● 第25話 将来のヨメが決まったので、同棲する様です。

 翌日の朝、オレは普通に寝坊した。寝たのが夜明け前の、空が明るくなりかけた頃だったから、まぁしょうがないよね……。

 しかし昨夜は随分と飲まされ、また大いに冷やかされたもんだ。


 もう一人の当事者であるサシャは、隠れ家の皆に本当の素顔を明かし、――これには、あのカイザールさんも、流石に相当ビックリしていたんだが――彼女もまた、特に飲み仲間で親友のヴァレリア婆ちゃんに飲まされていたが、その様子を見た限りサシャはいつものサシャの様に振る舞い、でもコレはいつもとは大きく変わっていた……彼女は、本当に嬉しそうだったのである。


 あのサシャの、少しはにかんだような笑顔……あの笑顔がこの先絶える事無く続く様に、オレの力で守っていかなきゃいけないんだなぁ……そして、その笑顔を守り続ける事こそがコノ世界自体を救う事に繋がるんだ……という事を、改めて自覚しながら寝返りを打った。


 その瞬間、目の前にサシャの顔がドアップで現れた。本当に安心し切った表情で、微かな寝息を立て眠っている……眠っているのはイイんだが、何でオレの部屋でサシャが寝てるんだろ? コノ状況ってマサカだけど……一気に目が覚め急いで自分の恰好を確認する。よかった。一応、普通に服を着ていた。コッソリとサシャの様子を見てみると、サシャも昨日デートの時に着ていた服のままの様だったので、ちょっと安心した。


 まさかソンナ事はないと想像したくもなかったけど、流石にコノ状況で目覚めたら飲んだ勢いでサシャの事を……なんて考えてしまったのだ。オレは昨夜の記憶をかき集めてみた。オレ達二人は、カイザールさんや爺ちゃんと婆ちゃん、それにイリアさんとギトリッシュさんに囲まれて、何度も祝福のカンパイをして、爺ちゃんにはお前は自分に似て女性を選ぶイイ目を持ってるなんて言われ、婆ちゃんは……そう、婆ちゃんは嬉し涙を流しながら本気でオレ達二人の事を喜んでくれたんだ。そして、カイザールさんは、いつにも増してずっとニコニコしていたっけ……。


 あれ? その後どうなったんだっけ? 全然おぼえてないや……何で、こうなったぁー? って事アルごとに言う、異世界に転生した元サラリーマン幼女が居たが、今のオレも似たようなもんだった。


 そもそも、ココってオレの部屋じゃない! 部屋を見回して初めて気付いた。オレの部屋はほぼ円形の三十畳ぐらいの広さで壁は磨いた様な感じでスベスベしていて、なんかどことなく北欧風だったけどココは趣が全く違っていた。

クラシックでヴィンテージな図書館の様な、パッと見ただけでも五十畳以上の広さを持つ部屋だった。


 いつの間に……というか、誰がどうやって運び込んだのかわからないけど、オレにはそのタイトルの意味さえ理解出来ないような何かの専門書の様な本や、恐らく物凄く古い物だと推測出来るコレまた何が書いてあるのか解らない巻き物が整然と並べられ、気分を変えてコレらを読むためだろうか……部屋の所々に、この場所に初めからあった様な重厚な雰囲気のソファなんかが配置されていた。


 オレが暮らしていた部屋とは全く違う雰囲気だったのと、書物の量に初めは戸惑ったけど、不思議な居心地の良さに満ち溢れた部屋だった。

 「ん~……ユウ、どこ? もう起きたの? コッチ来て」

 「おはよう、サシャ。ココ、サシャの部屋なんだね。オレ昨夜の事、どうも途中から何も憶えてないみたいでさ……マサカとは思うけど、オレ無理矢理サシャの部屋に押しかけて、それで、その……ひょっとして何かしちゃったトカ……ソレはないよねぇ?」


 呼ばれて、サシャの寝床――オレもソコで寝てたけど――の方に行くと、サシャが飛びついて来た。

 「ユウ、キミはずっとボクと一緒なのサ。

 だから、ボクがムリヤリ一緒の部屋に住める様にカイザール様と話をしたのサ……。彼に『Gの書』を渡す事を条件にね。

 だから、もう大丈夫。ボク達は、イツも一緒に居られるのサ。本当に、……本当にボクは嬉しいヨ。まるで夢みたいダ」


 オレは、優しくサシャを受け止め、その言葉を聞いた後サシャを抱き締めながらキスした。サシャもオレを強く抱き締め、耳元で囁いた

 「昨日は、あんな風に告白したけど、全部ホンキなのサ。イキナリで驚いたかい?」

 「そりゃあ、男ならダレだって驚くよ。でもね、サシャの瞳を見て解ったんだ。サシャの気持ちがホンモノなんだって……。だから、嬉しかったんだオレ」

 「アリガト、ユウ。ボクの……ボクだけの守護天使!」


 守護天使……かぁ。オレの好みは、天使とは真逆のブラックメタルなんだがなぁ……なんて思いながら、

 「ねぇ、お腹すかない? ご飯食べに行こうか」

 実際、メチャクチャに腹が減っていた。それに、沢で顔も洗ってシャッキリしたかった。

 「うん! 実は、ボクもペコペコなのサ。あ、でもその前にちょっと待ってテ」

 言うなり着替え始めた! 

 コレって……このまま見ててイイ物なんだろうか? 普通だったら、部屋の外で待ってる方がイイんだろうね、きっと……。


 「どうしたんだい? あ、見ない方がイイのかなとか思ってるのかい? 

 ボクは、昨日も言ったけどキミになら、ボクの全てを何時どこで見られても気にならないし、したい事があるならドンナ事をしてくれても、かまわないんだヨ……。それに、一緒に住んでるんだからコレぐらい当たり前。気にする必要なんて、ドコにもないのサ」


 まぁ、確かにサシャの言う通りだよね。いくら広いとはいえワンルームみたいなもんなんだし、一緒に暮らすとなれば、イチイチ気にする方がおかしいのかな……。なるほど、ココはお言葉に甘えておくとしよう。


 昨日はゴシック色の強い、とてもダークで重厚なテイストのまるでそういうジャンルの映画の衣装の様な、スキの無い服装だった。けど、サシャが着ると見事なまでにソレがハマる……というか、完全にその服を着こなしてしまっていた。


 まぁ、サシャぐらいの美貌なら何着ても似合うんだろうなぁ……それに、透き通る様な白い肌と、あの細さに加えて手足も長い。例えば、現世にサシャの様な女の子が居たらどうだろう? モデル事務所やら芸能事務所が、放って置かないだろーなぁ。オレは、今更ながらに彼女の、美しさと艶めかしさを実感した。


 コンナ美貌の持ち主がオレの彼女……というか、どうも一生一緒らしいので、ゆくゆくは結婚しちゃったりする存在にいつの間にかなってるけど、オレのどこら辺に惚れてくれたんだろう? こういうのって、自分じゃわかんないもんなんだよって、現世に居た頃に大学の友人が言ってたっけ……。


 「今日は、こんな感じにしてみたヨ。似合うかナ?」

 色んな事を考えている間に、サシャは着替えと身支度を整えていた。今日は、シンプルに黒のダメージ加工スキニーパンツに、どういう仕組みでコノ世界にソレが存在するのかは不明だったが、何故か『Mötley Crüe』(モトリー・クルー)のバンドTシャツを着ていた。このシンプルなロック・ファッションが、サシャの神秘的な美しさを引き立てていたのは言うまでも無い。


 今日のブーツは、昨日の様な厚底ではなかったが14ホールぐらいの黒い編み上げブーツだった。そう言えば、オレもドクター・マーチンの14ホールダブルジップ・ブーツ持ってるなぁ。


 「メッチャ、似合ってる! でも、なんでコノ世界にモトリーのTシャツなんて在るの? ソッチ系の店とかあるの? オレも行きたいんだけど……ねぇ、サシャ!」

 サシャは、いつものイタズラっぽい微笑みを浮かべながら、

 「昨日、言ったじゃないカ……。ボクには大体の事は、何でもお見通しなのサ……って。ユウが、このバンドが好きで、実際にコレと同じモノを持っているって事もボクは、知っているのサ。


 だからネ、コレは例の変装と同じ様に『占術』の応用でコノ柄にしているのサ。だって、愛するヒトの好みの服装に合わせるのは当然じゃないカ……。

 次は、ユウの服も好みのモノにしてあげるから、楽しみにしているといいサ。

 じゃあ、ご飯に行こうヨ」


『占術』って凄いのな……と、改めて思った。しかも、彼氏好みの服装に合わせるのが当然だなんて……。そんな些細な健気さがとても嬉しく、オレは益々サシャの事が好きになった。


 ダイニングに行くと、カイザールさんと爺ちゃん・婆ちゃんがカフィールを飲んでいた。

 「二人とも、おはよう。よく寝たようじゃの? まぁ、アノ時間まで騒いでおれば当然かの。サシャも、ココに着いて間もないが旅の疲れは取れたかの?」

 「おはようございます、カイザール様。昨夜は、我らを祝福して頂き、誠にありがとうございました。疲れなどありましょうものか、幸せと感謝の気持ちで満たされておりますれば……」


 「皆、おはよー。オレは、流石に昨夜は疲れたよ……。

 夜明け前まで騒いでたし。でも、本当にありがとう。

 昨日は、色々あったけど本当に嬉しかったんだよね。

 オレ、まさかコノ世界に戻って来て、こんなに早く運命の人に出逢えると思わなかったし、『ギフト』の事とか両親の事とかで全然余裕とか無かったから……。


 でもね、サシャのおかげでオレ生まれ変われた様な気がしてるんだ。これからもっと『ギフト』の力を磨いて、絶対にコノ世界の為に使える様になってみせる! そして、またコノ世界が平和で満たされるなら何だってするから」


 「我が孫として頼もしいぞ、ユウ! だが、その前にはまずメシを沢山食べろ。さぁ、すぐに作ってやるから、二人とも顔でも洗って来い!」

 爺ちゃんが嬉しそうに言い、婆ちゃんとカイザールさんは、ただただ優しく微笑んでいた。


 「わかった! ちょっと行ってくるよ! 」

 オレはサシャと一緒に沢へ行って顔を洗った。

 やっぱり、ココの清水は気持ちイイや! 見ると、サシャも同じ様にして清水を顔にかけていた。

 「スッゴク、冷たい! でも、気持ちがイイ。久しぶりだナ……こんな風に沢の水で顔を洗うなんテ……。ボクは、面倒な事は大体『占術』で済ませてしまうカラ。ユウと一緒だと、自分も普通の人間になった気になれて嬉しいヨ。

 さぁ、戻って食べよう」


 「サシャはさ、自分のコト普通の人間じゃないと思ってるの?」

 「全ては『占術』という奴のセイなのサ……。あの術の力を応用出来る様になると――まぁ、そこまで究めるのは、まず無理なんだけれどネ――時々そう思う様になってしまうのサ。あの『占術』って奴は、『ギフト』の様な優しい『他人の為の力』じゃないカラ……。アノ力は、使い方一つでそれまで人間だった者を、神にも悪魔にも変えてしまう様な……本当は、コノ世界にもう存在しちゃいけない物なのかも知れないのサ」


 「自分の事をそんな風に言っちゃダメだ! 例え自分を悪魔に変えちゃう様な力を持っていたって、サシャはサシャなんだよ。サシャがちゃんとサシャで居る限り、オレはキミが悪魔になっても、絶対に連れ戻していつものサシャにしてみせるから! 改めて言う事じゃないかも知れないけど、その力も含めてオレはサシャの全部が好きなんだ。だからオレを信じて、そして同じぐらい自分の事も信じるんだよ。心配ないさ、オレがずっと側に居るから……」

 その瞬間、サシャが全身を投げ出して来た。オレはもちろんだが、そのまま抱き締めた。


 「やっぱり、キミに逢えてよかった……。ユウ、本当にありがとう」

 「そんなの当然! 気にするなって。

 さぁ、ご飯たべようか。大丈夫?」

 サシャは、コクリと頷き、オレたちはダイニングに戻った。

 二人とも、本当に腹ペコだったんだ……。 

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