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 ハルは機嫌が悪かった。仲間だと思っていたリーゼに騙されて利用された事に対して。

しかしリーゼの言う事も理解出来るし、人の怒りという物は時間が経つにつれ薄れていくものだ。しかし、上げた拳はどこかに振り下ろさなければならない。引っ込みがつかなくなったハルはずっとご機嫌斜めだった。

 リーゼは何度も謝ってきた。普通ならハルのように強情だと相手も怒ってしまう事が大半だが、そこはリーゼの方が精神的にずっと成熟しているという事だ。

埋め合わせのつもりだろう、次はハルちゃん好みのイケメンを紹介するから、と言われるが、そもそも中身は男であるハルはイケメンを紹介されても嬉しくないし興味も無い。

 何処でも好きな所に連れていってあげる、何でも好きな事言っていいのよ、とリーゼはハルに過度とも思える位優しくしてきた。

そこまで言われるとむしろハルの良心が痛んでくる。適当な所で手を打たないとお互いに良くない事は分かっている。

 だが好きな事と言われても、ネットゲームはそもそもインターネットが無いし、それ以前に今現在がネットゲームの世界のようだ。

アニメはテレビが存在しないしマンガや小説はあるかもしれないが、生活に必要な最低限の文字しか理解出来ないハルが読んでも楽しめないだろう。

 冒険者になって可愛いヒロインと共に魔物を討伐しながら、魔王を倒し世界の勇者になる。そんな世界を日々夢見ていたが、現実は下流階級で冒険どころか日々の生活で必死だし、ヒロインぽいのは居るが生意気な上に最近は慣れてきて口答えするようになったし、クマやトラのような動物はいるが魔物はいないし魔王もいない。

 ハルはこの世界についての一部しかまだ知らない。ここが王国だという事は、他にも国家が存在するのだろう。この世界はどの位広いのだろうか。冒険はしてみたいものの、冷静に考えると現状では難しい。何も知らないまま何の準備も無いまま冒険に出ても無謀な死を迎えるだけだ。それに冒険する理由も無い。

 この世界へ転生してきてから、生きて居るのに必死で好きな事なんて考えた事も無かった。ハルはだんだん怒っているのではなく、好きな事はなんだろうと考えて険しい表情になっていた。

 好きな事、物というのはやはり生活に余裕がある証拠なんだろう。そして今現在の余裕のある生活はリーゼがやってきたおかげである事は間違いない。

もし、ハルとミアの二人のままだったらどうなっていただろうか。そう考えるとリーゼに感謝する事はあっても非難する事は出来ない。

 結局ハルは「三人で」おいしい食事に行くという事をリーゼにリクエストして、この件は終わりにする事にした。

リーゼはようやくハルが心を開いてくれた事が嬉しいのか、それとも要求が平和的なものだった事が嬉しかったのか、いいわね、そうしましょう、と影の無い明るい笑顔を見せた。

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