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 重箱に紅白の蒲鉾を並べてゆく。見栄えも考えて丁寧に。

「そこにな、このサトイモも並べてや。そうそ、ニンジンもお願いな」

 柔らかく煮られたサトイモに、梅の花に切られた赤と橙のニンジンだった。祖母にしか作れない丁寧な形で、きっと味も祖母のもの。私もだけれど母には到底作れそうもないレベルのお節料理たち。祖母は腰を曲げて大量の洗い物をさばきながら、私に指示を出す。

「エンドウも一緒にな。あんた丁寧につけてくれるから助かるわ」

 大晦日のお節づくりは母と祖母を台所へと一日中縛り付けている。祖母は、お祖父ちゃんは何もせん、したらしたで要らんことをする、といつもの文句を五割増しにして、私に手伝えと暗に命じてくれた。拒否権は無いも同然。拒めば呑気に昼寝をしている祖父と同類なのだから。

 母はガスコンロの前に立っている。三人並べば狭苦しく、台所が縮んだみたいに思えてくる。お昼を食べてからずっと手伝わされていたが、重箱に詰めるだけでも既に三時を回っていた。

 けれどもやってみれば案外楽しいものだった。彩りと味を試行錯誤して飾りつける。ただ、祖母の機嫌が悪くなるのも道理と思えるくらいには、腰と肩がすぐに痛くなった。

「文人が手伝ってくれて助かったわぁ。こん子センス良いからなぁ」

 祖母の笑みには妙な明るさがある。微妙に上ずっているような。私もにこやかに振舞う。それ以上は求めない。居合わせた母は横目で心配そうに伺っているような素振りを見せていた。

 都合の良いひとたちかもしれない。こんなときだけ、私のことを僅かに女扱いしているような、そんな気がする。

 けれど、二階でのうのうと寝そべっているだけの祖父を庇う理由があるはずもないし、そうなってしまうとは考えたくもない。

「お祖父ちゃんはまだ寝てるん」

 祖母にも増して、母の口ぶりには相手を詰るような厳しさがある。「お飾りのひとつ付けただけで働いた気になっとんやろう。文人も手伝ってるんに」文句の付け方が細かい。母がそっぽを向いていることを良いことに、私と祖母は目配せしながら「そうなぁ」「ちょっとくらいは起きてきても良いのにね」と同意を示した。祖母の目は『また幸子の愚痴が始まった、そこまで言わんでエエのにな』と呆れと優越――こっそりと秘密めいたアイコンタクトを取って陰口をたたくときの、あの感覚――を伝えてきていた。

 いつからかは忘れた。祖母と私は神経質な母への文句を密やかに打ち明け合うようになってしまっている。祖母からしても自らの娘がやたら潔癖症で真面目すぎる性格をしていることが不思議で、ほとほとうんざりしているらしかった。

 金色の西日が差し込んでいた。母と祖母と、それから私は、愚痴と冗談とが溶け込んだ話に時々笑い声をあげながら、年越しの準備を着々と済ませてゆく。私はその中にいるにも関わらず、冷えた廊下からその様子を見つめている気分だった。

 バランスを保ちながらきっちり重箱に詰めるのは思いのほか難しくて、具材と具材の間にぽっかり空間ができてしまったり逆に折角の料理が溢れてしまったりする。その都度、母が「貸してみ」と手直ししようとする。そうして余計におかしな詰め方になって私と母が首を傾げる。すると祖母が助け舟を出してくれて、巧い具合にお節料理らしく直してくれるのだった。

「昔ぁここにポテトサラダとかも詰めてなあ、幸子がそれが好きでな、エビフライなんかもよお入れとったん。お節作るんは久しぶりやけど、まあ立派なん成ったが」

 感慨深そうに祖母はぼやいていた。出来上がってひと息ついたらすぐに、夕飯の支度に取り掛かった。

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