12 リーゼ

 私には四歳年下の妹がいた。とても可愛い妹で、私と違い頭も良くて運動も出来て、品格も備わっている自慢の妹だ。

きっと将来は立派になるだろうと私は確信していた。この国初の女性の最高議会議長だって妹なら夢じゃないはず。

騎士団長にもなれるかもしれないし、魔術院長になれるかもしれない。

それとも、もっと広い世界へ羽ばたけるかもしれない。

 私と妹はとても仲が良く、いつも何処へ行くにも幼い頃から手を繋いで一緒だった。

遊ぶのもいつも一緒だった。王宮でかくれんぼをして怒られたこともあったし、お庭に勝手に穴を掘って怒られたり、騎士団長だった叔父さんの鎧に落書きして怒られたりもした。

二人で王都を探検しようとして、迷子になって二人で泣いた事もあった。

おやつもいつも一緒。本を読むのも一緒。お風呂に入るのも一緒。学校へ行くのも一緒。

 ずっとずっと一緒だと思っていた。このまま大きくなって、大人になって、おばあちゃんになっても。

 でも、妹が九歳になったばかりの頃、異変が起こった。

妹と私は同じ部屋で一緒に寝ていた。いつもと変わらない夜だった。

ところが、ぐっすりと寝ていたはずの妹は突然大声で叫び出し、部屋を飛び出していった。

あまりの大声に驚いて私は目を覚まし、妹の姿を探したのだが見当たらない。

私は眠い目を擦りながら部屋を出ると、部屋の外の廊下でメイドさんと揉み合う妹がいた。

 妹は叫び喚き散らし、今まで見た事のないような恐ろしい表情をして、妹を落ち着かせようとしているメイドさんの腕に噛みついていた。

信じ難い光景に茫然と立ち尽くす私。騒ぎに気付いたのか他のメイドさんや執事さん、父と母もその場に現れる。

 大勢の人に取り押さえられる妹。母は私に気づき、きっと怖い夢でも見たのよ、お部屋に戻って寝なさい。と言って私を無理矢理部屋に戻した。

その夜は母が一緒に寝てくれたが、妹は戻って来なかった。

 次の日に、妹は私と一緒に学校へは行かなかった。でも私が学校から戻って来ると部屋には妹がいた。

昨晩一体どうしたのか聞いてみたが、何も覚えていないと言われた。そこにはいつもの可愛い妹が居た。

 しかし、家族みんなで夕食を取っている時に、妹は突然立ち上がり叫び声を上げながら食事が乗ったままの食器を闇雲に投げ始めた。

慌ててメイドさん達が取り押さえようとする。妹は悪魔が居る、死神が居ると騒ぎ、その顔は蒼白で恐怖に怯えていた。

私は執事さんに部屋に戻るよう促された。私は何が起きているのか分からず、恐怖で足元がふらつきながら部屋に戻った。

 そのまま妹は部屋に戻らず、次の日学校にも行かず、私が学校から部屋に戻ったら妹の物が全て無くなっていた。

母は妹は今日から別の部屋に寝る事になったから、と言った。ずっと一緒だった妹が離れてしまうなんて、私は悲しくて寂しくて、その夜は眠れなかった。


 妹が隔離され、監禁されている事を知ったのはしばらく経ってからの事だった。

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