3 ミア
私の唯一の友達はおばあちゃんがプレゼントしてくれたクマのぬいぐるみ。私が家を出て寮に入る事が決まった時に、一人じゃ寂しいだろうから、と言って買ってくれた。大切な友達。
子供っぽいとか言われるかもしれないけど、抱いて寝ると安心する。辛くて泣いた日も落ち着いて寝る事が出来る。
大きな茶色のクマ。ずっと一緒だから大分汚れてしまったけれど、それでも決して離さない。
本当はいけないのだけど、学校にも密かにバッグに入れて持って行く。そうしないと辛いとき、悲しいときに慰めてくれる人がいない。
お昼休みはいつも校舎の裏の誰もいない所で一人で過ごしている。お昼ご飯を一人で食べて、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。ぬいぐるみを取り出して抱いていると安心するから。一人でも辛くないから。おばあちゃんが励ましてくれているような気がするから。
いつも通りお昼休みにバッグから出そうとしたら、今日はバッグの中にぬいぐるみが無い事に気づいた。
入学以来毎日一緒だった。寮に忘れるなんて考えられない。朝から今までバッグから出した覚えなんて無い。血の気が引いた。盗られたんだ。
慌てて走って教室に戻る。息を切らしながら教室に入ると、そこにはぬいぐるみを持ったアウレリアがいた。
「返して!」
私は全身の力を込めて叫ぶ。アウレリアは私の存在に気づいて、にやりと笑った。
「この薄汚れたぬいぐるみがそんなに大切なのかしら」
そう言ってぬいぐるみを振り回す。周囲の彼女の取り巻きはその様子を大笑いしている。ぬいぐるみは千切れそうで苦しそう。私の目には涙が溢れてくる。
「返して!お願い!」
そう必死で懇願しても、相手はその様子を面白がるだけで訴えは届かない。
「このぬいぐるみ臭いわ。呪いの臭いがする。誰の臭いかしら」
そう言ってアウレリアは私をあざ笑う。周囲取り巻きも私の方を見てあざ笑う。
私はぬいぐるみを取り返そうとアウレリアに飛び掛かった。しかし、彼女はあっさりと私の手を躱す。それを見た取り巻き立ちは代わる代わるに私を小突いた。
嘲笑と罵詈雑言が飛び交う。でも私はそんな事はどうでもいい。ただ、ぬいぐるみを取り返したいだけ。
何度もアウレリアに飛び掛かろうとしていると、彼女は突然ぬいぐるみを放り投げた。離れた場所の床に落ちるぬいぐるみ。私はぬいぐるみを取ろうと必死に駆け寄った。
でも、ぬいぐるみは私の目の前で突然燃えた。魔術で。
誰かの魔術でぬいぐるみに火がついて、瞬く間に燃えてしまった。私は必死に火を消そうと手で火を払おうとした。物凄く熱くて手が痛い。でもきっとぬいぐるみはもっと苦しいに違いない。
だけど間に合わなかった。火は消えてもぬいぐるみは黒く炭のようになってしまい、手で持ち上げようとするとボロボロと崩れ落ちた。
私はその黒い燃えカスのようなぬいぐるみを胸に抱いて泣き叫んだ。私の唯一の大切な友達。おばあちゃんに貰ったかけがえのない友達。
ぬいぐるみはボロボロと崩れて私の腕の中から零れ落ちた。
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