」

 「いえ、特にはございません。私も『エストリアの黒豹』と呼ばれる者として、その名に恥じぬ闘いをするまでです。

 相手が素手でならば、私も同じく素手にてお相手致します」

 「ふむ。さすが二つ名を持つ戦士じゃ。では、お主らの力見せてもらおう! 始めい!」


 ふーん。二つ名を持つ戦士か……。オレが、二つ名と聞いて思い出すのは……もちろん『リトル・ルーキー』だな……なんて事を考えていたら、ギトリッシュさんの左拳が飛んで来た。

 パワーだけの戦士じゃないね、やっぱり。キレが違うよ! 


 でも、『天狼派古流』を究めたオレにしてみたら、言っちゃ悪いけど普通レベルの攻撃だった。軽くいなして、一瞬でその腕を取りながら関節をきめ、そのまま懐に入ったと同時に、その巨体を背負い投げ地面に叩き付けられる寸前の頭部

に右回し蹴りを直撃させた。


 闘っている当人二人には、お互いこの動きがスローに見えたかもしれないが、周りのギャラリーにとっては殆ど刹那の出来事だった……。

 ギトリッシュさんの巨体が跳ねる様に、地面を転がっていき……まるで、壊れた人形の様な不自然な姿で身動き一つせず、横たわっていた。


 わっちゃー、チョットやり過ぎたかな? これでもだいぶ手加減したんだよ。ホントなら、腕の関節をきめた瞬間に折ってるし、最後の回し蹴りは受け身の取れない角度で相手を地面に叩き付けた瞬間に喉を踏み付けるのと同時に、頸椎を破壊し息の根を止めるのがこの技の正しい使い方だからね。


 『天狼派古流』なんて言えば聞こえはイイけど、ハッキリ言ってしまえばこの流派は時代の陰に生き、歴史の闇を歩いて来た人殺しのための技だ。

 今の平和ボケしたあの国、日本では門下生も数人しか居なくなってしまい後継者を探すのにも苦労してたっけ。

 無理もないよね、だってこの時代に『人を如何に効率よく殺すか』なんて事だけを磨き続けて来た技なんて必要ないもんね……。


 で、結局オレがその後継者に一番近い存在になって、受け継ぐかどうかの判断を委ねられていたんだけど、その答えを出す前にコノ世界に来ちゃったんだ。こりゃ当分、答えは返せそうにないね。


 おっと、ギトリッシュさん大丈夫かな? 

 あの最後の回し蹴りは、わざと外して頭に当てたけど、手加減しててもカナリ効くからねぇ……。

 あ、だめだなコレ。気絶して口から泡吹いてるし……。


 「誰か、ギトリッシュさんを運ぶの手伝って! 楽な姿勢にしてあげないと……」

 言うと同時に、イリアさんがやって来て、二人でギトリッシュさんを引きずる様にして近くの木陰に連れて行き、楽な姿勢で横になれる様、オレは自分がそれまで着ていた、現世で言う所のパーカーを脱いで丸め頭の下に敷いた。


 息があるのは確認出来ていたのでしばらくこのままにしていれば目を覚ますだろう。さて、これで勝負あったよね……。

 あれ? 皆、どした?


 その場にいた、イリアさん……と、もう一人サシャ以外の人達は唖然としていて誰一人口を開く者さえ居なかった。あのカイザールさんさえもが呆然としていたのだ……。

 その点、戦闘経験のあるイリアさんは冷静だった。

 「あれは……、あの技は一体……? 一瞬だったので、見切れませんでした」

 それでも、声が少し震えていた。

 まぁ、アレを初めて見た人は大抵コンナ反応になっちゃうんだよね。

 しゃーないか。


 「オレが習ってた古武術で『天狼派古流』の技の基本の一つだよ。

 技の解説は悪いけどしないよ。

 言っておくけど、これは知られたくないからじゃなくて、例えコノ技の動きを知っても知ってるだけじゃ対応できないし、真似もできない物だから……」


 その時になって、皆がまるで意識を取り戻したかのように大騒ぎし始めた。

 オレは、ギトリッシュさんの意識が戻るまで側に付いているつもりだった。

 そんなオレの姿を見たイリアさんは、

 「今までの非礼お許し下さい。貴方には、護衛など本当に必要無かったのですね」

 「まぁ、そうなんだけど……。

 こっちこそ、ゴメン。ギトリッシュさんにケガさせちゃって」

 「そんな! コヤツには、良い薬になったでしょう。

 二つ名を持つ戦士などと言われて、思いあがるのも甚だしい事です」


 「ユウよ、一体何がどうなったのじゃ? コレは……勝負あったという事かの?」

 振り向くと、カイザールさんを含めた全員が集まって来ていた。

 「カイザール様、ユウ様の完璧な勝利でございます。

 このギトリッシュの完敗です」


 おぉ、ギトリッシュさん意識戻ったんだね。よかった! 

 「しかし、見事な技ですなぁ……と、いっても何が起きたのかサッパリ分からないまま、終わってしまいましたが……。

 ユウ様、このギトリッシュ・ウェーバー感服致しました! 

 改めまして、心から忠誠を誓います!」

 「私、イリア・ウィットナーも、改めまして心より忠誠を誓います!」


 あれー? オレの提案した話と真逆の方向にいってないかい? 

 もっと普通に接してくれよ。

 「ふーん、キミは『ギフト』使わなくても、強いんダネ。ドキドキしたのサ」

 サシャ! どうやら、普通に話してくれるのはキミだけみたいだな。

 嬉しいよ、オレは。

 「この後、もう少ししたら、約束通り『デート』なのサ。ちゃんと憶えてル?」

 「あぁ、モチロン! もうちょっと待っててな」


 オレとイリアさんは、ギトリッシュさんに肩を貸して、隠れ家の部屋に連れて行き、念のため休ませる事にした。その後、婆ちゃんの所に行き、護衛が必要無いって事を確認し、急いでサシャを探しに行った。


 サシャは、隠れ家の入り口の脇の岩にもたれて待っていてくれた。

 これで、やっと念願の『異世界初デート』の時間だ。

 オレは、当然の様にワクワクしていた。

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