「おばあちゃんは?」


 突然現れた少女はそう言ってきょろきょろと周囲を見回す。年は十二歳前後だろうか、金の髪に赤い瞳をしていた。赤い瞳は人々から忌み嫌われているというカーラの話を思い出した。だが少女の容姿はまだあどけなく、呪いという言葉とは対極にあるように感じられた。

しばらく無人だったこの家の住人だろうか。無断で家の中に入り住み着いた事を謝罪しようとハルヤは立ち上がった。


「おばあちゃんは何処!」


突然叫んだかと思うと、少女の前にナイフのような形をした青白い物が現れ、ハルヤに向かって一直線に飛んで来る。ハルヤは姿勢を低くし間一髪でそれを躱した。


「ちょっと待ってくれ」


そんなハルヤの言葉に聞く耳を持たず、次々とナイフのような物を繰り出す少女。何も無い所にいきなり出現し、真直ぐと飛んでくる。魔術という物だろうか。

ハルヤは人一倍機敏で反応も早いおかげで辛うじてナイフを躱し続ける。しかし話す余裕はない。何か話そうとすると瞬間にナイフが飛んできて言葉を遮ってしまう。

幸いなのはナイフは直進しかしないという事だった。そしてハルヤが躱し、狙いが外れたナイフは背後の壁に突き刺さった後、水になって消える。

 しかしこのままでは埒が明かない。ハルヤは何とか話をしようと隙を伺っていた。


「おばあちゃんはここにはいない」


ハルヤが必死でそう伝えると、少女の魔術が止まった。少女は肩を震わせ、俯いた。

ようやく攻撃が止まったので、ハルヤはゆっくりと注意深く少女の方に近づきながら話を続けた。


「俺がこの家に勝手に入ったのは謝るよ。でも、俺がここに来て十日位の間には誰も来なかったんだ」


そう説明すると、少女は急に大声で泣きだした。そして叫びながらハルヤの方に手をかざす。ハルヤは直感的にその動作が魔術の物だと感じて後退りして距離を取った。

 それまでとは違い複数のナイフが眼前に現れ、次の瞬間ハルヤの目の前に迫ってきた。咄嗟に左へ身を翻すが、さすがに全部は躱せずハルヤの右腕にナイフが刺さった。

痛みが右腕に走り、出血してきた。ナイフは突き刺さった後すぐに姿を消す。ハルヤは左手で右腕の傷口を押さえた。そうしているうちに次の攻撃がやってきて、全部は躱せない事を悟ったハルヤは、なんとか急所だけは外すようにと必死に避ける。次は左太ももに痛みが走り、刺さりはしなかったが掠ったようだった。

ハルヤは身軽で攻撃を躱す事は得意だった。しかし攻撃する手段がない。いや、攻撃する手段がたとえあったとしても、この少女を攻撃する気にはなれなかっただろう。

 痛みに耐えながらもなんとか間合いを詰めようと前進するハルヤ。

このまま続けているといつか自分が殺されてしまう。少女には冷静さが失われていて、ハルヤが倒れるまで攻撃を続けそうだ。なんとか力ずくでも攻撃を止めさせないといけない。

 しかし、ハルヤが少女を取り押さえるまでも無く、次の攻撃は来なかった。しんと静まり返った家の中に絶叫が響く。


「おばあちゃんを返して!」


少女はそう叫びながら泣き崩れた。その様子を見たハルヤはゆっくりと少女に近づいて行き、少女の眼前でしゃがんだ。


「俺が悪かったよ。おばあちゃん、一緒に探そう」

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