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「この間の困った子たちを追い返したお店のオーナーさんから、お礼にカフェに招待受けたのだけど、どうする?」
午後のおやつの時間、三人でお茶を楽しんでいるとリーゼは不意にそんな話をし始めた。何故に突然カフェなのか不思議なのだが、どうも三人で問題を起こす集団を追い出した秘密クラブのオーナーはカフェも経営しているらしい。リーゼによると超高級店なのでなかなか行くことは出来ないし、折角なのでどうかと言う話だ。
「行く!」
ミアは突然立ち上がって全身の力を込めたのかと思う程の大きな声を出した。ハルは隣であまりの大声が出たので、驚いて手に持っていたリーゼの手作りスコーンを思わず落としてしまう。
魔術学校に通っていた頃のミアは、放課後同級生たちがお茶や買い物を楽しんでいる間、いつも一人図書館で過ごしていた。
友達とカフェへ行ったりする事が羨ましくなかったといえば嘘になる。だが行きたくても行けなかった。
友達と言うよりもはや家族である二人と一緒にカフェに行ける事は願っても無い事だ。ミアはリーゼの話に大きな目を輝かせていた。
そんなミアの姿を見てハルも諸手を挙げて賛成した。しかし、約束の報酬も支払って貰い、更に超高級カフェにご招待とは随分と気前が良い話だ。
このオーナーさんというのは、リーゼの元パトロンの一人らしい。娼婦からはとうに引退しているのだが、未だに気を引こうとしているようだと、リーゼはいたずらっぽい笑みを浮かべている。この前の店での出来事といい、つくづく底の知れない女だとハルは少しリーゼの事が恐ろしく感じた。
日が変わり、もはや快適とは言い難い強さの日の光が差す午後に、三人は連れ立ってお誘いを受けたカフェに向かう。
先方が馬車を用意してくれるとの事だったが、王都外地域に豪華な馬車が現れたりしたらちょっとした騒ぎになりそうだと、リーゼは王都内に入った所で待っていてもらうよう依頼した。
王都内で待っていた馬車は天井はもちろんドアが付いていて、黒いボディーに無数の金の装飾が施してある、王都内でもとても目立つ物だった。中流階級地域でもなかなかお目にかからないような馬車で、周囲の視線を感じ乗り込むのに気恥ずかしさすら覚えるほどだった。こんな馬車を寄越す男を惑わせる女は、豪華な馬車に一つも動揺せず、涼しい顔をしながら外の景色を眺めていた。
馬車は石畳の道をゆらゆらと揺れながら進み、王宮の傍を抜けて北側の地域に入った。
王宮の南側は所狭しと背の高い建物が並び、人通りは多くいかにも都と言った風情なのだが、北側は人通りも多くなく、庭付きの大きな建物が並ぶ閑静な地域だった。
シャーゲル家は王宮の西側にあり、魔術学校は南側にあったため、ハルもミアも初めて来る地域だ。
大通りから少し入った細い通り沿いに目的のカフェがあった。小さな庭の付いたこぢんまりとした建物で、玄関に目立たないような小さな看板が掲げてある。まさに知る人ぞ知るといった風情だが、目の前に王宮が見える程に近い。立地からして超高級だ。
馬車を降り小さめの鉄柵の門を抜けると、キラキラと輝く緑が眩しい、よく手入れされた綺麗な庭に白い円卓が三つほど置かれている。
だが、その円卓の席には瀟洒なお店には些か不釣り合いな屈強そうな男が座っている。金色のミディアムストレートに青い瞳の男は、入ってきたハルたちをそれとなく観察しているようだった。
しかし、男はリーゼを見つけて思わず立ち上がった。リーゼも男に気付いて立ち止まる。
「あら、お久しぶりね」
リーゼがにっこりと笑うと、男は胸に手を当て軽く会釈をした。
この男と少し話をして行くから先に入っていてね、とリーゼに言われ、ハルとミアは二人の不思議な様子を見つつ店の扉を開けた。
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