17

 目を覚ますと、隙間からの光は赤みを帯びて弱々しくなっていた。

ハルヤは立ち上がり、扉を少し開けて外の様子を見てみると、すでに日は傾きかけている。

お腹が空いた。喉も乾いた。思い返せば朝食を取って以来飲まず食わずだ。

しかし現金を持っていないハルヤは買い物が出来ない。

ハルヤは袋からアクセサリーの入った箱二つを出して布に包んで外に出る。

ここに来る途中の王都内に宝飾店があるのを見かけていた。

そこに行けば買取してくれるかもしれない。そこでアクセサリーを換金して何か食べよう。

 ローブで顔を隠しながら足早に歩き、王都内に入って少し進んだ所にある宝飾店を見つけた。

大きなガラスで出来たショーウィンドウには煌びやかな宝飾品が並ぶ。

扉を開けると「カランカラン」と音がした。

店内には複数のショーケースが並べてあり、様々な色の宝石が並んでいる。

すぐに店の奥から頭頂部が薄くなった小太りの男が出て来た。


「買取をお願いしたい」


ハルヤは店主のいるカウンターの所へ行き、包みから小さな箱を一つ出す。

黒いローブに身を包み、顔も見えない程深くフードを被っているハルヤを店主は訝しげに見ながら、小さな箱を受け取り蓋を開けた。

店主は箱の中にあるイヤリングを取り出すと、顔の前に持ってきてじっと見つめた。


「これ盗品じゃないだろうね」


店主は明らかにハルヤを怪しんでいた。それもそうだろう。


「貰いものだよ、プレゼントされたんだ」


ハルヤがそう答えても店主は怪訝そうな目でハルヤを見ていた。

店主はカウンターの中から小さなルーペを取り出して、イヤリングに付いた宝石をじっくり眺める。

その様子をハルヤはしばらく見ていたが、意外と長くかかるので店内をきょろきょろ見回したりしていた。

うーん、という店主の声が聞こえたのでハルヤは視線を戻す。


「盗品じゃないよね?」


また同じ事を聞いてきた。そんなに不審なのか。ハルヤは首を横に振った。


「そうだねえ、1000シリグかな」


どうもこの国では通貨はシリグという単位らしい。1000というのは高いのか安いのか見当もつかない。

しかしとりあえず現金が必要なハルヤは、その金額で了承した。


「ついでに、これも見てくれないかな」


ハルヤはもう一つの箱を店主に手渡した。店主が箱を開けるとペンダントが入っている。

店主はそれを見て「おお」と声を上げた。そしてすぐにまた同じ質問だ。


「盗品じゃないだろうね」

「パトロンの男性からプレゼントされたんだよ」


ハルヤは呆れた顔をして否定した。

 店主がペンダントを見ている間、ショーケースの中にあるアクセサリーを覗いてみると、300とか400とか書いてある。

1000という金額はなかなか良い金額のようだ。ハルヤはほっとした。

店主は「ふう」と一息つき、ペンダントを箱の中に収めた。


「これ売るつもりなのかい?」


店主の質問にハルヤは首を横に振った。


「ざっと30000シリグかねえ」


ハルヤは驚いた。この店に置いてあるアクセサリーの100倍の価格だ。


「売るつもりなんてないよ。返してくれ」


ハルヤはそう言ってペンダントの入った箱を取り返した。

 宝飾店を出たハルヤは急ぎ足で王都外縁地区に戻る。

隠れ家に向かう途中でパン屋が香ばしい香りを路上まで匂わせている。ハルヤは吸い込まれるように店内に入っていった。

パンの種類は少ないものの、どれもおいしそうだ。価格は一つ2と書いてある。ハルヤは三つほど皿に取って会計を済ませた。6シリグだった。

最後に瓶詰のミルクを買って隠れ家に戻った。扉をゆっくりと開け、そっと中の様子を覗いてみたが、やはり誰もいない。

外はすっかり日が沈み、薄暗くなっていた。

ハルヤは床に座り、パンを夢中で頬張った。美味しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る