4 ミア
この学校では魔術は授業中、先生がいるとき以外は魔術を使っちゃいけない。そうしないと学校中滅茶苦茶になるから。
でも、もうそんな事はどうでもいい。悲しみと絶望の底に叩き落された私の頭は真っ白だった。
私の手の中のぬいぐるみはもう跡形も無く黒い粉のようになってしまった。手の中から優しい感触が消えてゆく。手に残ったのは黒い燃えカスと絶望だけだった。
私の背後からは大笑いが聞こえる。沢山の罵る声が聞こえる。
「ザマ見ろ」
「ゴミが燃えてスッキリしたわ」
「臭い臭い」
「コイツも燃えちゃえばいいのに」
「アウレリアさんに盾突くなんて愚かね」
「ぬいぐるみに必死になるなんてキモいやつ」
私は何も考えず、声のする方を振り返って手をかざした。
沢山の氷で出来た鋭い刃が私の前に現れる。これが私の魔術。空気中の水分を任意の形に凍らせる事が出来る。そしてその刃はアウレリア達に猛スピードで向かって行く。大笑いしていた沢山の顔は一瞬で全て恐怖の表情へと変わった。
次の瞬間、彼女たちが身を守る間も無く、氷の刃は彼女たちの体のあちこちに突き刺さり、引き裂く。悲鳴が聞こえ、彼女たちは全員その場に崩れ落ちた。教室の床には沢山の血が流れ、絶叫が渦巻く。助けを乞う声、恨み言、呪いの言葉、悲痛な叫び。
突然我に返った私は、その光景を見て、その場から走り出した。もうだめだ、全て終わった。長い時間我慢してきた事も全部無駄になった。
私は大声で泣きながら、教室を、学校を飛び出して走った。涙で前がよく見えない。沢山の人にぶつかった。でも、そんな事を気にしている余裕なんてない。ただただ、おばあちゃんの所に帰りたかった。
学校からおばあちゃんの家までは大分遠い。学校はこの街の中央、王宮のそばにある。おばあちゃんの家は街の外側にあった。
ずっと無我夢中で走っていると、いつの間にか日は落ちて周囲は暗くなり始めていた。足が凄く痛くなって、途中から走れなくなった。それでも泣きながら足を引き摺り歩き続ける。
ようやく、おばあちゃんの家に戻ってきた。おばあちゃん悲しい顔するかな。家の扉に手をかけるとそんな事を思い、家に入る事を躊躇してしまう。
でも、もう私には行くところが無い。学校にも寮にも戻れない。そっと扉を開けて家の中に入った。
「ただいま」
私は俯いたまま力なくそう言った。おばあちゃんの顔を見るのが怖い。おばあちゃんを悲しませるのが怖い。
でも、おばあちゃんは返事をしてくれなかった。顔を上げると、おばあちゃんは家の中に居なかった。
代わりに、そこには見知らぬ女が居た。銀の長い髪に翠の瞳の小さな女。女は私を見て驚いた顔をしていた。
「あなた……誰」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます