可愛らしいフリルのついたピンクのワンピースに白い靴、頭には小さなピンクの薔薇を模った飾りが付いているカチューシャを付けてハルは売春街に立っていた。

正直売春街にろくな思い出が無いし、そもそも娼婦というにはあまりにも少女趣味な服装にハルは気が乗らないのだが、仕事の依頼だというので仕方なく我慢していた。

 通りを歩く男たちは売春街に似つかわしくない恰好のハルに冷ややかな視線を投げている。そんな中で救いなのは周囲の娼婦たちはハルのやっている事を知っていて、協力的な事だ。

 事の始まりはまたもリーゼからで、売春街で起きた殺人について今の売春街の代表者から相談を受けた。

被害者は娼婦の一人で、絞殺され路上に倒れていた。下流階級の女で、もしも犯人が上流階級だった場合、衛兵は殺人といえどもまともに取り合わないだろう。

これが階級社会だといえばそれまでだが、売春街は自分たちの身は自分で守らないといけない。リーゼがハルを襲ったように、治安を乱す者は自分たちで処罰しなければ無法地帯になってしまう。

 ハルは被害者と背格好が似ているらしく、娼婦達より護身術に長けている。なので囮役を引き受ける事になった。

小柄な体格に少女趣味の服装が疑問だったが、そういう趣味の人もいるのよ、とリーゼに言われて転生前の世界にもそういう性癖の世界があった事を思い出した。

自分自身も多少そういう性癖があった事は認めるが、まさか自分が標的になるとは思いもよらなかった。深いため息をついてハルは事件のあった暗い路地裏の付近に立っていた。

 今日犯人が現れるかどうかも分からないのに、数時間立っていなければならない。通りの向かいの建物の窓からリーゼと代表が交代で監視しているし、周囲の娼婦たちもちらちらとハルを見ている。

見世物にされているようで気分が良くないが仕方がない。売春街で問題を起こしたにも係わらず不問にしてもらった立場上ハルは文句が言えなかった。

 退屈そうに空に輝く星を見ていたら、突然背後の細い路地から強く手を引かれ、ハルはバランスを崩して後ろに転びそうになった。

口を手で塞がれ、どんどんと後ろ向きに奥へ引っ張られて行く。ハルは空いている方の手で太ももに隠してあるナイフを取ろうとするが屈めないので手が届かない。

 ある程度奥まで進んだ所で止まり、今度は建物の壁に強く押し付けられた。暗くてよく顔は見えないが、それでもハルはすぐにこの男が誰なのか勘付いた。

ハルが金を奪って逃げた、あの時の男だ。よりによって最悪の相手と出会ってしまった。


「やはりお前か。わざわざワシ好みの恰好をしてくるとはサービスが良いな。今度は金の分に加えて迷惑をかけられた分楽しませてもらうぞ」


そう言うと男はハルの口と手を力一杯押さえたままブツブツと知らない言葉で何かを言い始めた。ハルは空いた方の手で思い切り男の腹を殴ってみたが、踏ん張れないうえに脂肪が厚くて効果が無く、前回と同じように足で股間を狙ってみるが体が密着しすぎて思うように狙えない。

 男が謎の文言を言い終わるとハルの足元から植物の蔓のような物が猛烈な勢いで生えてきて、足に絡まり体を這ってきて両腕も縛り付けハルの自由を奪った。

魔術が使えるとは想定外だった。これではハルお得意の回避術は意味が無い。ハルは心底恐怖に怯え、表情は硬く強張っていた。それが却って男の興奮を増長する事になる。


「少女が怯える表情はたまらんのう。更に気持ちよくさせてやるぞ」


男はそう言って手でハルの首を絞めてきた。そしてもう片方の手で服の上から下半身を弄る。呼吸が出来ずハルは苦痛に顔を歪めていた。


「苦しむ姿がまた良い。苦痛に歪むお主は最高に美しいのう」


荒い息を吐きながら、そう言って男は顔を舐めてきた。ハルは何とか手足を動かそうとするが蔓がしっかり絡まっていて動けない。

 と、突然首を絞める男の腕に氷の刃が突き刺さり、男は叫び声をあげ痛みでハルの首から手を離した。


「お楽しみの所お邪魔しますわ」


少し離れた場所に灯りを持ったリーゼがようやく現れた。

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