● 第5話 召喚されたと思ったら、里帰りだった件!
トンネルを抜けたら、
さて、手始めにお互いの名前を知った訳だけど、ここから先はコノ異世界に関する知識や、それにまつわる色々な事を教えてもらえるらしい。
現世風にいえば『異世界に関する基本的な
せっかくの夏休みだってのに、講義を受けるハメになるとは想定外だったが、コノ世界の事を何も知らない――厳密に言えば、記憶が無いという事らしい――のだから仕方がなかった。
個人指導の先生は、主にカイザールさんが担当してくれるらしい。
今思えば、例の夢の中でオレに語り掛けて来た『声の主』は、ひょっとしたらカイザールさんだった……という事になるのかな?
でも、いつも夢の中で聞こえてきた声は『男声と女声のユニゾン』の様だったしなぁ……。
ソレっぽくするために、ああいうエフェクトかけたりしたのか?
演出で、わざとそういう風にしたって事かな?
どうなんだろ? よく、わかんないや……。
仮に、夢の中の声がカイザールさんだったとして考えてみると、確かにあの夢の中じゃ怖いと思った時もあったけど、実際に顔を合わせてナマで話してみれば、
なんだか穏やかな春の日差しに包まれてる様な優しさを感じた。
そんなカイザールさんとエルネストさん二人は、オレを自分達の棲み家に案内してくれた。そこは、自然の洞窟を利用して暮らしやすく改装した場所だった。
「話を始める前に言っておく事がある。
まずは、よく聴いて自分なりにソノ事実を受け入れるのじゃ。
もちろん、質問があれば答えるし説明もしよう。
少しずつでよいから、本当の自分を知っていくのじゃ……」
カイザールさんは、こんな思わせぶりな前置きをしてきた。
プロローグ付きの講義ってわけだ。さて、一体ドンナ話が聴けるのか……。
何故かワクワクしている自分が、ソコに居た。
コノ世界におけるコーヒーに相当すると思われる飲み物を一口飲んで、続きを待った。コイツ、名前も素材もわかららないけどナカナカに美味い。
オレ好みだ! 気に入った。
「では、始めようかの。まず一番初めに言っておかねばならん事がある。コレは、かなり大切な内容なので、心して聴くがよい……。
実はお主は、元々この世界で生まれた人間なのじゃ。
そして、十歳になるまでコノ世界で家族とともに暮らしておった……」
へ? オレは我知らず固まり、頭の中が真っ白になった。
どゆこと? ナニ言ってんの、このヒト? ワケガ、ワカリマセーン!
コレって当然の反応だよね?
コイツが事実なら、てっきり異世界に『召喚』されたと思ってたら、実際は『里帰り』だったって事だもんな。
あぁ、だから夏休みに呼ばれたのかぁ~。
コレ、帰省って事なのね。……って、んなアホな?
まぁ、イキナリそんなとんでもない話をされれば誰だって驚くし、脳ミソの機能が停止状態になるわなー……。
つーか、こーゆー『アナタ、実は○○○だったんですよ』的な、しかもかなり重要なネタって大体は、物語のクライマックスとかで明かされたりして、ソコで盛り上がる……みたいな感じが普通なんじゃないのかな?
ドしょっぱなから、こう来ちゃう展開ってアリなの?
「お主、顔色がすぐれぬが大丈夫かの?」
気が付けば、カイザールさんとエルネストさん二人が心配そうにこちらを見て
いた。
「あ、あの……一応、大丈夫ですけどイキナリ過ぎて、だいぶ混乱してます」
「確かに、そうであろうのぅ……。
驚くのは栓無き事じゃし、心乱れ悩むのも致し方無い。
しかしじゃ、お主の記憶が失われておる以上、お主がこの世界で生き、そしてこの世界を救うためにはこの事実を最優先事項として、最初に知り自覚せねばならんのじゃ。
ゆっくりでええ……まずは落ち着いてこの事実を受け入れて欲しい」
この世界を救うとかいう話の内容はともかく、やっぱり何度聴いてもカイザールさんの声と話し方には優しさと、何とも表現しがたい不思議な暖かさの様な物があると思う。
そして、それは彼自身だけの為ではなく、常に話し相手や自分以外の人々の事を想って、心の中から滲み出て来ているのが強く感じられた。
カイザールさんは続けて言った。
「当然の事ながら、お主はコノ世界で生まれた時に付けられた、本当の名前も
持っておる。
どうじゃ? その名すら、憶えておらぬか?」
オレの本当の名前?
まぁ、本当にこの異世界がオレの生まれ故郷だって言うんなら名前ぐらい、そりゃあって当然なんだろうけど……うぅ~ん……全く、憶えてないなぁ。
まぁ、正直言うと確かに、今のオレの名前はチョットばかり訳アリなんだよね……。
そう、オレの今の『
いくらオレがこの異世界で生まれたって事が事実だとしても、イキナリ本当に大切なコノ名前を捨てる事なんて出来るわけがないし、するつもりもない。
だから、正直にこう答えた。
「仮に、オレがこの世界で生まれたのが事実だとしても、今はこの世界に関す
る記憶が全くありません。だから、当然の事ですが生まれた時に付けられた……
と、言われる本当の名前も全く憶えてません。
そして、オレが今名乗っているこの『
だから、今ココでこの名前を捨てるつもりはありません」
そう言いながら、オレはあの時の事を自然と思い出していた。
あの時は、とにかく何とも言えない孤独感と疲労に加えて、空腹そして喉の渇きに耐えながら何とか湖畔の道までは出たものの、しばらく歩いた所で気を失ったんだっけ。
そしてその様子を、たまたま見ていた親切でスッゴク優しい女性に助けられたんだけど、その件は長くなるから別の機会に話す事にするね。
「ふむ、確かにお主の言う事も一理あるのぉ。
それに、これは後に分かる事なんじゃが、実を言うとな……。
今お主が本当の名前を名乗る事は、お主はモチロンじゃがワシらも含めて非常に危険なのじゃ。
それ故、最初にお主の事は『ユウ・カミハラ』と呼ぶ事にするから、お主もそう名乗る様にせよ、と言ったわけじゃ」
え? 本当の名前を名乗ると危険? どーゆー事?
実はオレ、この世界の超重要人物だったりしちゃうわけ?
まぁ、後で分かるって言ってるし、とりあえず『ユウ・カミハラ』でいけるみたいだし、確かにちょっと気になるけど……まぁ今んトコはこれでイイ事にしておこう。
……と、ここまでお気楽な事を考えていたオレだったが、ふと一つの事に気が付いた。オレは残っていた飲み物を一気に飲み干し、深呼吸をして心の中を整え質問した。
「オレがこの世界で生まれたって言う事が事実なのなら、本当の両親はココに居るって事ですよね? 二人は、どこに居るんですか?
会って……ちゃんと二人に会って色んな事を話して、それから……あれ?
ちょっとすみません……」
オレの涙腺は、いつの間にか一瞬でものの見事に崩壊し、無意識の内に両の目から涙が溢れ出ていた。
「大丈夫じゃ。ゆっくりでええ……。
お主の両親の事は、どの道この後話すつもりじゃったが、少し休もうかの。
外の空気でも吸ってくるがよい」
言われるがまま、オレは結構居心地のイイ『隠れ家カフェ』の様な洞窟を出
て、少し歩いた場所に見つけた小さな丘を登ってみた。
あ、ココも居心地がイイや。空はどこまでも青く、そして高かった。
オレはすぐに、この丘のテッペンが気に入った。
さっきまでの涙は、いつの間にか乾いていた。
周囲を見渡すと、山々が連なり豊かな自然が広がっている。
ここは、そんな山の中腹に当たる場所の様で、周囲には草原が広がっておりその脇には沢が流れていた。
目が覚めて、自分が異世界に来た事を認識した時に感じた、どこか懐かしさにも似た妙な気持ち。
今はその感覚が、あの時よりも更に強くなっていた。
この世界で生まれ、生きてきたのが事実ならソレも頷けるってもんだ。
この世界の自然が、オレの心許なくて不安だと思う心をなんだか少し、励ましてくれている様に思えて嬉しかった。
まるで、この異世界全体が『おかえり!』って、オレを出迎えてくれている気がしたのだった。
頬をなでる爽やかな風が心地よい。
そういえば、今は夏休みって言うぐらいだから季節は夏なんじゃないのか?
年々酷くなる一方の日本の災害レベルの暑さとは、エライ違いだなぁ~……ってな事を考えてたんだけど、次第に頭の中はオレの本当の両親――全く記憶はないのだけれど――って、一体どんな人なんだろう?
この一点に支配されていった。
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